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第681話 ダンジョンで出くわそう

「出来たッス! これは傑作っス!」

「完成よ!」


 おかしいな。

 発光苔を採取しているヤツ等が発するとは思えない台詞が聞こえて来たぞ。

 アイツらは一体、何をしてるんだ?


 ん? シュリの体で隠れてた部分が見えて来たな。

 あーなるほどな。発光苔を引っぺがすとき、形を決めて剥がしてたのか。

 で、残った苔があるシルエットを形作っていると。


 えーっと、アレはなんだ?

 手足があって頭もあるので、パッと見はヒトの形をしているのは分かる。

 ただ、人にしては頭に一本角があるのが気になるんだよな。

 いや、あれは角じゃなくてトサカとかモヒカンなのか?

 真ん中の青いブローチも何か意味があるのか?


「じゃーん。題して『光の巨人』っス」


 タイトルぅぅ!!

 光ってはいるけど、お前と同サイズじゃ巨人じゃねぇぇぇ!! 

 あとその割には似てねぇぇえ!!


 かじろうてトサカがあるからなんとなく分かるけど、元ネタすら知らないシャーロット達には全く通じないだろうが!

 ついでに言うと、あのヒト達は光の国から来た人であって、自身が光ってたわけじゃ無いからな?


「もしやショータ達の世界には、このようなヒトが居るのか?」

「いや、居ないよ? 居ないからな?」


 光の巨人は物語の中の人であって、現実には居なかったからな?

 宇宙は広いから、ひょっとしたら本当にそんな星雲があって、ひっそりと地球をパトロールしているかも知れないけど。

 俺がこの世界に転移するような事態になるなら、宇宙人の一人や二人、居てもおかしくないだろうし。


 とりあえずシュリの作品については放置しよう。

 苔が繁殖すれば、そのうち消えていくだろうし。

 それより、依頼の方が大事だろう。


「あ、そうだ。ショータさん。この袋ってまだ有りますか? もしあれば、入りきらなかった分も入れたいんですけど」


 アレク君がハマルの背の上に積み上げられた発光苔を見せてくる。

 依頼では一袋分とあったが、多く持っていけばその分査定はアップする。

 俺達にはマジックバッグがあるので、多くても持ち運ぶには影響はない。

 持ち運べる袋があれば、だけどな。


 こんなにあっさりと集められるとは思っていなかったので、必要分の袋しか貰っていなかったのだ。

 しかもその袋というのが苔の鮮度を保つための処理が施されているらしく、塩を入れている袋では代用が効かない。

 つまり、積み重ねられた発光苔は、このまま廃棄していくしかないことになる。

 勿体ないが、持ち帰れない以上は、諦めざるを得ない。

 折角剥がしたのだから全部持って帰りたいのが本音なんだけどな。

 

「そうですか……残念です……」

「ん? 袋、無いっスか?」

「あぁ、それ一枚っきりだな」

「じゃあ作っちゃうっスよ。麻袋とゴブリンの魔石を貰うっスね」

「へ?」


 言われるがまま、麻袋と魔石をシュリに渡す。

 すると彼女はそれらを自分のアイテムボックスに放り込む。

 あの中で特殊な処理とやらを施すようだ。


 俺の予想は正しかったらしく、暫く待っているとアイテムボックスから麻袋を取り出した。

 一見すると処理前と変わっていないようにみえるけど、これで大丈夫らしい。


「ちなみに処理ってのが何なのかは聞いて平気なのか?」

「それは知らないっスけど、まぁ大丈夫だと思うっスよ」


 実に頼りになりそうにない『大丈夫』である。

 三匹の子豚の藁の家と、どっちが大丈夫だろうか。

 ま、大丈夫じゃないとしても、聞いているのが俺達だけなんで、秘密は守られるだろう。

 そっちの方は当てになる『大丈夫』だ。


「袋の処理といっても、ちょっと中に魔素を充填しただけっス」

「ほー」

「発光苔ってのはダンジョン内でしか生息できないっスから、生かしたままにするならダンジョンと同じ環境にしてやればオッケーっス」

「それが魔素の充填って事か」


 あれ? それなら飛空艇内に入れておけば問題なかったのか?

 あの中だってダンジョン化している事で、魔素が濃いみたいだし。


 ……まぁ結果論だな。

 剥がした分を入れるだけなら今さっき処理した袋で足りるし、次にやる機会があっても多めに袋を用意すればいい。

 発光苔は飛空艇内でも保存可能って事だけ覚えておけばいいだろう。

 使う機会は無いだろうけどな。


 ハマルの背の上に積み上がっている発光苔を新しい袋へと詰め終えれば、目的は達成ということになり、あとは自由な時間になる。

 引き返すか、更に先に進むか、それとも昼飯にでもするか。

 どうしようか話し合おうとした、その時。

 シャーロットが俺達に警戒するように言い放った。


 シャーロットは作業が終わるまで、ヒマそうに遊んでいた訳では無い。

 アダフォ君を使ってこの開けた空間の先を偵察していたのだ。

 そんな彼女が発した警戒情報に、俺達はいつでも戦えるよう気を引き締める。




「来るぞ!」


 シャーロットの言葉通り、ほの暗い闇の先からゴブリンらしき魔物が現れる。

 らしき、というのはゴブリンにしてはサイズが少々大きかったからだ。

 通常サイズであろうゴブリンも後からついて来ているので、遠近法で無ければサイズがデカいことになる。

 ソイツとノーマルゴブの距離がそれほど離れていないのであれば、その身長は俺達よりも大きいだろう。

 そう、手を伸ばせば丁度発光苔が生えていなかったところまで届きそうな。

 おそらくだが、ヤツがあの高さまで苔を食べていたんじゃないかな。


「ホブゴブリンだ! 気を付けろ!」

「了解っス! 先手必勝ッス! ハマル! 例のヤツ、行くっスよ!」

「KYUUU」


 例のヤツ? ひょっとしてアレか? アレをやろうってのか?

 シュリの手は球を磨き上げるような、そんな動作を始めている。

 おいバカやめろ!

 アレをこんな空間でやったら、俺達まで生き埋めになるぞ?

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