第661話 冒険者の役割
遅れました。
「びぇっくしょーーい!!」
うー寒む。
季節としては春も真っ只中ぐらいになったらしいが、さすがに夜は肌寒いな。
やはりちゃんと部屋に戻って寝るべきだったか。
キョロキョロと辺りを見回すと、宴会の名残りの酔っ払いどもが死屍累々だ。
テオガーの宿でもこんな有様だったな。
あの時は確か、俺が片づけをするように誰かに押し付けられたっけ。
ま、その俺もシャーロットに丸投げしたけど。
そんな後片付けをガロンさんが一人せっせとやっている。
「おう、起きたみたいだな」
「ガロンさん、おはようございます……でいいんですかね?」
「夜が明けるのはもうしばらく先だけどな」
時計、ないもんな。
太陽が出ていない夜中じゃ、時間を知る術ってのは、本人の感覚ぐらいだ。
屋外なら月や星の位置で大体はわかるらしいけど、ここは食堂だしな。
「えーっと……お掃除、手伝いましょうか?」
「いや、嬢ちゃんに『洗浄』使ってもらったんで大丈夫だ。あとはこいつ等に毛布を掛けるぐらいだしな」
「そうですか……」
当のシャーロットの姿がないのは既に部屋に引っ込んだからか。
まぁ誰だって食堂の床で寝るより、あったかい布団のほうがいいよな。
どうせなら俺も起こしてほしかったけど。
ガロンさんは床で寝ている酔っ払い連中に毛布を掛け終えると、「ふぅー」と一息ついて椅子に座る。
その様子は、ようやく全ての仕事をやり終えたような、あるいはやっと家に帰ってきたような、そんな感じだった。
そうだよな。
マデリーネさんの陣痛から先覚症の発症、そして魔王国での双子の出産。
途中途中で休んではいたけど、完全に気を抜くことは出来なかっただろう。
自宅である宿に戻ってきて、更には使い慣れた厨房での作業をこなしたことで、ようやく日常を取り戻したってところか。
そりゃ盛大に一息つきたくなるわな。
「ショータ……その……ありがとうな」
「いえ、依頼ですから」
「そういや、マロンからの依頼だったな。だが良かったのか?」
良かったのか、か……まぁ良いか悪いかでいえば悪いんだろう。
ガロンさん一家だけでなく、アイナ婆さん達にまで飛空艇の存在が知られた訳だからな。
もっと言えば、宿の裏庭で呼び出してしまった以上、町の人の中には飛空艇の姿を見た人もいただろうし。
「それを確かめたくて、ご近所さんを集めたんじゃないですか?」
「その様子だと上手く聞き出せたみたいだな……」
微妙に不思議に思えてたのが、この宴会だ。
いくら赤ん坊が生まれて浮かれていたとしても、お披露目するには少々気が早い。
ご近所さんの話では、こういったお祝いをするのはもう少し落ち着いてかららしいし。
ガロンさんの呼びかけと、パインさん達によるエールの提供により急きょ開催された宴会だが、その真の意図はご近所さんを集める事にあった。
そのおかげで、飛空艇というか銀色の飛行物体を見たかをご近所さんから聞き込みするのは容易だった。
酒も入っているせいか、特に不振がる様子もなかった。
これが素面、それも一軒一軒巡った場合だと、これほど簡単に聞き出すことは出来なかっただろう。
なお、返ってきた反応は皆一様にNOだった。
夕方のあの時間帯に、わざわざ空を見上げるような暇な人はいなかったらしい。
まぁ見られようと見られまいと、俺が選べる選択肢は一つしかなかったんでどっちでもいいな。
俺にとっての良し悪しは、マデリーネさんと双子の命だ。
彼女たちが助かったのだから、それでいいんじゃないのかな。
「そういや、ダンジョンに挑むそうだな」
「耳が早いですね」
「嬢ちゃんがアレクに伝えてる所にいたからな」
この手の伝達って、リーダーである俺の仕事のはずなんだけど……まぁ楽が出来ていいか。
「知ってるとは思うが、あのダンジョンは地竜が出る。明日は浅い階までらしいが、油断はするなよ?」
「……はい」
俺の使ってる地竜の皮鎧は、ダンジョンに現れるヤツの皮を使ってると、フランさんが自慢していたな。
地竜がどの程度の相手かは分からないが、曲がりなりにも『竜』と付く位なんだから強いのだろう。
浅い階とは言え、十分に注意するとしよう。
「まぁあのダンジョンは十分に調査されてる、要は枯れたダンジョンだからな。油断さえしなければお前らでも大丈夫だろう」
「そうなんですか」
「あぁ、あそこはダンジョンコアの場所まで調査済みだが、魔石やら素材が採れるんで破壊されないだけだ」
モッさんが言ってたな。
この町が辺境の割に栄えているのは、ダンジョンがあるお陰だって。
ダンジョンが封鎖も破壊もされないのは利用価値があるから。
でも魔物があふれ出す危険性はあるので、ある程度は間引きをする必要がある。
町の兵隊達も定期的に間引いてはいるが、彼らは他にもいろいろな仕事がある。
その為、通常の間引きは俺達のような冒険者が担っているわけだ。




