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第622話 一目惚れ

 ひとめぼれは、イネの品種の1つ。水稲農林313号。

 1981年宮城県古川農業試験場において、良食味と耐冷性を併せ持つ品種の育成を目的としたコシヒカリと初星との交配から育成が開始された。

 1991年に水稲農林313号「ひとめぼれ」として命名登録され、1992年に種苗法による品種登録がなされた。 (ウィキペディアより)


 違う。これは米の品種の『ひとめぼれ』の事だ。

 コヨル少年の一目惚れとは全然違う。

 そもそも、なんで俺が『ひとめぼれ』のウィキペディアを知っているのだ?

 あまりに突然の発言だったから、wi-fiでも混線したのか?

 この世界にwi-fi飛んでるかは知らんけど。


 wi-fiはどうでもいいが、コヨル少年の一目惚れはどうでもよくない。

 突如現れた少年にシュリがなびくとも思えないが、ヤツが少年好きだったら分からないからな。

 いたいけな青少年を保護するためにも、彼の淡い恋心は儚くついえてもらおう。

 決してロケットさんを独り占めしたいわけでは無い。無いったら無い。


「一目惚れ……ね。情熱的なのは結構だけど、正直短絡的すぎやしないか?」

「そうっすか? 師匠のあの姿を見たら、誰でも一目惚れすると思うっす」


 誰でも、は無いんじゃないかな?

 もし誰でも一目惚れしているなら、今頃シュリを巡っての争奪戦が繰り広げられてるはずだし。


「それは……他の人達は僕よりも情熱が足りなかったからっす」


 人を動かすのは情熱だけ。

 誰かが、そんな事を言ってたっけか。

 元気もやる気も、その根底に流れているのは、きっとこの情熱だ。

 夢や希望という燃料を燃やし、そこで生まれた情熱こそが、人を動かす原動力となるのだ。


 熱い、熱いなぁ。

 日本一熱い男と称される、元プロテニスプレイヤーに匹敵する熱さなんじゃないかな。


「熱すぎる人はコリゴリなんスけどねぇ……」


 コヨル少年の話を聞いた後。

 彼が練習を開始するのと入れ替わりで、今度はシュリが俺の所にやって来たので、コヨル少年の事をどう思っているのか、ずばり聞いてみた。


「勇者をやってた頃にも、あんな感じな人に良く絡まれたッス」

「そうか……」

「魅了系のスキルは取っていないんスけど、何をしたわけでもないのに、不思議と寄って来てたっス」


 そう、シュリは愚痴るように吐き出す。

 うーん……どうやらコヨル少年の情熱は逆効果だったらしい。

 まぁ、あの手の人間に四六時中貼り付かれたら、俺だってイヤだしな。

 情熱が空回りするのもよくある事だし、コヨル君の淡い恋心の冥福を祈るとしよう。




 そんな告白する前から振られることが確定しているコヨル少年が加わり、お手玉レッスンを開始する事、約一時間。

 遂にマロンちゃんがお手玉三個の壁を乗り越え、免許皆伝となった。


 それはすなわち、この青空教室の終了であり、コヨル少年との別れの時間でもある。

 俺達の拠点はマウルーであり、彼の拠点はこのディルマなのだから。

 コヨル君にも彼なりの生活がある以上、ここで別れるべきだろう。


 だからこその免許皆伝。

 弟子入り志願が一緒に行動するきっかけだったのであれば、彼を一人前と認めてしまえば、一緒に居る理由も無くなる。

 しかも「あとは自分なりの技を磨くっス」と言っておけば、コヨル君が一緒に来たがっても断る事が出来る。


 そんな皮算用でコヨル君にお手玉を促すシュリ。

 俺の見たところ、彼ももう少しで三個の壁を越えられそうな所にまでは来ている。

 あとは乗り越える何かがあれば、きっと彼も免許皆伝となるだろう。


「分かったっす。修行の成果をみせるっす。そして師匠に認めてもらうっす!」


 バチンと己の顔を叩き、気合を入れるコヨル君。

 その何かこそ、彼の持つ熱いまでの情熱に他ならない。

 彼の背後に、燃える炎を背負い、懸命に回し車を全力で回すハムスターの姿が浮かび上がった。


 ……あれ? なんか成功する感じがしないな。

 思いっきり空回りするだけの予感しかしない。


「うぅ……ぅ……」


 実際、彼のお手玉は酷かった。

 先程までの練習であれば、二個のお手玉は余裕。

 三個であっても、三回に一回位は成功するまでに至っていた。


 ところが、いざ本番! となった途端、ボロボロだった。

 三個どころか、二個、いや一個すらままならい程だ。

 回し車を回しすぎ、遂には壊してしまったかのようであった。


 あー、そういやこのコヨル少年。

 戦闘においても、似たような感じだったっけ。

 練習ではソコソコなのに、いざ実戦! となった途端に、ボロボロになるらしい。

 命が関わらないから大丈夫じゃ無かったのか?


「し、師匠に認めてもらえると思うと、緊張しちゃったっす」


 コヨル少年は「師匠の期待を裏切ってしまったっす」とポロポロと涙をこぼしている。

 見た目から少年と呼んではいるが、冒険者になれるって事は、コヨル君だってとっくに成人済なんだろう。

 だけど、こうして涙を流す様は見た目通りの年齢に見えてくる。


「魔族は寿命が長い分、心と体の成長が一致しない種族も居るからな。見た目赤ん坊でも老獪な心を持つ種族もいれば、コヨルの様な体だけが先に成長して、心がゆっくり成長するのを待つ種族もいる」


 よしよしとコヨル少年の頭を撫でながら、シャーロットはそんな事を教えてくれる。


「んー……じゃあ、こうしたら少しは元気になるっスかね」


 ――ぱふん


 そんな擬音が聞こえてきそうな、そんな幸せな感触に包まれるコヨル少年の頭。

 おいおい、そんな事をしたら元気になり過ぎると思うぞ?

20/06/21 誤字報告より訂正

いざ実戦! となるった途端に、ボロボロになるらしい。

いざ実戦! となった途端に、ボロボロになるらしい。

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