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第648話 潮干狩り? いえ、塩狩りです

 マロンちゃんとのかくれんぼ対決は、当然の事だが鬼である俺の勝利だった。

 飛空艇という空間内において、俺のというかダンデれもん様の目を欺く事など不可能だからな。

 HAHAHA、まったく船内マップはチートスキルだぜぇ。


 ……うん、分かってる。

 マロンちゃんの見事としか言いようのない隠れっぷりに、ちょっと本気を出してしまったのは流石に大人げなかった。

 しかも本気の出し方がスキル頼りとか、情けないにも程がある。

 やってしまった後、我ながら「いい大人としてどうよ?」ってなるぐらい、ドン引きな方法であろう。


 船内マップ(禁断の技)を使ってマロンちゃんを見つけると、彼女は悔しがる様子もなく、ただただ「おにーちゃん、すごーい」と、俺の事を称賛してくれた。


 マロンちゃん……俺はそんな風に賞賛されるような人間じゃないんだよ。

 俺は船内マップに表示される君の居場所に、ただただカーナビに案内されるがごとく向かっただけなんだ。

 しかもマップに表示されているのに見つけられなくて、マップの方を疑ってしまった位なんだ。

 本当にすごいのは、それほどまでに隠れ切った君と、それを見つけた飛空艇なんだよ。


 え? タマコ?

 アイツなら廊下で観葉植物のフリしてるよ。

 一応、あれでも隠れてるつもりらしい。

 ああも堂々としていられると、見つけていいのかどうかの判断がつかないんだ。


「あ! タマコちゃん、みーっけ!」


 なので勇者マロンちゃんに出陣を願ってみた。


 さすが幼女だ。なんのためらいもなく、アッサリと見つけてみせてくれた。

 タマコは「見つかっちゃったー」って感じに葉っぱをワサワサッと揺らす。

 そうか、やっぱりアレで隠れたつもりだったんだな。

 今度は遠慮なく見つけた宣言してやろう。


 そんな感じでマロンちゃんとの楽しい時間は過ぎていくのだった。





「さぁ着きましたよ。降りてください」

「着きましたよって言うがな。ショータよぅ……ここはどうみてもマウルーじゃねぇぜ?」

「つべこべ言わずに、降りた降りた」


 搭乗口からみえるのは、頭上の青い空と眼下に広がる白い世界。

 一見すると先程まで眺めていた雲のように見えるが、勿論違う。

 その正体は……まぁアレだよ、アレ。

 そんな事より、ガロンさんの背中を押す方が先だ。


 俺に追いやられながら、タラップを降りるガロンさん。

 その足取りがおっかなびっくりなのは、光のタラップ(手摺なし)を降りているせいか、あるいは白い世界の正体に気付いたからか。


 多分、前半はタラップ(手摺なし)を降りる恐怖心で、後半は正体を知ったからかな。

 やがてガロンさんの足がソレを踏んだ時、疑問が確信に変わったらしく、降り立つなりその白い砂を口に含む……って、ガロンさん!?


「ブフゥーーー!」


 あぁ、言わんこっちゃない。

 案の定、大量の塩を食べたせいか、噴き出してしまった。

 以前、シャーロット達が食べた時は塩水だったから綺麗な虹で済んだが、乾いた塩ではタダの毒霧だ。

 幸い、噴き出した先に誰もいなかったから良かったものの、そうでなかったら、その人のダメージは計り知れなかっただろう。


 なにせヒゲ親父の毒霧だからな。

 俺が喰らったなら、一週間は寝込むこと間違いなしのダメージだろう。


「ショータ。これは……いや、ここはまさか……?」

「えぇ、お察しの通り、例の塩の産地です」

「ショータさん。これって全部塩なんですか?」


 目の前の光景が信じられないのか、アンリ先生が訊ねてくる。


「えぇ。全部塩です。この平原の白い所は、全てが塩なんですよ」

「はぁー、コイツが全部塩とは……長生きはするもんだねぇ」


 そう、目的地とはマウルーではなく塩の平原だった。

 折角ガロンさん達を乗せているのだし、帰り道の途中に塩の平原を通過するのだ。

 これは寄らない訳にはいかないだろう。


 そしてサプライズ演出とは、ガロンさんも認める良質な塩を、自らの手で採る事。

 道具は以前、採取に使ったものがあるし、塩を入れる袋も使って空いた袋がある。

 自分で採るならば人件費は無視していいし、これなら俺から塩を買う必要も無い。


 ガロンさんは俺の説明を一通り聞き道具を受け取ると、「ありがとうな」と一言呟き早速掘り出した。

 袋はソコソコあるし船に戻れば大甕もある。

 なんなら俺達が以前に採取した塩を渡したっていい。

 どうせガロンさんに卸すために用意しておいたヤツだしな。


「いや、そこまでは大丈夫だ。それよりショータ。すまんが塩を運ぶのにマジックバッグを貸りてもいいか?」

「えぇ、いいですよ」


 ガロンさんならマジックバッグなしでも二袋ぐらい余裕で持てそうだけど、そうやって往復するより塩を採る事を優先したいようだ。


「おとーさん、それならマロンがはこぶよー」

「おう、そうか。じゃあ頼んだぞ」


 一生懸命働く父を助けたいのか、マロンちゃんがお手伝いをしてくれるようだ。

 マジックバッグに入れてしまえば重さは関係なくなるし、飛空艇内での受け取りはタマコに任せておけばいいだろう。

 俺はマロンちゃんにマジックバッグを渡すと、他の人の様子を見に行くことにした。

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