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第682話 ダンジョンを凍らせよう

 かつてシュリは渦巻玉という、エアーボールを改造した魔法を使ったことがある。

 超圧縮した空気をぶつける魔法だが、内部に渦巻を作る事で通常以上に圧縮することが可能な魔法だ。

 ただしその際の副作用で内部が物凄い高温になる。


 かつてハマルは水球という、水の球を生み出す魔法を使ったことがある。

 魔法で生み出しているのか、それとも空気中の水分を集めているのかは謎だが、とにかく水が生まれる魔法だ。

 ただの水の球とはいえ、ぶつけられれば結構痛い。


 そしてその二つが重なった時、大爆発が生み出される。

 いわゆる水蒸気爆発というヤツだ。

 その威力は塩の平原にちょっとしたクレーターを生み出せる程であり、ダンジョンの密閉空間内で使えば崩落の危険性だってある。

 そんな魔法を使わせる訳にはいかない。


 俺はシュリの前に立ち塞がり体を張ってでも阻止しようとする。


 ――のをシャーロットに首根っこを掴まれ阻止された。


 何をしやがる! と言いたいのだが、首が締まって声が出ない。

 しかも絶妙な力加減なのか、以前と違って声は出せないが呼吸が出来ない程でもない。

 おかげで苦しいまま気を失う事も出来ないけどな。


 そんな朦朧とした意識の中、ハマルが水球を放つのを見守る。

 隠れたり走ったりするのが得意なハイドレイクのハマルは、水の魔法も得意だったらしい。

 その水球は狙い違わずホブゴブリンに命中する。


 しかし所詮は只の水の球。

 当たったところでホブゴブリンは少し怯んだ程度で、倒すまでには至らない。

 せいぜいヤツとそのオマケのゴブリン達の全身を水浸しにする程度だ。

 しかし、それこそがシュリの狙いだったらしい。


「いくっスよー! ひっさーつ! 渦巻玉リバース!」


 見えない球を磨き続けていたシュリが、良く分からない掛け声と共に振りかぶった。


 瞬間、視界が真っ白に染まる。

 同時に暑くも寒くもなかったはずのダンジョンに、冷気が巻き起こされる。


「ほう……これは見事なものだ」


 感心したような声を出すシャーロット。

 俺もその光景に声を失う。

 まぁ元々声は出なかったが。


 俺達の前には、半ば以上氷漬けになったホブゴブリンとゴブリンの姿。

 その寒さゆえか動きは鈍く、ゴブリンの何匹かはそのまま絶命しているほどだった。

 残ったホブゴブリンとゴブリンも、アレク君達がトドメを刺していく。

 颯爽と登場したのに、見せ場もなく退場するホブゴブリン。

 実に憐れである。


 もっとも、仮に真っ当に戦ったとしても、俺達が勝つ事に変わりはなかったけどな。

 デカい事自体は脅威ではあるが、その身体を操るオツムの方がゴブリンレベルのままなので、間合いを間違えない限り苦戦することは無い。

 単体での脅威度なら、以前俺が(一応)一人で倒したトロールの方が高いぐらいだ。

 道具を使う事も思いつかず、ただ己の手の届くところの苔を食べるしかなかった程度の知能では、武器と魔法を使い、更には集団で襲い掛かる人間の卑怯っぷりには敵いっこないのである。


「で、あの魔法は何だったんだ? 見たところ渦巻玉に似ているようだけど、それだとあんな氷漬けにはならないだろ?」

「ふっふっふー。よくぞ聞いてくれたっス。あたしもあの爆発はヤバいって思ったっスから、別の魔法を開発したっスよ」

「別の魔法ねぇ……その割には渦巻玉に似てたようだが?」

「元々の考え方は渦巻玉ッスから。アレの応用版ッス」


 だから名前に『リバース』ってついてたのか。

 でもリバースってなんだ? マーライオンにでもなるのか?


「ほら、渦巻玉って、中に渦巻を作って空気を圧縮し続けたじゃないっスか」

「そうだな。そのせいで中が高温になって、水球と一緒にしたら大爆発したな」

「空気って圧縮すると熱を持つなんて、あの時初めて知ったっスよ。それでっスね、圧縮したら熱を持つなら、逆にしたらどうなるかって思ったんス」


 空気を圧縮すれば熱を持ち、逆に空気を抜き続けると温度が下がる。

 厳密に言えば減圧状態=温度が下がるのではなく、減圧したことで内部の液体が強制的に気化され、そのさい周囲の熱を気化熱として奪う為、その結果温度が下がる。

 この原理を利用したのが冷蔵庫や冷凍庫である。


 その事を知ってか知らずかは知らないが、シュリが思いついた魔法の原理はなんとなく分かった。

 空気を圧縮するはずのエアーボールが、なんで空気を抜き続けられるのかは分からないけどな。

 本人に聞いても、「やったら出来たッス」だし、そういうモノだと諦めるしか無さそうだ。


 そして忘れてはならないのが、ハマルの水球である。

 シュリの放つ渦巻玉リバースは、当たった周辺を急激に減圧させるだけで、気化するための液体が無ければその効果は薄い。

 そのための前振りとして、ハマルは水球を放ち、ホブゴブリン達をずぶ濡れ状態にしたのだ。


 話を聞いていると凄そうに思えるが、中級クラスの魔法使いならそんな手間をかけずとも氷漬けにする魔法が使えたりする。

 シャーロットも氷ジョッキを簡単に作ってるしな。

 まぁ合体魔法はロマンってことか。


「いや、そうでもないぞ? エアーボールであれば、初級クラスの魔法使いなら使える魔法だ。二人掛かり……いや、水をかけるだけなら一人でも出来るか……それで中級魔法を再現できるのであれば、習う価値は十分にある」

「そんなもんかね」

「あぁ、特に初級魔法には相手を拘束するような魔法が少ない。この魔法を使えるようになれば、戦いの幅は相当広がるだろう」

「そうなんスか?」

「あぁ、ひょっとしたらシュリの名が魔法史に刻まれるやもしれん」

「魔法史に名を残すなんて、凄いわね! 一躍有名人よ!」

「あー、だったらパスっスね。申し訳ないっスけど、有名になったところで碌な事にならなそうっス」

「む、そうか。確かにお前の前歴も考えれば、その通りか……」


 シュリは元とはいえ勇者だからな。

 その復活が知られれば、良からぬ事を考えるヤツも出て来そうではある。

 穏便に過ごしたいのであれば、有名になる事など『百害あって一利なし』だよな。

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