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第735話 王都(の城門前に)着

 王都の城門までの距離はソコソコあったが、緩い下り道のお陰か割とすぐに着いた。

 途中、歩くのに飽きたシュリがフロードを使い、そのまま坂道を下るスケボーの様に滑走していった。

 まぁ、加速がつき過ぎて途中でコケたけどな。


 事前に『完全なる身代わり』を使っていなければ、骨の一本や二本は軽く折れていただろうコケ方だった。

 いや、あのコケ方だと骨折程度で済めば御の字かもしれん。

 重力があるんだから、下っている限り加速し続けるのは当然の事だろうに、なぜ気付かなかったのだろうか。


「スキーや自転車なら自分で速度が調整出来るっスけど、ブレーキがそもそも無いって、あんなに怖かったんスね」


 今までは平地でしか使っていないから、加速し続ける恐怖ってのに気付きにくいのかね。

 アホなことをしでかしたシュリには坂道のフロードの禁止を申し付け、大人しく歩くように厳命しておいた。

 そんな一幕を挟みつつ、ようやく城門へと到着したのだが、そこからが結構長かった。


 さすが王都と言われるだけあって、その広さは国内随一。

 それは人口の多さにも繋がり、人が多ければそれだけ周りからも人を引き付けるようになる。

 その人達を目当てに商人たちが集まるようになり、商店が立ち並ぶと更に人が集まってく。

 そんな自然と賑わっていくスパイラルが生まれていた。


 つまり、城門前がメッチャ混んでいるのだ。

 マウルーも朝夕などの時間帯だと混みあう時もあるが、時間帯を外せばそんな事は無かった。

 ところが王都の城門前は外している筈の時間帯にも拘わらず、王都に入る人々が行列を成している。

 その列はまるでテーマパークの入場待ちをしているかのよう。

 王都という夢の国に入るための行列と思えば、あながち間違っていないな。


 とりあえず俺達も行列の最後尾に並ぶ。

 結構並んでいるし、これからどれ位時間がかかるかは未知数。

 そういった意味では事前に昼食を済ませて正解だったのかもな。

 あの時、食事の準備をしてくれたアレク君達に感謝。




 …………まだかな?

 列は進んでいる様なそうでもない様な。

 城門はまだまだ先の為、王都に入るにはもうしばらくかかるだろう。




 …………まだ待つのか?

 列は少しだけ進んだけど、そのちょっと空いた隙間に割り込もうとしたヤツがいたらしい。

 その騒動の対応で受付の人手が割かれたらしく、受付のスピードが格段に落ちたようだ。


 なお、割り込もうとしたヤツは周りの連中から袋叩きにあったらしい。

 暫くすると俺達の前にボロ雑巾と化した男がピクピクと倒れていたが、誰も助けようとしない。

 むしろ蹴り飛ばす奴もいるほどだ。

 酷いように思えるが、命が軽いこの世界だと生きているだけマシなんだろう。

 とりあえず俺も踏みつけておいた。




 …………そろそろか?

 ようやくと言っていい時間を経て、城門での受付の様子が見えて来た。

 その様子はテーマパークの入場口というよりも、空港の入国審査のように見えた。


 マウルーでも見た犯罪者――厳密には邪な考えを持つ者――だと赤く光る水晶玉での審査は元より、王都に来た目的やら武器の所持など、事細かな質疑応答がなされていた。

 同じ首都でも魔王国の首都ディルマでのソレと比べると、かなり厳重に思えるほどだ。


 いや、国家元首住まう都市でのセキュリティと思えば、こちらの方が普通なのか?

 ディルマの時は、冒険者ギルドからの依頼票があったとはいえ、ほぼ無審査で入れたからな。

 アレを基準にしてはいけないよな。



 …………やっとか。

 俺達の前の列には数えられるほど。

 昼過ぎから並んでいたけど、既に空が赤く染まり始めようとしている頃合い。

 それ位の待ち時間を費やし、ようやく俺達の番が回って来るようだ。


 受付の人もヘロヘロになっている。

 これまで仕入れた噂話からすると、どうやら今日は担当の人が少なかったらしい。

 いつもならもっと受付の人がいるのだが、今日に限ってシフトが悪かったのか、あるいは急病人が出たのか、はたまた新人が連絡も無しにドタキャンしたか。

 とにかく人手が足りなかったらしい。


 それだけでなく貴族専用のゲートでも揉め事が起きたたらしく、まさしく『てんやわんや』という言葉がピッタリくるような状況だったらしい。

 なんというか……「お疲れ様」とつい声をかけたくなるような、そんな顔をしていた。




 よし、この前の人が終われば俺達の番になる。

 後ろを振り向くと、まだまだズラーっと並んでいるし、いくら何でもこの状態で閉門って事も無いだろう。…………ないよな?


 長かった行列だが、その苦労が報われる瞬間が来た。

 もう暇すぎてアッチ向いてホイは飽きるほどやりまくったし、他の暇つぶしもやり飽きた。

 シャーロット達が一緒にいてくれたから耐えられたけど、俺一人なら回れ右して帰っていただろう。


「お待たせしました。えーっと、六人? そちらの人はフードを取って貰えますか?」

「あぁ、すまない。これでいいだろうか」

「ハイ結構です。では審査を始めますね」


 シャーロットめ。

 前に並んでいた連中も、審査の時にはフードを取るように言われてただろうが。

 なにが「耳目を集めるから、フードをしておこう」だ。

 さっさと入りたいのに、余計な手間をかけさせんなよ。

 まぁ彼女がフードを取った瞬間、周りの連中が色めきだったので、余計なトラブルを避けるためにもフードをしているのが正解だったんだろうけど。


「――それで、グアラティアへの目的は?」

「ギルドの依頼で、荷物の配達を……お?」


 不意に、まだ日が落ちるには早い時間なのに、急に薄暗くなる。

 思わず空を見上げると、なにかが太陽を遮っているようだ。


「あぁ、アレはフベルトゥス商会の飛空艇ですね。王都でも有数の商会だけあって、流石の大きさですよね」

「あれが……飛空艇……なのか……?」


 それはまさしく空飛ぶ帆船。

 三本マストに風を受け、雄大と空を飛んでいた。

 アレがこの世界における標準的な飛空艇ならば、ダンデライオン号がどれだけ異常なのかも納得であった。

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