第74話 おっちゃんのしょうたい
雑貨屋で時間を潰した俺達は、ネコミミ店主の「買わにゃい客は客じゃ無いにゃ! ミャーも暇じゃ無いにゃ! さっさと帰るにゃ!」の声を受け渋々店を出た。暇そうに頬杖ついてたくせに。
まぁそろそろ串焼き屋も落ち着いた頃だろう。おっちゃんから塩代を回収しないとマジで文無しだからな。今日の宿代すらない状態だ。最悪バックドアを使って飛空艇で宿泊か。
串焼き屋は丁度店じまいしているところだった。おっちゃんがこっちに気が付いたようで、片づけを放り出してやって来た。おいおい、手伝いの人が呆れてるぞ。待ってるからちゃんと片づけるよう言っとく。
「ガハハ、すまんな。ニィチャンの塩のおかげで今日も完売だったぜ」
「大盛況で何よりだ。それでおっちゃんに頼みたいことがあるんだけど……」
「おう、俺に出来ることなら、何でも言ってくれ。まぁその前にコイツを渡しとくぜ」
おっちゃんが巾着袋をよこした。借金の催促の様で言い出しにくかったから助かった。一応失礼だと思いつつも中身を確認する。ひーふーみー、銀貨が五枚か。いや銀貨にしては大きいから大銀貨かな。
おお、結構いい値段になった。一昨日の拳大の塩で銀貨一枚だったから、あの甕だとせいぜい大銀貨三枚位だと思ってた。
「いいのか? こんなにたくさん」
「おう、思ってた以上にいい塩だったからな。あとはパンで挟んだ奴のアイディア料だな」
「あぁアレか。まさか串焼きサンドがあんなに人気になるとはね」
「串焼きサンド? おお、そりゃいい名前だな。もらってもいいか?」
「ん? まぁ別にいいけど」
サンドってサンドイッチの略だよな。あれって人名が由来だったんだっけか。異世界に来てサンドイッチさんが活躍するとは……ま、いっか。
「それはそうと、おっちゃんはコイツの解体できる?」
「お? こりゃぁフリュトンか。まぁ出来るっちゃ出来るが」
「おお、流石、おっちゃん! じゃあお願いしてもいい?」
「おう、任せとけ! つっても流石にここじゃできないから、オレんちでやることになるがな」
「それぐらい大丈夫。な?」
「ああ、問題ない」
後ろに控えてたシャーロットにも確認する。というかなぜ彼女は付いてきてるんだろう? まぁいいけどさ。歩き出したおっちゃんの後についていく。
「そういや、まだ名乗ってなかったな。俺はガロンってんだ」
「ショータです」
「シャーロットだ」
「おう、ショータにシャーロットだな。ところでお前ら今日の宿は決まってるのか?」
「いや、決まってないな」
「私もだ」
「じゃあ折角だからオレんちに泊まってけよ」
「いや、ただでさえ解体してもらうってのに、そこまで甘えるわけには……」
といいつつも、宿代浮いてラッキーって思っている自分がいる。
「いいっていいって。若ぇんだから気にすんなよ。な?」
「そうですか? じゃあお言葉に甘えて……」
「あぁ、泊めてもらうとしよう」
「おう、二名様ご案内だな。ガハハ」
そういっておっちゃん、もといガロンさんが案内してくれたのは、一昨日泊まった宿屋……の真向かいにある宿屋だった。うん、あの人形持った幼女までいるし。
「あ、父ちゃんおかえりー。そっちはお客さん?」
「あぁ宿がねえっつーから連れてきた。かーちゃんの様子はどうだ?」
「元気元気。でも元気すぎて、さっきも掃除しようとしてたから止めといたよ」
「あぁ、大事な時期だからな。お前も無理させないようにな?」
「わかってるよ~」
「おう、頼んだぞ。ん? どうした? そんなとこに突っ立ってないで、さっさと中に入れや」
「えーっと……ガロンさんって串焼き屋の店主じゃなかったの?」
「ありゃ副業だ。こっちが本職よ」
そういってガロンさんは宿屋の看板「辺境の宿屋 ガロン」を指さすのだった。




