表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
767/1407

第767話 双生児

 シャーロットの魔王騙りに気付いてしまった俺だったが、彼女の名誉(?)を守るためにも気づいていないフリをしておいてやろう。

 もっとも、彼女が偉そうにウンチクを語り出したら、ついつい生暖かい目で見そうだけどな。


 そんな事を考えているうちに、お城から立ち上がった光の柱が消えていく。

 結構長い間あったように見えたけど、実際は一分にも満たない時間だったな。

 消えてしまった光の柱と共に、周りの野次馬達も元の場所へと戻っていく。

 あと何分もしないうちに元の街並みを取り戻すことだろう。


 というか、なんで誰も騒がないんだ?

 王様の住む城から光の柱が立ち上がるなんて、メチャメチャ怪奇現象だろうに、もうすでに何事もなかったかのように振る舞っている。

 それはまるで何かに操られているかのような、あるいは記憶から消し去られたような。

 ひょっとして、あの光の柱に人々の関心を薄れさせるような、そんな効果でもあったのか?

 そんな疑問すら湧いて来る。


 だがそうなると何で俺は覚えているんだ? もしかして迷い人補正?

 称号には持っているだけで効果があるモノもあるって、以前シャーロットが言っていた。

 俺が持っている『巨人殺し(ジャイアントキリング)』の称号も、持っているだけで成長補正やら攻撃力アップの効果があるらしい……正直、体感したことは無いけどな。

 そんな称号効果的なモノが、迷い人の称号にもあったりするのか?


 ……いやいや、まさかね。

 もし仮にあったとしても、「召喚された時の光の柱に惑わされない」って、物凄くピンポイントすぎる効果だろ。

 こんな効果が付くぐらいなら、もっとマシな別の効果をつけて欲しいものである。


 まぁいいや。

 光の柱に対する反応は気になるところだが、それを気にしたところで何が起こるわけでもない。

 あとはせいぜい、勇者とやらが召喚されたっぽいから関わらないようにしよう、と思うぐらいだ。

 それだって俺から何ができるわけでもない。

 むしろ妙なフラグを立てないようにしておくべき……関わらないようにってのがフラグになってそうだ。


 まぁそんな事よりメシの方が大事。

 シャーロットに促され、今度こそ俺達は『猫じゃらし亭』に入っていくのだった。




「よし、じゃあカンパーイ!」


 ガツンガツンと八つの陶器製ジョッキが打ち鳴らされる。

 ジョッキの中身はエールが五のジュースが三。

 この分だけはサンドロさんの奢りである。


 もちろん飲み物以外にもテーブルには食べ物が幾つか並べられている。

 何かの串焼きに野菜炒め、魚の干物を炙ったモノやジャガバターっぽいモノまで。

 テーブルの上に所狭しと並べられている。


 そんな中、やはり気になるのはコイツだろう。

 俺はエールもそこそこに、ソイツにブスリとフォークを突き立てる。

 プツン、という小気味いい音と共にフォークが突き刺さると、そこから肉汁があふれ出す。

 あぁ、もう。これだけで美味そうだと分かる。


 たまらずソイツを口に入れる。

 大ぶりなため、ボキンと折るような食べ方だが、ソレもまた良し。

 あぁ、アツアツの肉汁が口いっぱいに広がる。

 それをエールで流し込めばもう……。


「どうだ? 気に入っただろ? ここの名物『ソーセージ』は」

「えぇ、そりゃあもう」


 何の肉だか分からんが、たぶん豚系の肉だろう。

 皮からあふれる肉汁が最高です。

 茹でたてアツアツを食べるだけでも美味しいのに、エールとの合わせ技があれば何本、何杯でもいけそうだ。


「ショータさん、ショータさん。ちょっとお願いがあるっスよ」

「ん? なんだ? このソーセージはやらんぞ?」

「そうじゃなくて、アレを出して欲しいっス」

「アレ?」

「そう、アレっス。ソーセージにぴったりの赤いアレっス」

「アレか! そうだな。こいつにはアレが無いとな」


 マジックバッグから小ぶりのツボを取り出すと、スプーンで一匙ほどソーセージの皿の脇に掬い取る。

 そうだよな、ソーセージと言えばコイツが付き物だよな。

 俺とシュリは迷うことなくソレをソーセージにつけてかぶり付く。


「なぁ、その赤いのって何なんだ?」


 俺達の様子が気になったのか、スタニスさんを口説いていたサンドロさんが聞いてくる。


「これか? これはとある村で作っているソースの一つ。その名も『トマトケチャップ』だ」

「とまと……」

「……けちゃっぷ?」


 スタニスさんとサンドロさんが、オウム返しに聞き返す。

 まぁ説明するより食べてもらった方が早いか。

 俺は二人にもケチャップを勧めてみる。


「ふーん、酸味がソーセージにマッチしてて美味いな」

「えぇ、それにこの赤みが食欲をそそりますね」


 どうやら王都在住の二人の口にも合ったようだ。

 瞬く間にケチャップとソーセージが消費されていく。


「うーん……こりゃあ……」


 追加で頼んだソーセージを前に、サンドロさんが何やらうなり声をあげる。


「なぁ、このけちゃっぷだったか? コイツはどこかの村で作ってるんだったよな?」

「えぇ、そうですよ」


 厳密には『作り始めている』だし、それすらも確認できてないけどな。


「その村ってのは教えて貰えたりするのか?」

「えーっと……」


 改めてサンドロさんを見る。

 そこにいるのは俺達の仕事を監督していた警備員でもなければ、受付嬢をナンパしているチャラ男でもない。

 このケチャップに商機を嗅ぎつけた、一人の商人がそこに居た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ