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第726話 スィーツ談義

「そういえばアレクも言ってたわね。『ボクたちが砂糖を安価で手に入れられるのは、全部聖女様のお陰だ』って。それがアイさんって人だったのね」

「その通りっス。アイの名前は残ってなかったのはちょっと残念っスけど、聖女としての彼女の名前が残っていれば、それで十分っス」


 そう言ってシュリは残ったオレンジの房を丸ごと口に入れる。

 オレンジが無くなった彼女の前に、そっと剥いたオレンジを置く。


「砂糖を残した聖女アイか」


 虎は死して皮を留め、人は死して名を残す。

 聖女は死して砂糖を残した。

 なら、俺が死んだときは何を残せるのだろうか。


「あたしとしては砂糖よりも本人が残ってて欲しかったっスけどね」

「人の身で五百年は長いだろうなぁ」

「そうっスねー。まさか目が覚めたら五百年も経ってたとは、浦島太郎もビックリっス」


 浦島太郎は竜宮城から戻ったら三百年経過していたが、シュリは氷の中で五百年だ。

 白髪の老人にならなかったけど、それ以外は浦島太郎以上の過酷さだよな。


「ねぇ、そんな事よりショータ達の世界のスイーツを教えてよ。どんなのがあったの?」

「あたしとアイの思い出がそんな事扱いされたっス?!」

「いいじゃない。過去は過去よ」

「……まぁそれもそうっスね」


 納得するのかよ!

 まぁ正直、会った事もない人との思い出話を延々と語られても、ただ相槌しているしかなかったから助かるけど。

 多少の思い出話はその人の過去を知るのにいいけど、それでも限度ってもんがあるよな。


「あたし達の世界のスイーツっスか……」

「出来ればアレクが再現できるのがいいわね。話だけ聞いたら実物が欲しくなるだろうし」

「注文が厳しいっスね。うーん……何があったっスかね……」


 こっちの世界でも再現可能なスイーツね。

 ただ何があって何が無いのかが分からないんだよな。

 一応、プリンは再現しているが、それ以外となると結構難しい。


 シュリの話じゃカカオは無いか見つかっていないみたいだからチョコレートは無理だろ?

 餡子はガロンさんが作ったのはあるけど、和菓子の作り方なんて知らないしな。


 あぁそういえばプリンは蒸し料理になるんだったな。

 焼きプリンのイメージがあったから、オーブンとかで焼いて作るモンだと思ってた。

 よくよく考えれば『焼き』プリンとワザワザ『焼き』をつけているのだから、ついていないプリンがある筈なのにね。


「飴細工なんてどうっスかね? 砂糖を煮詰めて飴にするのはあると思うっスけど、それを色んな形にするのは無いっスよね?」

「飴細工……聞いたことないわね。ソレって簡単に出来るものなの?」

「職人さんは簡単そうに作ってたっスね」


 そりゃ職人さんはプロだからな。

 経験ってモンが違うし、道具だっていいのを使っている。

 ド素人の俺達では、形を作るどころか触る事すら難しいだろう。


「それもそうっスね。じゃあ、そうっスね……生クリームはあるからクレープなんてどうっスかね?」

「クレープ? なんだか名前だけで美味しそうな気がするわね」

「美味しいっスよー。食べた事ないっスけど」

「無いのかよ!」

「食べる前にこっちに来ちゃったっス」

「そ、そうか……」


 そういえば彼女は中学校を卒業した辺りで入院し、そのままポックリ逝ったんだっけ。

 花のJKともなれば、クレープ片手にプリントシール機を梯子したかっただろうに。


「なら、作って貰うか? ライブキッチンの鉄板でならクレープ生地も焼けるだろ」

「いいっスねー。でも、どうせならクレープ生地は自分で作ってみたいっス」

「ま、生地が焼けても中に入れる具材が無ければ、クレープじゃなくてタダの薄いパンケーキだけどな」

「そうだったっスね。うーん……王都に行けば生クリームもあるっスかね」

「スイーツ大集合祭りとやらが開催されてるんだから、生クリームだってあるだろ」

「おぉ! それは楽しみが増えたっス」

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