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第652話 立てたつもりのないフラグが、速攻回収された件について

 塩の平原での塩採取を終えた俺達は、そのままマウルー付近の街道沿いまでひとっ飛び。

 周辺に誰もいない事を確認しつつ、ハマルが牽く馬車へと手早く乗り換える。

 三度目ともなれば乗り換えもスムーズで、特に問題が発生することなく、マウルーの北門を通過した。


 大通りをゆく途中でアンリ先生は「患者さんが待ってるから」と、途中下車。

 そのまま診療所へと向かうそうだ。

 患者を大事にする、いいお医者さんである。


 なお、アイナ婆さんの方はそのままついて来ている。

 婆さん曰く、


「野生の動物を見てみな。あいつ等、産婆がいなくったって、ちゃんと出産してるだろ? 生命ってのは案外丈夫に出来てるもんさ」


 らしい。

 自身の職務を完全否定である。


 あと人間の出産と野生の動物の出産を同じにしないで欲しい。

 向こうは生まれた瞬間からサバイバルゲームがスタートしているヤツ等なのだ。

 産まれたその場で立って歩くようなお釈迦さまがデフォルトな連中なのだ。

 野生の動物、スゲェな。





「あら、お帰り。義姉さんも無事だったみたいね」


 パインさんは『辺境の宿 ガロン』の留守を任された人物であり、かつガロンさんの妹でもある。

 彼女が宿の受付に座っているのは、まぁいい。


「おや、おかえり。思ったよりも早く戻って来れたね」


 クォートさんは屋台を任されているし、ガロンさんの弟弟子でもある。

 彼が厨房から顔を出すのも、まぁいい。 


「おう、やっと戻って来やがったか。オメーにお客さんだぜ」


 ただしモッさん、テメーはダメだ。

 なんで営業していない筈の宿屋で、フツーに飯食ってんだ?

 しかも見覚えのある爺さんまで連れてきやがって。


「お前さんがショータとやらか。はて? どこかで見た顔だのう」


 エジンソン……相変わらず人の顔を覚えないんだな。

 まぁこの爺さんが居る事は、馬車を裏庭の駐車スペースに入れた時点で気付いていたけどな。

 世界に一台しかない筈の自動車が隣に駐車してあれば、誰だってその持ち主が居る事位気付くわな。


 だがな、爺さん。

 宿泊所を探して来たんだろうが、この宿は営業していないんだ。

 だからとっとと回れ右して、別の宿を探す様に。


 ――そんな俺の願いは叶うこともなく、一方的にまくしたてるエジンソン。

 助けを求めようにも、ガロンさん達はパインさん達に生まれたばかりの赤ん坊をお披露目中。

 実にアットホームな雰囲気は、まるで俺の助けを拒絶するかのよう。


 やはり頼りになるのは、共に死線をかいくぐった仲間たちだけ。

 ……の筈なんだが、頼りになる筈の仲間たちは、既に姿が無い。

 俺がエジンソンに捕まってる間に、それぞれの部屋へと消えていったのだ。


 シャーロットとシュリの二人は、エジンソンの厄介さを知っているから逃げるのも仕方ない。

 クレアとベルの二人が居ないのは、ベルの持つ野生の勘とそれに乗っかったからだろう。

 だが、せめて……せめてアレク君だけは残ってて欲しかった。

 仲間とは苦しみは分かち合うモノなんじゃないのかね。


「……という事でな。門番達から、お前さんが銀色の飛空艇の情報を持ち込んだ、と聞いたのじゃ……ってちゃんと聞いておるのか?」

「え? えぇ」


 勿論、聞いてません。

 この爺さん、自分が喋りたいことを、時系列とか相手が理解しているかとか考えずにしゃべるのだ。

 なので話が断片化しまくって、爺さんの話した内容の十分の一も理解できない。


 とりあえず分かった事は、爺さんが門番さんに俺の情報を聞いたこと。

 といっても姿恰好だけで、名前や居所までは分からない。

 そのまま迷宮入りになる筈だったのだが、そこに天の助け――俺にとっては悪魔の使い――がやって来たのだ。


 言うまでも無い、モッさんである。

 そこまでエジンソンは、自分の分は話し終えたとばかりに、食事を再開する。

 やっと終わったかと思ったら、今度はモッさんがその話を引き継ぐかのように話し始めやがった。


 モッさんの話なんかどうでもいいから、俺も部屋に行って休みたい。

 なのに俺の願いはまたもや無視され、モッさんの話――内容からすると自慢話か――が始まった。

 ただでさえ長話なんか聞きたくないのに、自慢話とかマジ勘弁。

 それでも一応聞いてやった俺はマジいい人。


 で、モッさんの話をまとめると、ヤツはテオガーからの帰り道、というかワイバーン討伐のため、テオガーから駆り出されたらしい。

 いわゆる強制依頼だな。


 ワイバーンを討伐するにはワイバーンを見つける必要がある。

 とはいえ、相手は空を飛ぶ生き物。

 地上を這う人間が早々見つけられるものでもない。


 目撃情報を頼りに、囮となる家畜を連れて街道を行ったり来たり。

 いい加減、面倒臭くなって来たなー。と誰もが思った、その時。

 空からワイバーンが降って来たのだ。


 そう、襲って来たのではなく、降って来たのだ。

 異世界アルカナでは、空から全裸の女性(シュリ)が降ってくるだけでなく、ワイバーンも降ってくるらしい。


 ……いや、分かってる。

 いくらワイバーンが飛ぶのがヘタクソでも、勝手に墜落するほどではない。

 当然、何者かによって撃墜されたのだ。


 そして俺は、その何者とやらに心当たりがあった。

 あれはそう……マデリーネさんをディルマへと搬送するため、飛空艇でマウルーを飛び立った時の事だ。

 あの時、俺は機関室に居たので気付かなかったが、シャーロットがワイバーンを擦れ違い様に撃墜したらしい。


 正直、今の今まで只の冗談だと思っていた(いたかった)のだが、マジな話だったようだ。

 シャーロットが見たという兵隊の中に、モッさんも紛れ込んでいたのか。

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