第６９２話 ダンジョンの出口に向かおう
「あの地竜……暇に飽かせて掘り過ぎだろ……」
半分に分割した探知棒をスキーのストックの様に使いながら、地雷原ならぬ落とし穴原を慎重に進む。
踏み抜いたところで爆発しないだけ地雷原よりはマシだが、とにかく数が多かった。
地面に対して落とし穴の割合が九割以上って、ほぼ全面落とし穴だよな？
ＯＡフロア――パソコンルームなどで見かける、床が一段上がっていてその中に空間が存在する床の事だ――でいうなら、支えの足の部分だけの状態である。
床になる部分を慎重に進むより、底の方を歩いた方が早かったと思った程だ。
実際、俺の後に続いたシャーロット達は、底の方を歩いてきやがった。
そうやって落とし穴原を抜け、部屋から通路へと辿り着く。
流石の地竜も通路までは落とし穴は掘っていなかったようで、ようやく普通に歩けるようになる。
「ではここからはボクが」
そういってアレク君が先頭に立つ。
ここからも何も、斥候役が罠の発見や解除をするのが普通なのだ。
微妙な空気を払拭したかった俺が、アレク君の役割を奪ってしまっただけである。
一応、俺が罠を発見する練習も兼ねていたのだが、それは敵の現れない部屋内だったからこそ。
通路に出てしまえば、罠の発見だけでなく索敵までも必要となるため、俺だと完全にキャパオーバーになる。
適材適所というヤツだな。
「それで、地図の更新の方はどうだ？」
「もうしばらく掛かりそうだな。さっきの地竜戦で、折角回復したＭＰを使っちまったし」
「そうか……まぁ分かれ道が見つかるまでは進むしかないか」
「だな」
緊急避難時の排出先はランダムになるのか、あるいは地形そのものが変わったためなのか。
どちらにしろ、現在位置が分からない事には向かうべきルートも決められない。
地竜が生息しているとなると割と深い層のようではあるが、「じゃあどの辺にいるのだ？」と聞かれるとサッパリである。
袋小路の部屋であった以上、そこから出て進むしかないのだが、困るのは分かれ道だ。
地図があればどちらが出口なのか簡単に分かるけど、どこの分かれ道に居るのかすら分からない状況では手探りで進むしかない。
それが普通の冒険者のやり方だと言われればその通りなのだけど、そこは現代日本にどっぷり漬かっていた俺である。
地図があるのが当たり前なゲームに慣れきっていると、先を見通せないというのは不安でしかない。
だが進まない事には外には出られず、町への帰還も果たせない。
今は一歩一歩確実に進むべき時なのだ。
あの部屋に隠し通路があって、そちら側が出口ルートだったらショックだけどな。
「で、分かれ道に辿り着いてしまったワケだが……」
「地図の方は……」
「ギリギリだな。ただ先の事を考えると、もう少し回復しておいた方がいいんだよな？」
「あぁ、ショータはあまり魔法を使わないスタイルだが、『身体強化』が有るのと無いのでは戦闘力に差が出てくる。思わぬ強敵に遭遇することを考えれば、もう少し待つべきだろうな」
『身体強化』の魔法は、魔力を体の中で循環させるため、放出系の魔法に比べれば魔力の効率は高い方。
しかし効率が高いだけで消費はちゃんとするし、そもそも循環させる魔力が無いと使い様がない。
ＭＰが枯渇している状況で戦闘になってしまえば、思わぬ苦戦を強いられることもあり得る。
安全を考えれば、ここは我慢のしどころだろう。
「……いや、地図を更新する。ＭＰが無くなる事より、間違った道を進む事の方が気分的に嫌だからな」
来る途中は散々そうやって来ていただろ、と突っ込まれそうだが、そこは地図があったから。
あえて間違っている道を進んでいると分かっているからこそ、取れた選択肢なのだ。
サッサと帰りたい時、ワザワザ回り道をして帰ろうとするヤツはいない。
それともう一つ。
ダンジョンの傾向として、奥に進めば進むほど強い魔物が出やすくなる。
地竜には何とか勝利できたが、それは運が良かっただけだ。
もし群れで遭遇していた場合、ヤツ等が使う魔法で俺達は今頃『かべのなかにいる』になっていた可能性だってある。
そんなリスクを避けるためにも、奥へ向かうべきではない。
そう判断し、俺は地面にバックドアを呼び出す。
地図の更新は船内でしか出来ないからな。
ついでにちょっと休憩もしたい。
お昼休み……はとうに過ぎているから、おやつの時間ってことにしよう。
ま、お菓子は出てこないけどな。
