第571話 ドローンを選ぼう
「どろーん? 艦載機とやらとは違うのか?」
「うーん……このカタログを見た感じじゃ、艦載機ってのは人が乗れるモノ」
「ほう?」
「で、ドローンは人が乗れないものだな」
「ほう……ならば艦載機の方がいいのではないか?」
おっと、艦載機の方に食い付かれたか。
だが残念。MPの都合上、艦載機の方は選べないのだよ。
今更ながらMPチートを取るべきだったかと、少々後悔。
でも多分MPチートを取ってたら、飛空艇召喚のスキルは取れなかったんだよなぁ。
もし仮に飛空艇を取らずにMPチートを取っていたとしたら、こうしてシャーロットとも出会えなかった未来だってあったかもしれない。
あ、いや。彼女が一緒に行動するようになったのは、飛空艇の事がバレてからだった。
となるとMPチートでは、出会えたとしても一緒に行動するようにはならなかった気がするな。
「なぁシャーロット。俺がもし、この飛空艇を呼び出せなくて、代わりに膨大な魔力を持っていたらどうする?」
「いきなり何の質問だ?」
「いや、俺がこの世界に来た時の事は話しただろ?」
「あぁ、受付の男がどうだとか言ってたな」
「その時にさ。俺が飛空艇召喚を選ばなかったら、俺達はどうしてただろうかって話」
「そうだな……まぁせいぜいフリュトンを一緒に食べて、それで別れただろうな」
あぁそうだった。
彼女が俺と行動を共にするようになったのは、森で俺が仕留めた豚が食いたかったからだった。
そのあとなんやかんやでパーティーを組むことになったんだっけ。
シャーロットはしつこい勧誘を避けるためと言っていたが、そのために俺を選んだのは俺のイケメン力にメロメロになった……のではなく、恐らくというか間違いなく風呂とビールだろう。
特に風呂は朝に晩に入る様なヤツだからな。
こればっかりはMPチートでも対処できなかった事だろう。
「で、その仮定と艦載機と、何の関係があるのだ?」
「ん? あぁそれはな……」
俺の予想、つまりカタログに表示される数字が必要なMPを意味している事、俺のMPでは到底足りない事を伝えると、露骨にガッカリした顔になった。
おい、分かっちゃいるけど、そうもハッキリと顔に出されるとソコソコ傷つくんだぞ?
「そうか……この雲みたいなのに乗ってみたかったのだが……残念だ」
雲? 雲ってあの雲?
艦載機側のカタログに切り替えてみると、確かに雲っぽいものがある。
というか、これって絶対筋斗雲だよな?
しかも某野菜の人が乗ってたヤツ。
色とかフォルムとかそっくりなんですけど。
「シャーロット……その雲はダメだ」
「ダメ……なのか?」
「あぁ、版権とかその辺の関係でもダメなんだが、それ以上にその雲に乗るには資格が必要なんだ」
「資格?」
「あぁ。資格だ」
「その資格が私には無いと?」
「……」
あの雲に乗る資格とは、心が清らかな事。
お前はどうだか分からんが、俺の方は分かりきっている。
俺が乗れないものを、ワザワザ呼び出す道理などない。
まぁこんな風に考えるからこそ、乗れないんだろうけどな。
「ま、まぁどっちにしろ一番安いヤツでも全然足りないんだからな。諦めろ」
「そう……だな……」
うつむいているため、その表情は伺い知れない。
……諦めたよな?
明日の朝練でMP増強の特訓とか始めないよな?
「それより、ドローンだよ、ドローン」
「そう……だな……」
人がテンション上げていこうとしているのに、相変わらずうつむいたまま。
……こっそり特訓の計画とか、立ててないよな?
「えーっと……おっ? 一番安いのならたったの10か」
いや、俺の最大MPが60なんで、1/6使う事になるんだけどな。
艦載機に比べれば手が届くレベルだし、何よりこうしてアゲアゲで行かないと、マジで特訓が始まりそうで怖いのだ。
「な、なぁ。これなんてよくないか? ウチの飛空艇にそっくり!」
カタログには銀色のラグビーボールが映っており、必要MPは50。
もしかして、この飛空艇そのものがサイズダウンしたものなのか?
現在のMPをほぼ使う事になるが、これはこれで面白そうだ。
ちなみに、この『機能:艦載機』。
呼び出し枠は一つだけだが、呼び出す機体は見ての通り、色々と選べるらしい。
その時の気分で、使う機体を変更できるのはありがたいね……その都度MP使うけど。
「いや、ショータ。それはやめておいた方が良さそうだぞ」
「え?」
「この表示を見る限り、そっくりというかそのものにしか見えない。展望デッキらしき部分にタマコの姿も見えるしな」
え? マジ? ……うわっ、本当だ。マジでタマコの姿まである。
よくこんな豆粒みたいなの、見つけたな。
「もしかしたら、本当にこの船自体が呼び出されるやもしれん」
「おぉ、ミニダンデライオン号! ヤベェ! テンション上がる!」
「落ち着け。この船自体が呼び出されるかも、と言っただろう? もしこの予想が当たったらどうなると思う?」
「どうなるって……飛空艇の飛んでいる所が見られる?」
実に贅沢な悩みなのだが、俺は飛空艇が空を飛ぶ姿を客観的に見ることが出来ない。
操縦していなければ外から見ることが出来るのだが、実際に飛んでいる所となると俺が中に居る必要があるからな。
ある意味、乗り逃げの心配がないともいえる。
そんな悩みを解消できるのが、このミニ飛空艇だ。
これがあればダンデライオン号の雄姿を余すことなく見ることが出来よう。
「そうだな。見る事は出来るな。だが、万が一破損した場合、どうなる?」
「どうなるって言われても……」
使ってもいないのに壊れる心配するのはどうかと思います。
ただシャーロットの言うように、もし仮にこのミニダンデライオン号が本物のダンデライオン号とリンクしているとしよう。
それが壊れたとすると……当然、本物の方も壊れる可能性がある?
「……とりあえず一番安いのにします」
「そうだな。それで様子を見るといいと思うぞ」
俺が選べるはずなのに、なぜかシャーロットに決められている件について。
まぁミニ飛空艇云々はともかく、いきなりドカンと使うより、小さいので様子見した方がいいのは確かだろう。
という事で、一番やっすいヤツを選ぶことに……しない!
ふはははは!
せっかくだから俺は赤の扉……もといこのアダムスキー型(MP20)を選ぶぜ!




