第616話 屋台王決定戦
焼きモロコシは「昼飯前だから」とみんなで分けて食べたせいか、逆に物足りなくなるという、困った事態になった。
そもそも大き目のモノを選んだとはいえ、五人で食べること自体間違っていたともいう。
ところがシャーロットが発想を逆転させ「分け合えば色々な味が楽しめるな」と、他の屋台でも同じようにやろうと言い出した。
折よく屋台が並ぶ通りに出たからこそ、そんな発想を思いついたのだろう。
たしかにいい案だとは思うけど、屋台側にしてみれば『五人で来たのに注文は一人前』とか、肩透かしもいい所だ。
なので各々がベストな一品を探し出してくる事を提案してみると、他の四人も了承。
急きょ、ナンバーワン屋台決定戦が開催されることになった。
「ふっふっふ。あたしの目利き力があれば、ナンバーワン屋台を探すなど、朝飯前っスよ」
「甘いな。この町を(睡眠学習で)知り尽くした俺こそが、目利き力ナンバーワンだ」
「ガロン師匠への、いいお土産になりそうです」
「おねーちゃん。がんばろーねー」
マロンちゃんはシャーロットとのタッグである。
シャーロットは地元民という事で、今回の勝負には参加しないのだが、流石に見知らぬ土地に幼女一人を送り出すのはマズかろうという事で、彼女がマロンちゃんの護衛兼サポートとなる。
「ルールは大丈夫だな? 予算は魔銅貨十枚(銀貨一枚相当)まで。時間は、そうだな……二アカリ(十分)でいいか。それまでにここに戻って来る事」
「分かってる。さっさと始めるぞ」
「じゃあ、よーい……スタート!」
「「「「『灯せ』」」」」
それぞれの頭上に便利魔法『明かり』で生み出された光球が現れる。
MP1を消費して作られた光球は、誰が作っても五分間で消滅する。
それを利用すれば、MP2を使い二アカリ=十分を計る事など容易い事である。
合図と共に走り出すシュリ。
シャーロットの手を引き、駆け出すマロンちゃん。
この二組は足で探す派のようだ。
対するアレク君はその場から動かず、じっと屋台を見つめている。
なるほど……限られた時間の中、シャーロット達の様に歩き回ったのでは、全ての屋台を見る事は出来ないからな。
ああやって、全体の様子を眺めてから、おおよその当たりをつけようって魂胆のようだ。
勿論、その場へ行き間近で確認することも間違ってはいない。
某都知事と苗字が一緒な刑事のセリフに、「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!」なんて言葉もある位だからな。
遠くから眺めているだけでは分からない事も多々あるのだ。
かく言う俺の方針はというと、遠くから眺めるのはアレク君と一緒だな。
ただし、アレク君がそれぞれの屋台をじっくり吟味しているのに対し、俺は並んでいる人の数で決めようと思っている。
元日本人らしい発想だと笑いたくば笑え。
だが、それぞれの屋台に並ぶ人の数がマチマチなのを考えれば、行列が長い方が人気があると考えるのが妥当だろう。
少なくとも、あの行列を並んで待つ程度には美味しい筈だからな。
失敗した!
ケバブっぽい屋台が一番人が並んでいるな……と俺も並んだんだけど、並びすぎて時間に間に合わなかった。
しかも並んでいる理由が、店主の手際の悪さによるものが大きいだけで、味そのものは「まぁまぁ美味いかな」程度だった。
これだったら隣の屋台で売ってたトリの丸焼きの方が美味そうだったな。
そして、肝心の目利き王決定戦の結果だが、俺は当然不戦敗。
なのだが、折角時間切れになるほどまで並んで買って来た品物なので、一応審査には回してもらえた。
結果は三位だった。
シュリが見つけて来た『マンガ肉』よりはマシだったが、他の二人が見つけて来たモノほどは……な結果である。
なお、この『マンガ肉』。こうみえて実際は果物らしい。
果物って事は、この『マンガ肉』がたわわに実る木が存在しているのか……想像するだけでシュールな感じがするな。
名前もちゃんとしたものあるようだが、どうみても所謂『マンガ肉』にしか見えないので、勝手にそう呼ぶことにした。
骨っぽく見える部分が枝であり、周りの肉っぽい色合いの部分が果肉となっている。
味は……まぁ多くは語るまい。
四人で持ち寄った中で最下位だったって事で、大体の想像は付くだろう。
食感は良かったんだけどなぁ……。
なお、優勝はアレク君が選んだ麦と豆のスープだった。
俺もマロンちゃんも(一応シュリも)肉系の屋台を選んだ中、一人変化球をつけた彼の作戦勝ちといえよう。
口の中が肉味に染まっている中、優しい感じのスープが染みわたる感じがした。
ちなみに準優勝のマロンちゃんが選んだのは串焼きだった。
こんな所に来てまでも串焼きって……。
もしかしてガロンさんのために、市場調査をしていたのだろうか?
でも、これならガロンさんの串焼きの方が美味かったよな。
この屋台通りの中で一番美味そうな串焼きを選んだらしいんだけど、もっと美味しい串焼きを知っているだけに、評価としては今一つを付けざるを得なかった。
惜しくも準優勝だったマロンちゃんだが、悔しがる様子もなく、むしろ誇らしい顔をしていたな。
自分が選んだモノが負けたのは残念だけど、父親の偉大さを知った事の方が大きかったってことかね。




