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第720話 王都へ

 朝食は白飯と干した川魚の開きを焼いた、ちょっと和風に近いメニューだった。

 贅沢を言えば白米と焼き魚のコンビネーションには、やはり味噌汁がついて欲しかった。

 まぁ、醤油はともかく味噌は未だに手に入れていないし、サバの味噌煮の缶詰はあるけど、それで味噌汁は作れない。


 大豆自体は、ガロンさんが昔手に入れていた醤油があったから、この世界にも存在しているはず。

 あれ? 醤油の製造元が焼失したのと一緒に、大豆も絶滅している可能性もあるのか?

 こんな事なら睡眠学習で王都グアラティアの事を調べる前に、醤油と味噌の在りかだけでも検索しておくんだったな。

 金鉱脈ですら見つける事が出来るダンデれもん様なら、醤油と味噌を探すぐらい造作もないはず。


 さっそく205号室に戻って検索をかけたいところだが、これから王都に向かって出発しなくてはならない。

 飛空艇の飛行速度であれば、一日ぐらい出発を遅らせても期限には十分に間に合うから、とか言って

出発を明日に延期は……どうやら出来なそうだ。


 というのも、いつの間にか俺達と同じテーブルに着き、普通に朝飯を食っているメルタさんが居るからだ。

 流石に依頼者の目の前で「十分間に合うだろうから出発は延期」とは言い出しにくい。

 ちなみに彼女は俺達の出発の見送りに来たらしいのだが、どうみても朝食をたかりに来ただけです、本当にありがとうございました。


 そしてメルタさんが見送りという名の監視をしている中、王都行きの準備を整えた俺達は宿を後にする。

 ガロンさん一家も総出でお見送りしてくれている。

 ただ微妙に気になるのは、三人が期待を持った目で見つめていることか。

 これは確実にスイーツを手に入れ、凱旋を果たさなくてはならなそうだ。


 期待を込めた目で見つめてくるガロンさん一家とは対照的に、メルタさんからは『早く行け』だの『しばらく帰ってくるな』っぽい目で見られている。

 『早く行け』はともかく、『しばらく帰ってくるな』は酷いんじゃないかな。

 まぁ、っぽいってだけで、本当は心配してくれてるんだろうけど。


 ……してくれてるよね?

 『アイツ等居なくなって、清々した』とか思ってないよね?

 そうだとしたら、俺は膝から崩れ落ち、そのまま不貞寝でもするだろう。


「どうした? 何をボーっとしている。他の者は既に出発しているぞ?」

「あぁ、すぐ行く」


 王都に向かうには、マウルーの町の脇を流れるハルなんとか川を下って行けばいい。

 舟は以前購入したヤツがあるので、今から買いに走る必要も無い。

 もっとも、舟はあくまでカモフラージュの為に必要なだけで、実際は適当なところで飛空艇に乗り換えて、一気に王都に向かう予定だ。


 朝方特有のちょっとした喧騒の中、テクテクと南門に向かって歩く俺達。

 お天道様は既にその姿を完全に現し、朝練時には少し肌寒く感じていた気温も、どんどん上がっていく。

 空を仰げば雲一つなく、今日もいい天気になりそうだ。


 スイーツ大集合祭りの開催期限なければ、偶には舟に揺られてのんびりとした川下りもよさそうなぐらいだな。

 あ、川下りだと船酔いしそうなんで、やっぱ無しで。

 バックドアに隠れていれば揺れの影響はないので船酔いの心配はないけど、そうまでして船旅を楽しむのも何か違うだろうし。


 そんな事を考えているうちに南門に辿り着く。

 門番の人にギルド証をみせ、そのまま通り過ぎようとした、その時。

 よせばいいのに、クレアが王都行きを自慢するように語り始めた。


 この国の人にとって、王都というのは一生に一度は訪れたい都市らしい。

 向こうの世界で言う、お伊勢参りのようなものか。

 事前に予習をしておいたから分かるけど、確かにあの光景は一生に一度は見ておきたそうである。


 クレアの王都行きの自慢話以外は特にトラブったりする様子もなく、そのまま南門を素通りさせてもらう。

 街道を少しだけ歩き、人目が無くなったあたりでハル川の方へと足を向ける。


「人目が無いならそのまま飛空艇に乗り込んだ方が早くないか?」

「それはその通りだろうが、一応舟で向かっている所も必要だろう?」


 そんなものだろうか。

 まぁこの中で一番長生きしているシャーロットの言い分だ。

 俺には分からない理由で、そう判断しているのかもしれん。

 舟も使う事を決めた時、シャーロットが『これで少しは時間稼ぎができるな』って小さく呟いてたけど、何か時間稼ぎをする様な事ってあったっけ?

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