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第669話 下調べは大事

「では『白銀の旅団』様、発光苔の採取よろしくお願います」


 星三になって初めての依頼である。

 初ダンジョンという事もあり、気合を入れていこう。

 なお、飛空艇もダンジョンなのだが、そこはそれということで。


「ムー、ムー」

「あー、はいはい。もうソレ取っていいから」

「ふぅー、やっと話せるッス」


 そう言ってシュリは『沈黙のマスク』を取り外す。

 『沈黙のマスク』とは、あまりにもウッカリさんな彼女のために、俺が急きょこしらえた魔道具モドキである。


 作り方はいたって簡単。

 マジックバッグにしまっていた『初心者セット(ダンジョン用)』のズタ袋から三角巾を取り出し、同じくズタ袋に入っていた木炭でバッテンを描くだけ。

 要はクイズ番組とかでたまに見かける、回答権の無い人が着けるアレだ。


 魔道具の定義からは外れているが、ちゃんと効果を発揮したのだから魔道具……は流石に厳しいので魔道具モドキと認定してもいいだろう。

 このネタが分かるシュリだからこそ効果を発揮した、とも言える。

 もちろん俺も分かるので、俺にも効果を発揮するだろう。


 依頼の手続きも終わり、早速ダンジョンへ出発! といきたかったのだが、メルタさんから待ったがかかった。

 なんだろう? 手続きに何か不備があったかとか?


「いえ、ダンジョンの情報は必要ではないのですか?」

「情報……ですか?」

「えぇ、あのダンジョンは最深部まで踏破されているダンジョンですから、通路や魔物の傾向なども全て判明しております」


 そういって取り出したのは、製本された一冊の攻略本だった。

 なぜ攻略本だと分かったのかって?

 ご丁寧に帯まで付いてて、「大丈夫。ギル通の攻略本だよ」と書いてあるからだよ!

 誰だ! こんなネタ仕込んだ迷い人は!


「あぁ、この帯ですか? これは勇者様がダンジョンの情報をまとめた本には、このような帯が必要だと」


 チラリとシュリを見る。

 なにやら心当たりがあるのか、明らかに挙動がおかしくなっている。


 ……そうか、お前が犯人か。

 どうせ何の気なしに言ったんだろうけど、自分の影響力を甘く見てたな?

 キルシュの時だって、そんな感じだったよな?

 他に心当たりがあるなら、サッサとゲロっておいた方がいいぞ?


「……自分、過去は捨てたっス。今を生き、明るい未来に向って行くっス」


 なんかカッコ良さそうな事言ってるけど、単に忘れただけだよな?


「そ、それよりダンジョンの情報っス。何が書いてあるか楽しみっス」

「閲覧には大銀貨一枚必要となります」

「カネ、取るっスか」

「過去の冒険者たちが、命懸けで手に入れた貴重な情報ですから。それに、この本の情報のお陰で生き延びた方もいるんですよ?」


 くっ……そう言われてしまえば払わざるを得ない。

 閲覧だけで宿一週間分は高いが、命の対価だと思えば安い。


「あぁ、破ったりした場合、罰金として金貨十枚頂くことになっておりますので、ご注意ください」


 罰則がやけに高く感じるのは、コレ位でないと破って持ち出すような連中が出るかららしい。

 実際、地図を記したページが破り取られた事があったんだとか。

 もう一度写本する手間を考えれば、コレ位は妥当なのかね。


(なぁ……帯とか以前に印刷技術は伝えなかったのか?)

(それはちょっと考えたんスけど、影響力が大きそうなんでやめたッス)

(それもそうか)

(かわら版みたいな版画による印刷はあったんスけどね)


 かわら版は江戸時代からあったっぽいしなぁ。時代劇の受け売りだけど。

 その程度なら誰かしら発明するか、よしんば迷い人が伝えたとしても影響は少ないか。


 ただシュリがいた五百年前から、印刷技術が全く変わっていないってのも変な話だ。

 普通なら、活版印刷とかの技術が生まれても良さそうなモンだけど。

 やっぱり魔法があるような世界だと、技術的な発展はしにくいのかね。


 そんな技術考察はさておき、攻略本の内容を確認しよう。

 手早く確認しないと、待ちくたびれたシャーロットが俺達を置いて出発してしまう。

 もしくは俺の首根っこを掴んで強制連行。

 その場合、折角払った大銀貨一枚が無駄になる。


 ソコソコな金持ちにはなった俺だが、勿体ない精神は捨てていない。

 支払った料金の元ぐらいは取りたいものである。


 ……ふんふん、なるほど。

 わら半紙に木炭で地図を写す傍ら、出現する魔物とその特徴を覚えていく。

 書いて覚えるとか、なんだか受験生に戻った気分だ。

 まぁこの試験での落第イコール死だけど。


 できれば深層部まで写したかったが、そこまでしていると日が暮れる。 

 なので今回は必要そうな部分だけ写し終え、メルタさんに攻略本を返却する。

 メルタさんはパラパラと攻略本を確認し、ついでに俺の写本もチェックしてくれた。


「ショータさん。地図ぐらいちゃんと写して欲しかったっスよ……」

「い、いや。アレは曲がり角の数を間違えただけだって」


 薄いトレーシングペーパーならまだしも、厚みのあるわら半紙では地図に重ねてなぞる、なんてことは出来ない。

 仕方なく地図を見ながらその通りに木炭を動かしたわけだが、その際少々間違えてしまっていたのだ。

 メルタさんチェックで真っ赤になった地図をみて軽く凹む俺だった。

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