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第724話 少年たちの夢

 シュリが馬歩の構えをあっさりと習得してみせたのは、過去の俺が教えたから、らしい。

 全くもって身に覚えがないのだが、彼女がそう言っているのなら事実なんだろう。


 小4の頃の俺がジャッ〇ーの映画を見ていれば、おそらく……いや確実に影響を受けていた筈。

 サランラップの芯を使ってヌンチャクモドキを作っていた様なおこちゃまだったからな。

 馬歩の構えを練習するぐらいは、きっとしたであろう。


 そう思って記憶を掘り起こしてみると、確かにあの構えをしていた覚えがあった。

 しかも湯飲み付きで。

 流石に尻の下に棒を仕込むまではしなかったが、とにかくシンドかった事だけは思い出した。


 そして事の真相も。


「シュリ。お前にその構えを教えたのは俺じゃ無いぞ」

「あれ? そうっスか? でも誰かに教えられたのは確かっスよ?」

「そこは間違っていない。違うのは、お前に教えていたのが俺じゃなくて、姉だったって所だ」

「お姉さん……っスか」

「あぁ、間違いない。多分、お前の記憶の中にも、隣で湯飲み付きでその構えをやってたヤツが居たはずだ」

「湯飲み付き……あー、はいはい。そういやそんな子もいたッスね」

「それが俺だよ」

「そうだったっスかー。……大変だったっスね」


 同情するような目で見られた。

 まぁ実際、あの時の姉の所業は酷かったからな。


 当時、ジャッ〇ーにハマったのは俺だけではなかった。

 俺以上にドハマりしたのが、ウチの姉だ。

 しかもジャッ〇ー本人ではなく、その師匠にハマりやがったのだ。

 厳密には師匠ではなく師匠ポジションだが、とにかく『頼りなさそうに見えて、実は……』な師匠に憧れやがったのだ。


 シュリもそのとばっちりを受けた訳だが、それ以上に酷かったのが俺だろう。

 ヤツはジャッ〇ーの師匠役だけでなく、ダニ〇ルさんの師匠役もやりたがった。

 おかげで当時の我が家のマイカーは、無駄にピッカピカだった。

 いまだにあの「ワックスかける。ワックス取る」は頭に残ったままなほど、あの時の俺は良いように扱き使われた。


 更には、これがキッカケでウチの姉の師匠命令という名の横暴が始まる事にもなったっけ。

 あの時、ヤツが師匠役にハマりる事が無ければ、もう少し可愛げのある姉になっただろうに。

 過去は変えられないが、もし変えられるとしたら、当時に戻って唯々諾々と姉に従った俺をぶん殴ってやりたいものである。


「さすがにフォースがどうのってのには付き合えなかったけどな」

「それが分かったら、かめは〇波だって撃てそうっスね」

「今なら出来るのかね」

「どうなんスかね。コウキやタケルは似たようなの、出してたっスよ」

「マジか! やっぱかめは〇波か? それとも魔貫〇殺砲?」

「いや、波〇拳の方っスね。実際は魔力で作ったヤツを飛ばしてたっス」

「そっちかー」


 でも波〇拳だろうと躁〇弾だろうと、覚えられるなら是非とも覚えたい。

 かめは〇波と波〇拳を撃つことは、向こうの世界の少年(元を含む)全ての夢だからな。

 誰しもが一度はあの構えをし、少なくない数の大人が本気で放とうとしていた技だ。

 魔法による再現とはいえ、覚えない道理などありはしない。


「うーん……あたしも何となくしか覚えてないっスからねー。ちゃんと覚えるならあの部屋に行った方が早いっスよ」

「あの部屋……あぁ『一日が一年になる部屋』か」

「似てるけど違うっスよ。202号室の事っス」


 え? 修行といえば『一日が一年になる部屋』だろ?

 実際、睡眠学習中もあんな感じだったし。


「戦闘の方はそんな感じだったんスか? コッチは普通に荒野っぽい所だったっスよ」

「普通が荒野なのも変な気がするけどな」


 戦闘用と魔法用とで、格ゲーの背景みたいに変わったりするのだろうか。

 その辺の調査も含めると、今夜の俺が寝る部屋は決まったようなモノであった。

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