第610話 ディルマの休日
「ではもう一日、休みを取るというのだな?」
「あぁ。折角、魔王国の首都にまで来たんだからな。王都見物もしてみたい」
セーレさんをはじめとしたサキュバス一同に、色々と搾り取られた事実は聞かなかった事にする。
搾り取られたというか、出汁を取られたみたいだったけど、とにかく過去は過去。
俺は未来に向かって生きていくのである。
差し当たっては、今日の予定とか。
「他の者もなのか?」
「あーどうなんだろ? 聞いてみるか」
とりあえず手近にいたシュリに聞いてみる。
「勿論、ついて行くっスよ。新しい町には、新しいイベントが付き物っス」
「ゲームじゃないんだがな……。まぁ、マウルーよりかは何かしら起こりそうだけど」
あと、何気について行くって事は、たかる気満々だな?
お前が使った分は、ちゃんとお前の取り分から天引きするから、そのつもりでいろよな?
「アタシ達は、そうね……ベル、どうする?」
「…………」
「あーそうね。もう少しで仕上がる所だったものね。分かったわ、アタシも残るわ」
「ボクは……どうしようかな。ガロン師匠に色々教わりたいけど、新しい土地なら変わった食材とかも見つかるだろうし……」
「アレク。俺ぁ赤ん坊達の事で手一杯だ。それにオメェの言うように、知らねぇ土地ってのは色々と刺激になる。行ってこい」
「……はい、分かりました!」
ふむ……ベルとクレアは居残り、アレク君は王都見物に参加、と。
ガロンさん一家は、マデリーネさんと赤ん坊達は当然として、ガロンさんも傍についているようだ。
アイナ婆さんとアンリ先生の二人は、セーレさんに色々と教えてもらうよう、昨日のうちに話がついている。
となると、意思表示をしていないのは、シャーロットだけだが、彼女はどうするつもりなのかね。
五百年もの間、魔王として君臨していたのだ。
そのお膝元であるディルマの町であれば、目を瞑っても歩けるほど詳しいだろう。
そんな彼女にとって、王都観光など自宅を見回るようなものか。
実際、シャーロットをみると何やら悩んでいるしな。
セーレさんとも話足りないだろうし、彼女も居残り組かね。
それでも一応確認はしておく。
行く気満々だった場合だと、へそを曲げそうだし。
「私か? 私はそうだな……マロンちゃんはどうするつもりだ?」
「まろんはねー、どうしようっかなー」
おっと、シャーロットだけが予定を決めかねてたわけじゃ無かったか。
でもマロンちゃんはマデリーネさんと一緒に居るんじゃないのか?
「うーん……きめた! おねーちゃんといっしょに、あそびにいく!」
「そうか。ならば私はマロンちゃんの護衛だな」
「ごえいー」
護衛付きとはいえ、幼女を見知らぬ町で歩かせていいものなのだろうか?
いや、はじめてのお〇かいだって、カメラマン付きだったか。
一応、俺やシュリ、アレク君も一緒なワケだし、大丈夫だと思おう。
「でもさ、シャーロット。お前、自分で有名人だとか言ってなかったか? それなのに町を歩き回れるのか?」
「ふむ……それがあったか。うーむ……どうするか……」
魔法で変身とかできないのかね。
いや、それが出来るのは魔法少女ぐらいか。
お前の場合、少女と言い張るには、ちと薹が立ってるからなぁ。
あ、違います。シャーロットさんは十七歳です。ハイ。
まぁそれでも、十七歳は少女では無いと思いますけど。
「ふむ……無難にフードでも被っておこうか」
「あらー、それなら私にいい考えがあるわよー」
「いや、大丈夫だ。このフードには認識阻害の効果があってな。こうしてすっぽり被ってしまえば、目立たなくなる」
「あらー。でも、それだと一緒にいる人が寂しくないかしら? ねぇ、マロンちゃん?」
「うーん……マロン、おねーちゃんのお顔見ていた「マロン、実はこのフードはもう一着あるんだ。こうして二人で一緒のフードというのはどうだろうか」い……おそろいだー」
マロンちゃんの言葉を遮ってまでも、セーレさんの名案を受け入れたくないのか。
どんな迷案が飛び出すのか気になる様な、気にならない様な。
だけど俺以上に気になるヤツが居た。
「セーレさんのいい考えって、何だったんスか?」
「んー、そうねー。たとえばこんなのはどうかしら?」
そう言ってセーレさんが取り出したのは、どこぞのサンバカーニバルにでも出場できそうな衣装だった。
試しに、これを着たシャーロットの姿を想像してみる。
褐色の肌にサンバ衣装がマッチしてて、とても似合いそうではある。
でも、それだと余計に目立つんじゃないですかね。
「もちろん、そこは考えているわよー」
そう言って出て来たのは、様々なサンバ衣装だった。
シャーロットのお色直し用、という訳ではなく、他の連中用の衣装らしい。
マロンちゃんの分まであるとは、なかなかの用意の良さである。
「みんなで着れば、ロッテ一人混ざっても目立たないでしょー?」
えーっと……『みんな』の中に、俺は混じっていませんよね? ね?
メイドさんが衣装を持って、俺ににじり寄って来ているのは、ただの気のせいですよね? ね?
「これで分かったと思うが、セーレは基本的に刹那的な快楽を求めるタイプなんだ。普段は真面目にやってるいる分、反動が凄いのだ」
「違うわよー。真面目にやってた方が、こっちに戻ったとき面白いでしょー」
なるほど……サキュバスなだけあって、本質はソッチ系の方でしたか。
アイナ婆さん達が唖然としているようだが、メイドさんズは慣れているようだ。
あるいは彼女達も本性は一緒なのかね。




