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第734話 馬車が無い!

 よし、昼飯も食ったことだし、今度こそ王都に辿り着くぞ!


 ……って、あれ? 乗り込むべき馬車が無いぞ?

 さっきハマルをくびきから解放して、そのまま置いてあったはずだよな?

 なのにちょっと昼飯を食っている間に、いつの間にかその姿が無くなってるんですけど?


 は? まさか盗難?

 いやいや、流石にそれはシャーロットが見逃さないだろ……見逃さないよな?

 盗難じゃないとすると……馬車が勝手に移動したとか?


 御者を教えてくれたザルゾさんが「馬車を長時間停車させる時は必ず輪留めをしろ」って言ってたな。

 一見、平らそうに見える場所でも実際は傾いていたりするので、サイドブレーキ代わりの輪留めをしておかないと、気が付いたら大事な馬車が谷底へ……なんてこともあるらしい。


 そんな注意事項が一瞬、脳裏をよぎる。

 えーっと……俺がハマルを解放しに行った時、馬車に輪留めは付いていた……よな?

 ハマルの装具を外すことに集中してて、そっちの方は覚えていないんだよな。


 ……え? 俺、やっちまった?

 チート持ちが能力をひけらかす様な「やっちゃいました?」とかじゃなく、ガチの方で。


 慌てて周辺を見回す。

 馬車にハンドルは無いのだから、基本前後にしか移動しない。

 つまり、勝手に移動したとしたら前か後ろに進んでいる筈。


 後ろ……無い。

 前……無い。

 は? 何で無い?


 もう一度後ろを見る……やはり無い。

 当然、前も。


 ひょっとして、いきなり地面が陥没した?

 可能性はゼロではないが、だったら陥没跡があるよな?


 いかん、落ち着け。

 パニックになって思考がおかしい。

 深呼吸して素数を数えよう。


 ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。


 そして素数だ。

 素数とは自身の数と『1』でしか割る事の出来ない、孤独な数字。

 愛と勇気だけしか友達がいないヒーローよりも孤独なのだ。


 でも、孤独な数字って割には『1』が絶対に付いてくるけどな。

 素数で無い『1』の方が自身でしか割れないから一番孤独だと思うんだけど、あの神父はその辺、どう思ってたのかね。


「どうした、ショータ? そんなところでボーっとしていないで、そろそろ出発するぞ?」

「シャーロット! 大変だ! 馬車が! 馬車が――」

「馬車? 馬車なら私のマジックバックに仕舞ってあるが、それがどうした?」

「……は? マジックバック?」

「だから、馬車ならマジックバックに仕舞ってある、と言っている」


 えーっと、理解が追い付かない。

 とりあえずもう一度深呼吸するか、ヒッヒッフー。


「なぁ……偶にその変な呼吸を見かけるが、何の意味があるんだ?」

「変な呼吸とは心外だな。これはラマーズ法といって、出産時にとても効果的な呼吸法なんだぞ?」

「ほう……そうなのか? だが、出産時の効果的な呼吸法を、なぜ男のお前がやっているのだ?」

「なぜ……って、そりゃ落ち着くために決まってるだろ」

「………………? スマン、良く聞こえなかったみたいだ。もう一度言ってくれ」

「だから、落ち着くためにやっている、って言ってるだろ」

「……その『らまーずほう』とやらは、妊婦を落ち着かせるための呼吸法なのか?」

「知らん! なんか出産時はこうするとイイって聞いたことがあるだけだ」

「……そうか。セーレにも教えてやろうかと思ったが、やめておくか」


 なんか胡散臭いものを見る目で俺の事を見つめるシャーロット。

 そんな風に見られると、変な扉を開きそうになるな。


「えーっと、何の話だっったっけ? あぁ、そうだ、馬車だ。馬車の話だったな」

「ようやく落ち着いたか。ここから先は徒歩になるから、馬車は仕舞ったぞ」

「徒歩? 王都まではもう少しあるのに徒歩?」

「あぁ、そうだ。徒歩で向かうぞ」


 なぜに徒歩?

 俺が疑問に思っているとソレが伝わったのか、シャーロットが歩きながら説明してくれた。


 その説明によると、ここから先が徒歩なのはハマルが原因らしい。

 といってもハマルが馬車を牽けなくなったとかではなく、ハマル自身に問題があるのだ。


 そもそもハマルはハイドレイク種という、一般的に馬車を牽かせているランドレイク種とは異なる種族である。

 その能力は馬車を牽くことだけでなく、自身と騎乗している者を含めた光学迷彩を使う事が出来る、とても優秀なトカゲなのだ。

 その能力ゆえ、場合によっては国などに召し上げられてしまう場合もある。

 魔王国の首都ディルマでもその危険性はあったのだが、そこは元魔王様とセーレさんの威光があったおかげでスルーされていたらしい。


 ところが今向かおうとしている王都は、彼女の権力も威光も関係ない場所。

 そんなところにノコノコとハマルを連れていくのは、まさしく飛んで火にいる夏の虫。

 光学迷彩で普通のランドレイク種っぽく偽装したとしても、見る人が見ればアッサリ見破られるため、初めから小さい状態にしておいた方がいいらしい。


「なるほど。だから馬車を仕舞ったって訳か」

「あぁ、ハマルが使えない以上、馬車があっても邪魔なだけだからな」


 そう言う事なら仕方ないか。

 丘から王都の城門までソコソコの距離があるけど、頑張って歩くとしよう。

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