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第621話 コヨル少年

 マロンちゃん大道芸人化計画は、アレク君の尤もなツッコミによってえ無く終了となった。

 さすがに自分の人生ならともかく、よそのお子様(マロンちゃん)の人生を、俺やシュリが勝手に決めてしまうのはね。

 マロンちゃんの生きる道はマロンちゃんのもの。

 あとはせいぜいガロンさん達が、家族として干渉できる程度だろう。


「むー……ならば、弟子二号。キミに大道芸人の道を究めてもらうっス」

「弟子二号じゃなくて、コヨルっすよ」

「うむ。ではコヨル君。キミの修行の成果を見せてもらうっス」

「弟子一号のマロン姉さんには及ばないっすけど、がんばるっす」


 弟子二号……じゃなくてコヨル君が、気合を入れてシャーロット謹製の土団子をお手玉し始める。


 このコヨル君。

 彼は新人冒険者にして、シュリの弟子二号となった憐れ(?)な少年である。

 彼に出会ったのは、とある空き地でマロンちゃんへのお手玉指導をし始めた時の事だった。





 マロンちゃんへの指導に当たり、さすがに先程の通りで始めるのはマズかろうと、近くにあった公園っぽい空き地をみつけ、そこへ移動した俺達。


 家々が立ち並ぶ町に、ぽっかりと出来た空き地。

 土管こそないが、某青ダヌキが出てくるアニメによく似ていた。

 たぶん、隣の家にはカミナリ親父が住んでいる事だろう。


 そこでシュリを講師に、マロンちゃんとオマケのシャーロットがお手玉レッスンを始めたのである。

 お手玉程度、シャーロットなら簡単に出来そうな気もするけどな。

 まぁヤツはマロンちゃんと一緒の事がしたいとか、そんな理由だろう。


 ちなみに彼女のお手玉は、自身の土魔法で作っていた。

 初めはドロ団子だったのに、一瞬にしてピッカピカの土玉になっていた。

 俺はお手玉よりも、そっちの方を覚えたい。


 アレク君はレッスンを辞退すると、俺が呼び出したバックドアへ、途中で購入した食材と共に消えていった。

 彼はさっき巡った屋台の料理を、自分でも再現してみるらしい。

 この町ブラする前、ガロンさんが「知らない土地は、いい刺激になる」と言っていたが、その通りだったようだ。


 こうして青空教室が開催された訳だが、そこに乱入者が現れた。


「弟子にしてください!!」

「あ、弟子取ってないんで無理っス」

「そこの子供は弟子とは違うんですか?」

「この子はそうっスね……内弟子ってヤツっス」

「じゃあ、内弟子ってヤツにしてください!」

「内弟子枠は一人までっス」

「そこを何とか二人に!」

「そうすると、こっちの女性が二人目の内弟子になるっスね」

「なら三人目に……」

「そこでボーっとしている人が三人目ッス」

「俺、見学なんで、内弟子とか真っ平ゴメンだけど?」

「なら……」

「むー……ショータさんに裏切られたッス。まぁ仕方ないっスね。キミを弟子二号にしてあげるッス」

「ありがとうございます!!」


 弟子二号はシャーロットじゃ無かったのか?

 アイツは無料体験の枠なんで、弟子とは違う?


「といっても、あたしが教えられるのは、せいぜい一人か二人っスけど……」

「ならば私は見学に回るとしよう」

「そうっスか。すまないっスね」

「なに。指導を受けるのがマロンちゃん一人では寂しかろうと思っていただけだ」


 その割には気合を入れて土団子作ってたようですけどね。


「じゃあ、弟子二号。ビシビシ行くっスよ!」

「ハイ!」


 とまぁ、こんな風に弟子二号ことコヨル君が、現れた次第である。





「お前もやってみたそうだったけど、良かったのか?」

「まぁ少しはな……だが、あの少年の方がやりたそうに見えたんでな」

「左様ですか」


 シャーロットの見立てでは、コヨル少年は新人冒険者らしい。

 俺の見立てでもそんな感じだ。

 だって、冒険者ギルドのギルド証を首にぶら下げているからな。

 その割には装備は腰の小剣のみと、いかにもな駆け出しっぽさである。

 俺やアレク君でも防具はキチンと身に着けていたのに、それ以下とあっては新人も新人。

 昨日今日なりたてレベルだろう。


 そんな新人冒険者がギルドの依頼もせず、何故なにゆえシュリに弟子入りを志願したのか?

 それは彼が戦闘には向かない性格だったためらしい。

 休憩の時、気になったので聞いてみた。


 彼の場合、練習では問題ないけど、いざ実戦となると途端に怖くなって逃げ出してしまうんだとか。

 そんな性格のため、町の外に出るような依頼はこなせず、ここ一年はもっぱら町中の依頼をこなしているだけなんだとか。


 えーっと……新人冒険者どころか、俺よりも先輩だったのか。

 まぁいいや。話を続けよう。


 そのような事情を抱えているため、その日の生活費を稼ぐのが精一杯で、とてもじゃないが装備を整え、上を目指すことなんで出来っこない。

 かといって、実家に戻っても自分の居場所は既になく、冒険者として身を立てる他ない。

 そんなどん詰まりな彼の前に、救世主が現れた。


 それは町中でも出来る仕事。

 いや、むしろ町中で無いと出来ない仕事。


 それは高価な装備など必要としない仕事。

 やろうと思えば、その辺の石ころでだって出来る仕事。


 それはモンスターと相対する必要のない仕事。

 その代わり、人と相対する必要はあるが、命の危険はない仕事。


 コレだ! これなら僕にも出来る! と。

 そう思ったら居ても立っても居られない。

 すぐさま、その救世主の後をつけ、弟子入りを志願したらしい。


「ふーん…………。で、本当のところは?」

「言わなきゃダメっすか?」


 なんかシュリの語尾がうつってないか?

 指導を受けて、まだ一時間も経っていないよな?


「人間、正直に生きるのが一番楽だと思うぞ?」


 変に抱え込むと、かえって厄介なことにしかならんからな。


 俺もシャーロットも、もちろんシュリも。

 お前さんの狙いなんて、とっくの昔にお見通しよ


「えーっとですね……その……一目惚れっす」

「そうかそうか、やっぱり金か……え? 一目惚れ?」

「そうっす。一目惚れっす。華麗にお手玉を操る師匠に、自分は一目惚れしたっす」


 シュリの稼いだ金目当てじゃなく、シュリ本人が目当てだったのかよ!

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