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第713話 宿に帰ろう

「で、ソイツは掘り出し物だったのか?」


 ベニヤ板を手に入れ、思いもよらず長くなった寄り道も終わり。

 宿への帰路の道すがらの雑談として、先程シャーロットが手に入れたモグラのオモチャ……もとい、穴掘り魔道具について尋ねてみる。


 小説などでよくありがちなパターンとして、主人公が掘り出し物の隠された秘密を解き明かし、ソレを使って無双が始まるってのがある。

 主人公補正を持ってそうなシャーロットの事だから、きっとあのモグラのオモチャもトンデモ性能を秘めているに違いない。

 まぁ元とはいえ魔王様だったシャーロットに、そんなものが必要なのかは分からないけど。


「これか? まぁそうだな……中の刻印の刻み方が甘いせいか、魔石の中の魔力がキチンと循環していないようだ。その辺を改良すればショータの言う『一瞬にして落とし穴を掘れる魔道具』になるだろうな」

「おぉ! それなら――」

「もっとも、その改良を出来る人物がいれば……の話になるがな」

「おぉ? シャーロットは出来無いのか?」

「ここまで細かい刻印となると、少々荷が重いな」

「出来そうな人間に心当たりとかは……」

「そうだな……ひょっとしたらエジンソン辺りなら出来るやもしれん」

「……聞かなかったことにしようか」


 確かに浮遊石の力を引き出せる魔道具を簡単に作っていたし、エジンソンの爺さんなら魔道具の改良も可能な気がする。

 だが、あの爺さんと関わると、なんというか色々と疲れるんだよな。

 決して悪い人では無いのだろうけど、出来れば二度とは会いたくない爺さんである。


「ん? そうすると、ソイツはほぼガラクタのままってことか?」

「ガラクタではないが、使いにくいのは確かだな」

「よくそんなモノに大銀貨一枚も出したな」


 大銀貨一枚つまり銀貨十枚あれば、ガロンさんの宿でも連泊割込みで一週間は泊れる。

 丸一日かけて人が一人埋まる程度の穴を掘る。

 そんな魔道具の値段としては、少々割高の様にも思える。


「それは……その……ぃ……っ……からだ」

「は? なんだって?」

「だから……い……かっ……からだ」

「イカのからだ? そのモグラのオモチャはイカの体で出来てるのか?」


 イカって十本足の烏賊の事だよな?

 オモチャの材料にそんな生臭そうなモノを使うのか?

 干物にしてから加工すれば、なんとかなるのか?


 イカの干物製といえば、向こうの世界じゃ徳利と御猪口なんてのがあったけど、コッチだと魔道具に使われるのか。

 剣と魔法のファンタジーな世界だと、イカの使い方も変わってくるんだな。


「違う! イカは関係ない!」

「そうか……それはイカんな」

「……」

「……」

「……」

「……で、そんなガラクタ……ではないけど、イマイチ使い勝手が悪そうな魔道具を、割といい値段で購入した理由は?」

「無かったことにしたな……ついでに理由も無かった事にすればよかったのに。まぁいい、理由としては、そうだな……大した事ではない。強いて言えば何となく気になったからだな」

「さっきと理由が違うような……」

「違っていない! 一緒だ! 一緒!」

「ムキになる辺りが余計に怪しい」

「もういい! それより先を急ぐぞ! ショータのせいでカレーの取り分が減ったら、お前の分を奪ってでも食ってやる!」


 なんか、いきなり理不尽な宣言がされたんですけど。

 しかも急かすための冗談とかではなく、どうみても本気の宣言っぽい。

 これはカレーの取り分が減ったら、マジで俺の分を強奪していくな。

 そう思わせるだけの迫力が、彼女の目には宿っていた。


「アレク君が居るだろうから大丈夫だとは思うけど、一応急いでおくか」


 心なしか早足になるのは、クレアという不安要素があるからか。

 さすがに師匠であるシャーロットの分は食べないだろうけど、アイツなら普通に俺の分は食ってそうである。




「あら、遅かったわね。言われた通り、先に頂いてるわよ」


 不安は的中していた。

 俺達が宿に着いた時、既に食事は開始されていた。

 テーブルの上には人数分のカレーライスが置かれており、そのカレーライスも半ば食べられていた。

 だが、それよりも気になる言葉が。


「……言われた通り?」

「そうよ? シュリさんに伝言していたんでしょう? 『先に食べてていいよ』って」

「…………」(俺)

「…………」(クレア)

「…………プィッ」(シュリ)


 よし、シャーロット。

 下手人のカレーはお前が全部食っていいぞ。


「あぁ!? ヒドイッス! ちょっと気を遣っただけっス!」

「人の発言をねつ造するのは、気を遣うとは言わないな」

「ショータさん達が遅いのが悪いっス! あたしは悪くないっス!」

「遅くなったのは悪かったけど、それとこれとは別だろ」

「似たようなモンっス」

「あの……カレーもご飯もまだ沢山ありますので、お代わりをお持ちしましょうか?」


 見れば寸胴鍋で二つほど、カレーは用意されているようである。

 もちろん、ご飯も。

 こうなる事を見越していたのであれば、かなりの慧眼である。

 となれば答えは当然……


「「大盛りで!!」」

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