第66話 登る
シャーロットが言うには、飛空艇の天辺には何やら部屋があるらしい。彼女はいつ見つけたのだろう? って当然さっき望遠鏡で覗いている間だよな。
展望デッキにでて確認すれば、確かに天辺になんかある。望遠鏡がある辺りよりも離れて、初めて見える程度だったから、気が付くことが出来なかったのだろう。単に俺が注意力散漫なわけではないと思いたい。
問題はどうやって開放すればいいかってことだな。ジャンプしたぐらいでは届かない。いやまてよ? 忍者は刀を足掛かりに塀を乗り越えたと聞いた覚えがある。ならば槍でも出来るはず!
早速槍をマジックバッグから取り出し壁に立てかける。うーん、この場合は穂先を下にするべきだよな。上にしたら、足をかけた時に刺さるだろうし。幸い普通の槍よりも柄が短いから、石突部になんとか足はかかる。
「せーのっと」
くっ、指がわずかにかかる程度か。何度かトライするがなかなか手に届かない。助走付けてみるか。よし、左手が掛かった! けどこの後どうしよう?
現状は片手だけでぶら下がってる状態だ。片手懸垂出来るほどの筋力なんてもちろん無い。なんとか両手が掛かるように体を振ってみるが、掛かってる手の方がヤバい。遂に手が離れてしまう。
「くぅ」
「キミは何をやってるんだ……」
「何って、天辺に登るために決まってるだろ」
何を当たり前のことを言ってるんだ?
「はぁ……キミは毎回あのドームへ登るために、そんなことを繰り返すつもりか?」
「いや、そんなつもりは……ただ、あの区画を開放すれば登る機能まで付いてくるかなぁと」
「そもそも、この船にはどうやって入ったんだ?」
「そりゃぁタラップで……ってそうか!」
「そこへ登る機能とやらが当然先に出るのではないか?」
「ありえるな……」
「大体もし登れるならそういった梯子なり階段なりが有って然るべきではないか?」
「ぐぬぬ……きぃ悔しい!」
「フフン」
なんだか彼女の方がこの船の事を分かってるようで悔しい。けど確かにその通りなので彼女のドヤ顔を止めることが出来ない。悔しいが言われた通り、天辺のドームに登りたい! と念じてみる……が反応がない。変だな? 大抵このタイミングでウィンドウが出るのに……。
「反応がないな……どういうことだ?」
「だから私に聞くなというのに……」
だよな……俺のスキルだ。俺が一番理解してるべきなんだ。でも何でウィンドウが出ないんだろ? 今までのパターンを思い出してみる。
うーん、いつも必要な時にその場でウィンドウが出てるからなぁ……。ん? その場か……。
『必要な時』は今登る手段が欲しいんだから、合っているはずだ。とすると『その場』が違うってことか?
もし外から登るなら、展望デッキから以外無いだろう。リビングや寝室のベランダや登るとは考えにくい。勿論風呂場からってことも無い。向こうからじゃ天辺まで遠すぎる。
そう考えれば、可能性があるはずの展望デッキで無かったのだから、外からってのは除外してもいいはずだ。
となれば残る選択肢は船内以外ない。そう結論付け、展望デッキから廊下に移動する。この辺がドームの真下あたりなんだよな……とりあえず上に登りたい! と念じてみる。すると果たしてウィンドウが現れた。
『MP2を消費し「機能:エレベーター」を開放しますか? MP7/18』
おぉ! 思った通りウィンドウが出たけど、思った以上の機能が出たな。しかもMP2って、ちょっと高くないか?
いやまてよ? 天辺に上がるだけの機能だったらMP1でもいいはずだ。だがここに来てのMP2は何かあるはず。例えば中層、下層まで行ける……とか?
ええい、男は度胸だ。期待を込めてYESを押す。すると足元に光の円盤が現れる。更には目の前にウィンドウが!
ただ、このウィンドウ、エレベータのボタンにそっくりなんですけど……。ボタンだって『R・3・2・1・B』ってなってるし……。上層とか中層とかって表示はどこ行ったんだ?
まぁいいや。とりあえず『R』を押すか……っておい! なぜ抱き着く?!
突然シャーロットに抱き着かれた俺は、そのまま光の円盤から降りてしまう。突然の彼女の奇行に、とりあえず抗議する。いや嬉しかったけど!
被告人の弁護としては、
「突然キミの足元が光り出したから、何かの攻撃魔法かと思ったんだ……」
だそうだ。まぁ確かに突然足元が光れば、何か起こったとは考えるよな。彼女の場合、それが何らかの攻撃魔法だと勘違いし、俺を逃がす為に思わず体当たりをするはずが、何故か抱き着いていた訳だ。
ってことで判決は無罪! 決して抱き着かれたから等が、判決理由には含まれていない事を明記しておこう。もしかして今日のステータスは『ラッキースケベあり』なのか?
<描く予定のない裏設定>
キャプテンシート(操縦席)では船内全域の情報が把握できるため、現地に行かなくても区画、機能等が開放可能です。
ただしその区画、機能等を知っていることが必要です。(第4話で行けないはずの機関部の開放が出来たのはこの機能によります)
主人公はあまりの情報量に挫折しましたが、例えば脱衣所の先にあるはずの大浴場も、キャプテンシートからなら存在を確認し、かつ解放も可能でした。もっともMPがあればですが。
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「だから私に言うなというのに……」→「だから私に聞くなというのに……」




