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第632話 マロンちゃんへの頼み事

『よし、これで終了だ』

「え? 終わり?」


 えーっと……確かにお安い御用とか、チョチョイのチョイで出来るとか言っていたけど、こんなアッサリ終わるものなのか?

 俺にはゼペト氏がターニャちゃん人形に向けて両手をかざしただけのように見えたんだけど?

 このアッサリ具合は、某七つの玉を集めると願いが叶えてくれるドラゴン並みのアッサリさだな。


『スキルのお陰で、人形に直接干渉できるからね。中身を書き換える程度なら、こんなもんだよ』

「そうなんですか」


 イメージとしては、パソコンをフォーマットするようなモノらしい。

 戦人形というOSを削除してしまえば、残されるのはガワである人形本体のみ。

 強大な力も、扱う能力が無ければ無力なのと一緒である。


「ん? それって、戦闘力自体は残っているって事ですか?」

『……そうなるな。おっと、すまない。そろそろ時間だ。今日は久しぶりに同郷の者と話せて楽しかったよ』

「ちょ、ま」

『………………』


 願いをかなえた後、即座に消えてしまうのもあのドラゴン並みだった。

 飛び散る前に星四つの玉を掴むスキすらなかった。

 まぁゼペト氏は七つに分かれた訳でもないし、飛び散ったりもしないけど。


「……ふぅ、ヤレヤレ。マスターと来たら出る時も引っ込むときもいきなりなんで、付き合う方はたまったもんじゃないね」


 眠りについたゼペト氏に代わって口を開いたのは自動人形(オートマタ)のバンボラだろう。

 先程まであった抑揚のあるしゃべりではなく、某カロイドのような平坦なしゃべりに戻っていたからな。


「あの……この人形なんですけど」

「あぁ、その子の事なら大丈夫だよ。マスターは人形の事に関しては完璧主義者だからね」


 完璧主義者なら、完璧な安全を保障してから消えて欲しものである。

 あるいはもう一度目覚めてくるとか


「あぁそうそう。マスターが目覚める用の魔素を貯めるのに一年ぐらいは掛かるから、すぐには出てこれないよ」

「一年……ですか」


 その辺も某ドラゴン並みなんだな。

 となると、ターニャちゃん人形をどうするべきかね。


 A案:ゼペト氏の言葉を信じ、マロンちゃんに返却。

 B案:一年待ち、きちんと安全確認を取ってから、マロンちゃんに返却。

 C案:諦めて別の人形を渡す。


 一応、三択にしてみたけどB案もC案もないな。

 B案だと、下手すりゃ一年たったらターニャちゃん人形の事を忘れてる可能性すらある。

 そもそも一年後とか、何話掛かるんだって話だしな。

 ……何話って何のことだ?


 C案も今更だろう。

 だいたい、別の人形の候補が木彫りの熊とネギ人形だしな。

 それならターニャちゃん人形を渡す方がまだマシだと思う。


 うーん……まぁいいか。

 今日会ったばかりだけど、ゼペト氏を信じよう。

 向こうもプロなんだろうから、自分の仕事に嘘をついたりはしない……と思う。


「まぁ、それはそれとして、一応こっちも買っておくけどな」

「ウチとしては商売なんで買うのは止めたりしないけど、ちょっとモヤッとするねぇ」


 人形なのにモヤッとするとか、流石は会話特化型といった所か。


 人形二体分の支払いを済ませ、店を出る。

 ターニャちゃん人形の改造費はゼペト氏のサービスらしい。

 伝説ともいえる人形師への依頼なんで、べらぼーな対価が必要だったかと内心戦々恐々していたのは内緒だ。


 思ったよりも長居していたせいか、すっかり日も傾いている。

 店を出たあたりでマロンちゃんに掛けっぱなしだった、睡眠魔法を解いてもらう。

 サプライズ演出のためとはいえ、ずっと眠らせっぱなしで申し訳ない。


「うーん……あれ? ここ、どこ?」

「おはよう、マロンちゃん。ここは……どこだか分からないけど、とりあえず帰り道の途中だよ」

「えーっと……」


 混乱しているマロンちゃんだが、君は正しい。

 魔法で眠らされた上、起きたらシュリに背負われているのだ。

 誰だって混乱する。


 そしてその混乱に乗じて、マロンちゃんが町ブラの途中で急に眠くなったこと、その為俺達が交代でおぶって帰路についている事を伝えた。

 真っ赤な嘘という訳でもない辺りがミソだ。


「えーっと、よくわからないけど、ありがとうございました」


 寝起きの為か、あるいは混乱しているのか。

 マロンちゃんは、俺がでっち上げておいた言い訳をあっさり信じてくれた。

 そんな素直なマロンちゃんにプレゼントをあげるとしよう。


「マロンちゃん。起きた早々でわるいんだけど、一つ頼まれてくれないかな?」

「たのみごとー?」

「うん。マロンちゃんに是非ともやって貰いたいことがあるんだ」


 マロンちゃんは少し悩んだが、すぐに頷いてくれた。

 大変素直でいいけど、もう少し悩んでも良かったんだよ?

 でないと悪い大人に騙されたりするからね。


「実はね……ちょっと買い物しすぎて、このバックの中に荷物が入りきらなくなっちゃったんだ。それなんで、マロンちゃんにも荷物を預かってもらいたいんだ」

「あずかりもの? それならマロン、とくいー」


 宿でもお手伝いとして、お客さんからの荷物を預かる事があるらしい。

 得意満面で頷いてくれた。


「でも、かいすぎはよくないよー。おかーさんも『おかいものはけいかくてきに』って、おとーさんによくいってるよー」

「あーうん、そうだねー」


 ガロンさん……まさか俺から買った醤油とかの事じゃないよね?

 マデリーネさんのお小言の内容が気になるが、とりあえずこっちを先に済ませよう。


「それでね。マロンちゃんに預かっててもらいたいのは、これなんだ」


 俺はマジックバッグからターニャちゃん人形を取り出し、マロンちゃんに手渡す。

 突然の再会に言葉を失ったようで、黙って人形を受け取るマロンちゃん。


 まぁ泣く泣く手放したはずの親友が、不意に戻ってくれはそうなるよな。

 だが俺は幼女にも容赦しない男。

 更なるプレゼント攻勢で、畳みかけてやるぜ。

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