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第613話 人形の処遇

「そういえばさ。タナムじゃ普通にグアラティアの銀貨やら金貨、それに大金貨まで使えたんだけど?」


 両替も済ませ、ようやく出発したわけだが、気になったので道すがらシャーロットに聞いてみる。

 パイさんのいた新月亭では塩の情報料とかで大金貨を受け取ったし、その辺の露店やらでも普通に使えたからな。

 ディルマでも向こう(グアラティア)のお金が使えるなら、わざわざ両替する必要も無かったよな?


「ショータ、それは条件が違う。タナムは国境付近の町だが、ディルマはこの国の首都だ」

「首都だと、他所の国の金は使えないって事か?」

「そうではない。首都というのは、国の中心部。言い方を変えれば一番奥まったところにある」


 そうだろうか?

 東京は日本の首都ではあるが、海に面しているし奥まった場所にある印象はない。

 あぁ、でも京都御所とかは内陸部になるのか。


「奥まった場所というのは、他国の者がさほど来ないという場所でもある」

「そんなもんか?」

「あぁ……考えてもみろ。お前がいた世界では様々な移動手段があったようだが、この世界の移動手段といえば、徒歩か馬車つまり陸路が基本だ」


 そこは向こうの世界でも一緒だな。

 歩きか自転車、車ぐらいまでが一般庶民が手に入れられる、自由に使える移動手段だった。

 一部の金持ちであれば、そこから更に自家用ジェットやヘリ、クルーザーなんかも移動手段として含まれるだろう。

 アラブの大金持ちなら、新幹線すら自家用のモノがあったりするのだろうか?


「つまり国境を超えるのも陸路。辺境の町から首都へ向かうのも陸路だ」

「聞くだけで大変そうだな」


 千キロの道のりを延々歩くとか、マジで勘弁だよな。

 馬車にしたって、何日いや何十日かかるかってレベルだろう。

 今更ながら、その距離をわずか三十分で踏破した飛空艇のデタラメっぷりを思い知る。


「あぁ、大変だ。だからこそ、わざわざ首都まで来ようとする者は少ない」

「それとタナムで向こうの銀貨が使えたのと、なんの関係があるんだ?」

「タナムはグアラティアとの国境に一番近い町だからな。交易などもあるから、多くの者がタナムに訪れる。その者たちが買い物する際、一々両替していて商機を逃すこともあってな。その結果、グアラティアの貨幣も通用するようになったんだ」

「ふーん、なんかハワイみたいだな」

「”はわい”とやらは分からんが、そういう事だ」


 日本人が多く訪れるハワイじゃ、有名どころは日本語が通じるのは勿論、買い物だって日本円が使えるらしい。

 俺は行った事ないけど、なんかそんな話を聞いた覚えがある。


 とにかく、国交も樹立して何百年も経っているわけだし、金だけでなく人も入り混じっているのが辺境の町だということだ。

 だからこそ、マウルーでも魔銀貨が通用したし、魔族っぽいシャーロットも普通にマウルーの町を歩いていられたのである。


「話はそれだけか? ならば先を急ぐぞ?」

「いや、どっちかっていうと、その話はちょっと聞いてみたかっただけの疑問で、本命は他にあるんだ」


 二人で話し込んでいたせいか、他の連中にすこし遅れてしまっていた。

 それを見て、シャーロットが話を切り上げてきたわけだが、まだ話が残ってるんだよ。

 ついでに、それとなくマロンちゃんから離れたかったってのもある。


「んーとな。マロンちゃんから人形を預かっているだろ?」

「あぁ、そうだったな」


 今回のディルマ行きに関しては、マロンちゃんからの依頼という事になっており、その依頼料として彼女が大切にしていたターニャちゃん人形を受け取ったんだけど……


「あれ、返せないか?」

「それは……」


 ただ、マロンちゃんがずっと大切にしていて、外出するときは必ず連れていた人形なのだ。

 おそらく彼女にとって、一番の親友であるターニャちゃん人形を、俺が受け取ったままでいいのだろうか?


 ついさっき、着替えも完了し出掛けるぞ! ってなった時、マロンちゃんが少しだけションボリしたのを見てしまったんだよな。

 あれは間違いなく、ターニャちゃん人形を取りに行こうとし、そして俺に渡してしまったことを思い出した顔だった。


 マロンちゃん自身が決めた事だし、こうして依頼を完遂した以上、返す必要は無い。

 無いけど、「それでお前は満足なのか?」と聞かれれば、間違いなくNOだ。

 第一、あの人形を貰った所で、俺には使い道を見いだせない。

 まさかこの年齢でお人形遊びもないだろう。

 それに、いつまでも持っていると、ソッチの趣味があるヤツだと思われそうだしな。

 出来ればサッサと手放したいのが本音なのだ。


 ただ、マロンちゃんの大切にしていた事を思うと、適当に売り払ったり、ましてや廃棄する選択肢は無い。

 一番の理想はマロンちゃんに返す事なんだけど、下手に返そうとすると色々とややこしい気もする。

 単純に返してしまったのでは、マロンちゃんの覚悟とか決意を台無しにするだろうしな。


 一人で考えても名案が浮かんでこないので、こうしてシャーロットに相談した次第である。


「なるほどな……ただな、ショータ。私としては人形を返すのは同意なんだが、あの人形そのものを返すのは少々マズいと思っている」

「……どういう意味だ?」

「あの人形だがな……あれは魔道具だ。それも戦闘用の自動人形(オートマタ)と呼ばれる魔道具に間違いない」

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