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第770話 魅了

 ぱっと見二足歩行の猫が服を着ている様な見た目の店主の顔に、なぜか付いていたタグらしきもの。

 散々本人から触るな、と言われていたのに我慢できず、ついにタグを引っ張ってしまったシュリさん。

 その結果、引き起こされたのは、何というかその……例えるなら魔法少女の変身シーンを逆再生したような、そんなシーンだった。


 要するに店主が一度、光の繭のようなモノに包まれ、それが解けていったのだ。

 光の帯のようなモノがシュルシュルと巻き取られ、最終的には店主の胸元にある大き目のブローチへと吸い込まれてく。

 その光景はまさしく魔法少女の変身シーンのソレだった。


 後でそのブローチを鑑定したシャーロットによれば、『魔法少女変身セット・試作二号機』とかいう特殊な魔道具らしい。

 ネーミングセンスからして、おそらく過去の迷い人が作ったものだろう。

 なんで魔法少女変身セットが猫の着ぐるみになるのかは謎だけどな。


 さて、そんな変身セットから解放された店主はといえば、人前で着ぐるみからの変身シーンを見られたからか、顔を隠してへたり込んでいる。

 この時点で初めて気づいたんだけど、この店主って女性だったんだな。

 顔は隠されているが、そのプロポーションは中々のモノだった。

 それにオカッパに切りそろえられた黒髪から、ニョキっと生えてるネコミミもGOOD。

 厨房の奥で料理人に徹していなければ、きっと美人ウェイトレスとして人気者になっていただろう。


 ようやく落ち着いたのか、顔を覆っていた手が降ろされ素顔が露になる。

 目鼻立ちは特に気を引くモノでは無かったのだが、その黒い瞳を見ると、なぜか目が離せなくなる。

 全体としてはちょっとスタイルのいい猫獣人なのに、不思議と引き込まれるような魅力があるのだ。


「なるほど、確かに『魅了』されているようだな」

「にゃ~、こんな風ににゃるから、引っ張っちゃダメって言ったのにゃ」

「コントロール出来ない『魅了』っスか……こりゃ、本人としては面倒なだけっスよね」

「その通りにゃ。にゃんか姿を見られるだけでもダメみたいにゃから、あの着ぐるみで仕事していたにゃ」

「すまなかったっス」

「分かってもらえたにゃら、それでいいにゃ。それより、この人をどうするにゃ?」

「コイツか? コイツならちょっと叩けば治る筈だ」

「そうっスねー。むしろ治るまで叩き続けるっス」


 なんだろう? シャーロットとシュリが何やら物騒な事を言っている様な気がする。

 店主さんの一挙手一投足を見逃すまいと全開にした概観視が、視界の端っこで素振りをしている二人の姿を捉えている。

 そして二人が、まるで第七使徒を倒した時の某汎用人型決戦兵器のような、そんな見事なユニゾンで俺の頭にチョップを振り下ろす所まで見届け、俺は意識を手放した。


「完全勝利!!」







「えーっと、つまり店主さんは「シャノワにゃ!」シャノワさんは『魅了』持ちで、普段はあの着ぐるみを着てソレを抑え込んでいると」

「そうにゃ!」

「これって、着てて暑くないんですか?」

「ニャーは暑いのは平気にゃ! それより変なのに絡まれる方が嫌にゃ!」

「なるほど」


 俺が意識を取り戻すと、既に店は閉店の時間だった。

 サンドロさんとスタニスさん達の姿はとうに無く、店内に居るのは俺達六人と店主のシャノワさん、それとウェイトレスでシャノワさんの妹であるシャティーさんの八人だけ。

 ちなみにシャノワさんとシャティーさんは双子らしく、髪の色がシャノワさんが黒なのに対し、シャティーさんが茶虎なぐらいで、あとは色々とそっくりな双子さんだった。

 具体的には二人共ボンキュッボンだな。

 あぁ、妹さんのほうは『魅了』スキルは持っていないってのもあったか。


 二人は色々と苦労を重ね、ようやくこの店が出せるようになったらしい。

 特に大変だったのが例の『魅了』対策だったみたいだけどな。

 結局、サンドロさんの伝手で手に入れた着ぐるみのブローチを使う事で、今の状態になったらしい。

 そんな恩があるなら、ソーセージの量産ぐらい引き受けてやればいいのに。


「それとこれとは別にゃ!」


 左様ですか。

 まぁ、とりあえず二人の紹介はそんなところでいいな。

 大事なのは今、俺達が置かれている状況だ。

 目の前には請求書らしき紙が置かれている。

 金額は……えーっと何々? 金貨一枚? 食事代で金貨一枚分も食ったってことなのか?


「そうにゃ! 今日の分のソーセージが全部食べられたにゃ! このオトシマエには金貨一枚は必要にゃ!」


 金貨一枚といえば、おおよそランペーロ半頭分の買取価格である。

 ガロンさんの屋台で販売している串焼きサンド換算でいえば約五百個分だ。

 俺が気絶している間に、コイツ等は串焼きサンド五百個分ものソーセージを食いまくったのか。


「だけどニャーも鬼じゃ無いにゃ。もしどうしても払えないようにゃら、その『けちゃっぷ』で勘弁してやってもいいにゃ!」


 なるほど……ソーセージが適正価格だったかはさておき、彼女の狙いはこのケチャップだったか。

 そりゃあソーセージとの相性を考えれば、是が非でも手に入れたいところだろう。

 さて、どうしたもんかね。

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