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第711話 いい気分♪ のCMって、最近聞かなくなったよね

 以前、ベニヤ板を手に入れたのは家具屋だったのだが、その時はベニヤ板が品切れ寸前だった。

 当時は良く分かっていなかったけど、実はサンドイッチマン需要のせいだったらしい。

 家具屋の店主である爺さんの「ベニヤ板が品薄なのはしばらく続くだろうね」のアドバイスもあり、俺はこの爺さんから、ベニヤ板の仕入れ元である材木店の場所を聞いておいたのだ。


 で、その情報が役に立ったのかと聞かれると、役立った様な立たない様な、そんな微妙な結果だった。


 材木店自体には辿り着けたのだが、店は既に閉まっており、どうみても営業していない。

 それでも何とかベニヤ板を手に入れようと店の裏手に回ってみたところ、店仕舞いを終え帰宅しようとしていた店主の人に出会うことが出来た。

 ま、帰宅といっても二階にある自宅部分に行くだけだったらしいんだけどね。


 でもそのわずかな時間に出会う事が出来たのは、ある意味幸運だったのかもしれない。

 そのままベニヤ板をゲットできる所まで幸運が続いて欲しかったけど、残念ながらベニヤ板は売って貰えなかった。


 この手の個人経営であれば、営業時間なんてあってないようなモノ。

 何とか頼みこみ、店を開いては貰えたのは良かったのだが、肝心のベニヤ板が売り切れだったのだ。

 例のサンドイッチマン需要のせいか、材木店であるこの店であっても残り数枚だったベニヤ板。

 その最後の数枚を、猫の獣人が買い占めた為、品切れ状態になったんだとか。


 つくづくサンドイッチマンが祟ってくるな。

 俺が彼らに何かしたというのだろうか?

 ……あぁ、彼らを生み出したのは俺だったか。


 あのとき、クロゲワ・ギューの宣伝にと、俺がサンドイッチマンにならなければ、この様なベニヤ板需要が生まれる事もなかった。

 己の首を己で絞めるとは正にこの事か。もしくはブーメランでも可。


「ぶーめらん、とはなんだ?」

「ブーメランってのは……狩猟器具? こんな感じに折れ曲がってて、投げると弧を描いて戻ってくる」


 くの字、と言っても通じない為、地べたにそれっぽい絵をかいてみる。

 だがシャーロットはこんな『く』が、投げると戻って来るのが信じられない様子。

 まぁそうだよな。あんな形が、なんで戻って来るのか聞かれても、俺にも分からんし。


 くの字の形ではなく三つの羽根のもあるから、『く』の形自体はそれほど重要っぽくは無いんだよな。

 たぶん羽根の断面と投げ方に秘密があると思うけど、説明しろと言われても困る。

 あれだ。なんか不思議なパワーで戻って来るんだよ。

 ほら、魔法だってそうだろ?


「魔法は不思議な力では無いのだが……まぁいい。それより、この後どうするつもりだ?」

「どうするって、そりゃ宿に戻るしかないだろ?」


 ベニヤ板が手に入らなかったのは残念だが、よくよく考えれば、必ずしもこの町で手に入れる事もない。

 王都への道中には、アレク君達の出身地でもあるウルザラ村がある。

 あの村は林業とその加工が盛んな村だし、ベニヤ板の一枚位あってもおかしく無い筈。

 ついでにケチャップの状況も知りたいところだし、寄ってみるのもいいかもしれない。


「そうか……それならそれで構わないのだが……」

「……なにか歯切れが悪いな。まさかベニヤ板の心当たりがまだ有ったりするのか?」

「猫の獣人というのと、数枚を買い占めた、というのがな……」


 ネコミミが気になるお年頃なのだろうか。

 付けネコミミでも開発してシャーロットにプレゼントすれば、俺の株が少しは上がるのかね。


「ちょっと寄り道をしてみるぞ」

「え? ちょ、引っ張るな。そでが、袖が伸びる」


 シャーロットは俺の手……ではなく袖を掴むと、グイグイと引っ張っていく。

 綿を撃ち出して攻撃してくる、ちょっと変わったトレントであるバオムヴォレ。

 その綿を紡いで作られた『ぬののふく』は通常の服と違い、とても丈夫に出来ている。

 それこそ冒険者御用達の鎧下として愛用されるほどに。


 そんな丈夫な筈の『ぬののふく』が、シャーロットの手によりビヨーンと伸ばされようとしている。

 いや、ビヨーンと伸ばされるぐらいならまだいい……本当は良くないけど。

 服の伸縮性を超えるような力で引っ張られた場合、伸び切った先にあるのは片袖だけノースリーブ化した『ぬののふく』と、それを着ている俺だ。


 夜道に片袖ノースリーブの成人男性。

 誰かに見られたら、不審者だか被害者だかで通報されそうである。

 そんな未来は真っ平ゴメンだが、シャーロットの手は袖を掴んで放す様子が無い。

 仕方なしに彼女に引っ張られたまま、夜の大通りを歩くのであった。

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