第764話 ナンパ
1000pt突破 (`・ω・´)
「ではこちらが報酬の大銀貨六枚ですね」
チャリっとカウンターに置かれた革袋の中身を確認する。
ひーふーみー、たしかに六枚あるな。
「はい……確かに」
「それとこちらが明日の依頼票になります」
依頼票を確認する。
内容は今日と同じ港での人足仕事だが、違いがあるとすれば派遣先が『フベルトゥス号』と明記されている事と、俺達『白銀の旅団』への指名依頼になっている事か。
あ、よく見たら報酬がちょっと上がってるな。
「スタニスちゃんもコレで上がりだろ? これからコイツ等と一杯やるんだけど、一緒にどうだい?」
「サンドロさん、ギルド内はナンパ禁止ですよ?」
俺が依頼票を確認している横から、受付嬢に粉をかけてるなよ。
まぁ、かけられてるスタニスさんもいつもの事で慣れてるのか、軽くあしらっている。
しかしながらその様子は不快なモノをにじませている事は無く、案外まんざらでもなさそうだ。
もしかしたら、アレはアレで一種のコミュニケーションなのか?
俺もマウルーに戻ったらメルタさん相手にやってみ……いや、ダメだな。
メルタさんの事だから、二つ返事でついてきて、シャーロットと二人で俺が破産するまで飲み倒しそうだ。
「な? ちょっとだけ。一杯だけでもいいから。な?」
「うーん、仕方ないですね……サンドロさんの奢りなら、行ってもあげてもいいですよ」
「え? マジ? 奢る奢る。もう何でも奢っちゃうよ」
「何でも? 今、何でもって言ったよね?」
「ちげーよ。俺はスタニスちゃんに言ったの。ショータ達は初めの一杯だけだろ」
なんだろう……この軽薄さといい、なんとなくどこぞの文無しのアイツを思い出すな。
向こうと違って、こっちはちゃんと定職についているだけマシなんだろうけど。
そういや、ヤツはエジンソンにくっついてどっかに行ったみたいだけど、その後はどうなったのかね。
「おーし、じゃあスタニスちゃんも加わったことだし、さっさと行こうか」
「ちょっと着替えてきますので、もう少し待っててください」
「はいよー」
おっしゃー、と意気込んだ矢先に『待った』が掛かったけど、サンドロさんは気にした様子もない。
よほどナンパに成功したのが嬉しかった様だ。
「いやー、お前らがいて助かったぜ。いつもなら断られてただろうしな」
「え? 俺達がいたからスタニスさんも参加したんですか?」
「そりゃそうだろ。お前らと一緒なら少しは安心だろうからな」
「それはまるで、サシ飲みだと安心ではないように聞こえるんですけど?」
「こう見えても人畜無害な方なんだけどなぁ。誓ってもいいが、お持ち帰りなんかしたこと無いんだぜ?」
俺に誓われてもねぇ……誓うんなら本人に誓えばいいのに。
「ま、スタニスちゃんもスタニスちゃんで、お前らと繋ぎをつけたかったんだろうけどな」
「俺達と……ですか?」
「あぁ。お前ら、昨日王都に来たばっかだろ? なのにウチの商会の依頼を受けられる位の実力はあるみたいだし、しかも明日の指名依頼まで受けた程だ。ちょっと目端の利く奴なら、繋ぎをつけようと思うだろ」
「そんなもんなんですかね」
指名依頼はサンドロさんがしたことだし、商会の依頼云々は偶々な気がするんだよな。
でもまぁ何となく褒められている感じがして、悪い気はしない。
俺達の仕事っぷりを認められたわけだしな。
「お待たせしました」
そうこうしているうちにスタニスさんが戻って来た。
うーん、受付嬢の姿では中々のスライムさんに見えたけど、私服がダボッとしているせいか、そうでもないように見えるな。
ワザワザこんな格好でいるってことは、ひょっとしたらあのサイズのスライムさんは、彼女にとってはコンプレックスだったりするかね。
そんな俺のガッカリはどうでもいいな。
スライムさんならシャーロットの褐色スライムさんや、シュリのロケットさん、ベルの大福スライムさんだっている。
あまり愛でる対象を増やしても、その飼い主に怒られるだけだしな。
サンドロさんを先頭に、ギルドを出ておススメのお店までの道を歩く。
すっかり日の暮れた街並みを見ながら歩いて行くと、やがて西部劇に出て来そうなウェスタンドアのお店に辿り着いた。
どうやらここがサンドロさんおススメのお店らしい。
店名は……『猫じゃらし亭』? どっかで聞いた名前だな。
「おー、ここが噂の『猫じゃらし亭』っスかー」
噂? ……あぁ、ここって今朝泊った宿の人に聞いた店なのか。
酒が上手いって話らしいから、ちょっとは期待できそうだ。
どやどやとウェスタンドアを開き中に入っていくと、ネコミミのウェイトレスさんが出迎えてくれる。
「いらっしゃいませニャー。お客様はニャニャ名さまですかニャ?」
「いや、八人だが……おい、嬢ちゃん。そんなところに突っ立ってないで、中には行ったらどうだ?」
「あぁ、すまない。ちょっと外が気になったものでな」
外? 外に何か……って、ありゃあなんだ?
多分、お城からなんだろうけど、光の柱が立っているように見える。
そしてその柱の先にはドデカイ魔法陣のようなモノまで見える。
それはまるで大規模な魔法がお城に向かって発動している様な。
あるいは、
「……勇者召喚」
19/03/08
ウェイトレスのセリフを「~にゃ」から「~ニャ」に修正。
理由については770話にて。(大した理由では無いです)




