表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
660/1407

第660話 出産祝い

 ローストビーフは魔王様(元)の慈悲で半分こしていただけました。

 噛むたびに溢れる肉汁、大変おいしゅうございました。


「風呂はもういいのか?」

「もう少し入っていたかったのだがな」


 なるほど。宴会の気配を嗅ぎつけたって事か。

 スーパー風呂人ふろんちゅ3なシャーロットも宴会には目が無い様だ。


「風呂はまた後で入ればいいだろう」

「……そうか」


 さすがスーパー風呂人ふろんちゅ3である。

 連続の入浴もドンとこいのようだ。

 惜しむらくは、俺は普通の風呂人ふろんちゅのため、もう一度入りたいとは思わない事か。

 折角の混浴チャンスを逃してしまうが、そうそう連続では入りたくはない。

 飛空艇(うち)の風呂は温泉と違い、何度入ろうが効能は無いのだしな。


「しかし、この大騒ぎ。よくマデリーネ殿が許したな」

「だな。俺もソレは気になった」


 宴会自体はまぁいい。

 ガロンさんの性格なら、ご近所さんを巻き込んでの宴会も有り得る。

 だけど、それを行える予算があるのか? と聞かれたらNOだろう。

 そんな金があったなら、今朝セーレさんのところで出張料理人みたいなこと、する必要ない訳だし。


「あら、その辺は大丈夫よ。食材はご近所さんからのお祝いで賄ったみたいだし、エールはアタシとクォートからのお祝いよ」

「おいおい、俺の分もあるだろ」

「モトルナの分なんか、自分で飲んでる分ぐらいでしょうが」

「それでもお祝いはお祝いだろう」


 文無しモッさんの割りに、お祝いとして贈れるような金があったのか。

 そんな金があれば、とっくの昔に飲み代に化けてるはずなのに、珍しい事もあるもんだ。


「なけなしの報奨金を全部つぎ込んだんだ。俺にだって贈ったと言い張る権利はあるだろ」

「はいはい。だから樽にちゃんと書いてあるでしょ? 『モトルナ寄贈』って」

「あぁ。これ見よがしってぐらいでっかくな」

「アンタの奢りなんて滅多にないから、記念にしておいてあげたわよ。ありがたく思いなさい」


 モッさんの座る席の後ろには、確かに『モトルナ寄贈』と書かれた樽が置かれている。

 ただ、ジョッキにエールを注ぎ込んでいるのは、その隣にあるもっとデカい樽からだ。

 つまりアレがパインさんとクォートさんからのお祝いなんだろう。


 ちなみに同じサイズの樽はもう一つある。

 パインさんの分で一つ、クォートさんでもう一つって事か。

 しかもモッさんのと違い、『パイン寄贈』とか『クォート寄贈』とか書かれていない。

 色んな意味でモッさんの負けである。


「で、話を戻すと材料とかはお祝いで持ち込まれてるって事は、ガロンさんからの持ち出しは自分の技術ってことか」

「それと、この場の提供だね。これだけの人数が飲んで騒げるのって、そうそうないでしょ?」


 酒場とかはあるけど、中々貸し切りにはしにくいか。

 アレだな。近所の寄り合いとかで、近くの公民館で飲み会しているようなモノか。

 祖母が「ご近所付き合いは大事よ」と言って、たまに参加してたっけ。


「それにな。金がねぇってのはあの時だけで、宿に戻れば蓄えぐらいちゃんと残してあるんだよ」

「そうでしたか」


 ガロンさんが大皿と一緒に現れ、そんなフォローを入れてくれた。

 出発の時は慌てていたので、とりあえずの有り金を集めはしたが、それ以外である宿の運転資金やら生活費までは手を付けていなかったらしい。


「ほれ。こいつを試してみてくれ」

「コレは……土?」


 大皿の上にはこんがりと焼けた土が鎮座している。

 試してみてくれって言われても、流石に土は食えないんですけど?


「昼にアレクが塩で魚を蒸し焼きにしていただろ?」

「塩釜焼きの事ですね」

「そうその塩釜な。やり方は面白いが、塩を大量に使うからな。なかなかやりたくても出来ないだろ?」

「たしかに……」

「そこでこの土よ。塩の代わりに土でやってみたんだがな……さて、上手くいってるといいが」


 不安そうな口ぶりだが、その顔に不安な様子はない。

 自身の技術とスキルに自信があるのだろう。

 俺も料理系のスキルは持っていないが、この料理が美味い事だけは分かる。

 土を割り、葉っぱに包まれたコッコゥが姿を現した途端、香しい匂いが漂って来たからな。

 これでマズけりゃ、匂い詐欺だ。


「さぁ試してくれ。美味けりゃコイツが新しい看板メニューだ」


 見事な手さばきで、瞬く間に切り分けられていくコッコゥ。

 「よし」の合図を今か今かと待ち構えていた俺達は、その言葉と共に一斉に手を伸ばす。

 ローストビーフで繰り広げられた争奪戦が、再び勃発する。


 ガロンさんの新作メニュー故か、争奪戦に参加する人数は先程よりもはるかに多い。

 コッコゥは丸ごと一羽使われているとはいえ、分け合える数には限りがある。

 つまり先程のローストビーフよりも遥かに困難な争奪戦となる事だろう。


 だが俺には身体強化の魔法がある。

 使えるようになったばかりでコントロールは難しいが、単純な筋力強化だけなら何とかなる。

 俺はどうにか争奪戦の勝者の一人になることが出来た。


 ちなみにシャーロットは開幕直後に全員からの袋叩きにあっていた。

 彼女の脅威は先のローストビーフ戦で、全員が知っていたからな。

 まぁ、率先して潰す様に俺とモッさんが仕組んだんだけど。


 強いヤツを先に潰すのは、バトルロイヤルの鉄則だろ?

 恨むなら己の強さを恨むんだな。


 ……おーけーおーけー。

 俺の取り分の半分を渡すから、その元気〇モドキは降ろしてくれないか?


「ダメだな」


 俺の分は全部奪われた。

 魔王様に慈悲は無いようだ。

 仕方ない、モッさんのを半分奪うとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ