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第674話 ダンジョンを進もう

 ハートが文字通りブレイクしたゴブリンと、物理的にクビにされたゴブリン。

 獲物を見つけたぜ! と必死で走って来た結果がこの有様である。


 あまりにもあんまりな仕打ちに、ついゴブリンに感情移入してしまったが、ここは命のやり取りをする危険なダンジョン。

 場合によっては俺達がこんな有様になる可能性だってあるのだ。

 これも浮き世の習いと割り切る事にする。


 割り切ったところで、今度はコイツの腹を割らなくてはならない。

 いや、別にゴブリンと打ち解け合おうとしているワケでは無く、胸襟を開くだけだ。

 ん? それも似たような意味合いになるのか?

 まぁ要は胸のあたりにある魔石を取り出すのだ。


 ゴブリンであれば常設の討伐依頼があるので、討伐証明である魔石を持ち込めばギルドポイントも付くし、換金も出来るからな。

 メインの依頼は『発光苔の採取』だが、こういったサブ依頼でも小銭を稼ぐのである。


 魔物とはいえ人の形をした生き物の胸を掻っ捌くのは、少々躊躇いが出てしまう。

 しかし今回の戦闘で、俺は何もしていなかったので、こういった所で『ちゃんとしてますよ』アピールをしておかなくては、後々に影響を及ぼしかねない。


 俺達はパーティーでクランまで組んでいる間柄ではあるが、一方的に利用するような間柄ではないし、なってはならない。

 人の不満というものは、こういった細かい事で積み重なっていき、やがては爆発する。

 そんな爆発を回避するためには、『ちゃんと協力しています』アピールをして、不満を解消するのだ。


 飛空艇の大浴場で鍛えた『無心になる』スキルを使い、機械的にゴブリンの胸をナイフで切り開き、中から魔石を取り出すと、それを待っていたかのように、ゴブリンの死体が床へと消えていき、遂には血だまりすら無くなった。

 ダンジョンで死んだ場合、こうして飲み込まれるとあらかじめ聞いてはいたが、実際目の当たりにすると不気味だよな。


 ウチの飛空艇でも、こんな風に死体が取り込まれるのか気になるが、だからといって試したいとも思わない。

 汚れとかゴミ箱のゴミとかはいつの間にか無くなっているので、たぶん取り込んではくれるのだろうけど、万が一取り込まれなかった場合が面倒だ。

 ダンデれもん様の機嫌次第じゃ、万が一が十が一ぐらいになりそうだし。


「跡形もなく飲み込まれるんじゃ、完全犯罪もし放題だな」

「なんか物騒な事を言い出したっス」


 つい漏れてしまった呟きに、同じ様にゴブリンを掻っ捌いていたシュリがツッコミを入れて来た。

 彼女もまた戦闘に不参加だったため、ゴブリンの解体をしていたのである。


「いや、ドラマだと死体の処理を誤って、事件が発覚するパターンがあるだろ」

「まぁあるっスね」

「血痕すら残らないんじゃルミノールとかも効果無いだろうし、この場で殺人が行われた証拠が無くなるわけだろ」

「鑑識泣かせっスよね」

「汚れを取り込めるなら、指紋や足跡だって残らないだろうな」


 剣と魔法のファンタジーに科学捜査はあるのかね。

 案外、魔法で何とかしてたりしてな。


「解体も終わったようだし、先に進むぞ」


 一番何もしていないお前が仕切るなよ……と言いたいところだが、シャーロットはマッパーという大事な役目を担っていたんだったな。

 立ち止まったままでは地図作りが進まないからって、急かす様に先を急がせるなよ。

 もうちょっと慎重にいこうぜ。


 くねくねと無秩序に掘られた洞窟の中を、奥へ奥へと進んでいく。

 その歩みは進んでいる様な戻っている様な。

 良く分からない状況なのは、マッパーであるシャーロットが原因だ。


 ギルドで写した地図はあるから、目的地まで最短ルートで行けばいいのに、地図を完成させたいからと行き止まりと分かっているのに、敢えてそちらを選ばせているのだ。

 確かに俺もダンジョン系のゲームでは、全てのマップを埋め尽くし未踏破エリアは無くすようにしてきた。


 だけどゲームの中と現実とでは、条件がまるっきり違うのだ。

 向こうは歩き回ったとしても減るのは満腹度的なモノだけで、それ以外のデメリットは特になかった。

 せいぜい、歩き回ったせいで敵に襲われるぐらいだろうか。


 しかしこちらで歩き回るという事は、もちろんお腹が減っていくし、なにより疲労していくのだ。

 しかも行き止まりと分かっているのに敢えて行く事で、元来た道を引き返すという、精神的なダメージまで負うのだ。

 これと目的もなくウロウロするのと、どっちがマシか聞かれたら、俺なら後者を選ぶな。

 それ位、来た道を引き返すってのは心にクるものがある。


 ただ、行き止まりを確認することにも、少しは意味がある。


 例えばダンジョンの変化。

 以前は行き止まりだった場所が小部屋のように開けた空間となっていたり、その逆だったり。

 そういった変化を確認するのも、冒険者の大事な仕事らしい。


 例えば休憩タイム。

 行き止まりって事は、少なくともそちらから襲われる心配が無いって事でもある。

 それを利用して、こういった行き止まりで休憩をとる事で、疲労を回復させるのだ。


 例えば人払い。

 行き止まりと分かっているのに、わざわざ入ってくる人間はそう居ない。

 シャーロットのような穴埋め主義なヤツぐらいだろう。

 つまり、行き止まりの床に妙なドアが張り付いていたとしても、誰にも気付かれないのだ。


 そう、バックドアとかな。

進んでいる……のか?

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