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第689話 ダンジョンで貫こう

 地竜の石礫が放たれるのに合わせ、俺達は駆け出す。

 石礫の魔法の特性上、ヤツが放てるのは一回の魔法につき一発のみ。

 間断なく放たれているから分かりにくいが、シャーロットの話ではそういうことらしい。


 さらに俺、ベル、アレク君の三人で駆け出せば的は散らされ、命中率は格段に下がる。

 もっとも本命は俺で、二人は囮役だけどな。


 ある程度離れてさえいれば、必殺の威力を持つ石礫でも盾で防げるぐらいにはなる。

 そうやって二人が引き付けてくれてる間に、概観視とロックオンアラートを持つ俺が距離を詰め、一撃を加える。

 それが俺達の作戦の全てだ。


 ウィスプでは通用した戦法だが、果たして地竜にも通用するだろうか。

 いや、不安を抱くな。迷いは刃を鈍らせると言うではないか。

 俺は己のスキルを信じ、一分の迷いもなく駆け抜け貫くのだ。


 右肩がゾワゾワする。

 地竜が生み出す魔法陣が光る。

 放たれた石礫をサイドステップで躱す。


 よし、イケる!

 光弾だろうが石礫だろうが、狙われてる場所とタイミングさえ分かれば、躱すのは大丈夫。

 むしろ石礫の方が、放たれてからでも避ける余裕がある分、まだマシな気なほど。

 光弾だと光った瞬間が着弾の瞬間だから多少はかすってしまったけど、これならノーミスで地竜の元まで辿り着けそうだ。


 躱す、躱す、躱す。

 駆ける、駆ける、駆ける。

 ヤバい、なんか楽しくなってきた。


 一発でも喰らえば足は止められ、そのまま蜂の巣になる未来しかない。

 そんな未来をギリギリで回避しているのだ。

 俺の脳内では、アドレナリンとかドーパミンとかが出まくってるに違いない。


 耳元を石礫が飛んでいく。

 全開にしっぱなしの概観視は、そんな石礫の円錐状の形すら捉えていく。

 今の俺なら、銃弾だって見切って躱せるだろう。


 あと三歩。

 あと二歩。

 あと一歩。

 そして俺は辿り着く。


「喰らえ!!」


 駆け抜けた勢いのまま槍を突きだす。


 ――獲った!


 そう確信した穂先は、あろうことか弾かれた。


「なっ?!」


 たたらを踏む。

 体が流れる。

 そんな無防備な背中にロックオンアラートのゾワゾワが走る。


 あ、ヤバい。

 これは避けきれない。

 いかにロックオンアラートがあろうとも、避けられる状況で無ければ躱すことは不可能だ。


「ショータさん!!」


 ドン、と吹き飛ばされる。

 石礫が当たった衝撃ではない。

 もっと大きな何かが体当たりして来たような、そんな衝撃だ。

 それと同時に金属が硬いものを弾くような音。


 吹き飛ばされ地面を転がる中、一瞬だけ概観視がベルの姿を捉える。

 彼女が俺と地竜の間に割り込み、その体と盾とをもってかばってくれたようだ。


「ショータ! 退くんだ! その槍では地竜の皮は貫けない!」


 シャーロットの指示に、ようやく槍がはじかれた理由に思い至る。

 何のことはない。

 地竜の皮の防御力の高さは、俺自身を守る鎧が証明していたのだ。

 これまでの戦いの中、俺を守り続けて来たこの鎧の素材こそ、地竜の皮なのだからな。


 転がりながら距離を取り、どうにか起き上がる。

 薄汚れはしたが、その程度だ。

 再度のアタックには支障はない。


 シュリとクレアによるフォローが入ったおかげで、ベルも同じように距離を取っている。

 ただ彼女も無傷では済まなかったのか、右肩の防具に被弾した跡が見られる。

 対する地竜は無傷のまま、悠然としている。

 どうやらこのラウンドは、向こうの勝ちのようだ。


 乱れた呼吸を整えていると、それに目を付けられたのか石礫が飛んでくる。

 クソッ、おちおち休んでもいられない。

 躱しながら、もう一度作戦を練り直す。


 クレア達後衛組も弓や魔法で攻撃しているが、そちらは土壁によって阻まれている。

 かといって近接も生半可な攻撃は効果を成さない。

 少なくとも俺の槍では地竜を貫く事は出来なかった。

 ひょっとしたら全体重をのせた渾身の一撃であれば貫けるやもしれんが、ダメだった時のリスクが大き過ぎる。

 そう何度もベルにかばってもらう訳にもいくまい。


 あれ? これ、詰んでないか?

 魔法は防がれてるし、近接は弾かれる。

 向こうの攻撃を躱すことは出来ても、肝心の攻撃が通らないのではジリ貧だ。

 おそらく地竜側のMPが尽きる前に、俺達の方が力尽きるだろう。


 チラリとシャーロットを見るが、相変わらず傍観のままだ。

 あくまでも俺達の力だけで倒せという事らしい。

 きっと彼女の中では、俺達の実力だけでも倒せる算段が付いているのだろう。

 だったらせめてヒントだけでも教えてくれればいいのに、実にケチ臭い奴である。


「ショータさん! バックドアっス! バックドアを呼び出して水を撒くっス!」

「……! 分かった!」


 そうか、例の凍らせる奴をやろうってんだな?

 そんな事ならお安い御用だ。

 俺は地面にシャワールームへと続くバックドアを呼び出す。


 するとクレアがドアに飛び込み、シャワーヘッド(散水用)を引きずり出してくると、それをベルに投げ渡す。


「ベル! 行くわよ!!」

「……!!」


 クレアの合図でシャワーヘッド(散水用)から勢いよく水が放たれる。

 その勢いは消火用ポンプの放水に勝るとも劣らない。

 クレアのヤツ、バルブ全開にしやがったな?

 水道代は掛からないとはいえ、なんて遠慮無しなヤツだ。


 しかし、それこそが会心の一手だったようだ。

 圧倒的な水量で放たれる水の前には、石礫も土壁も効果を成さなず、遂には地竜自身にまで放水が到達する。

 水を浴びせられたままでは魔法を放つことは出来ないらしく、俺達への石礫が飛んでこなくなる。


 これはチャンスだ。

 俺はなけなしのMPで身体強化を掛けると、全力で駆け出す!

 先程は躱しながらだったため、速度に乗り切れていなかったが、今回は違う。

 トップスピードのまま踏み込み、全体重をかけた渾身の一撃を地竜に繰り出す!


「つらぬけぇぇえぇ!!」


 裂帛の気合と共に突き出した穂先は、今度こそ地竜をぶち抜いた。

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