第567話 借り物
米も醤油もタマゴも、必要なものはすべてそろった。
後はガロンさんに渡すだけなのだが、その前に探し物の方を済ませよう。
「どうした? 外に行かないのか?」
「ん? あぁ、ちょっと探し物をな……」
「探し物? 何か無くしたのか?」
「無くしたというか、見つかってないというか」
「? どういうことだ?」
「だから――」
シャーロットに未解放の区画が下層にまだある事を伝える。
それを解放すればきっと飛空艇召喚のスキルも上がるはずだし、何より新しい区画がどんなものかを知りたい。
すると彼女は半ば呆れたような顔をしだしたではないか。
そう、その顔はまるで、もっと簡単な方法があるのに、それに気づかない人でも見るかのようだ。
……まんまだな? ほっとけ。
「ショータ……お前の肩に居るのは何だ?」
「なんだ……って、そりゃあタンポポに決まってるだろ」
タンポポは飛空艇内の何処にでも現れることが出来るので、俺が船内に居るときは大抵近くに居る。
まぁたまにタマコと一緒に遊んでいる時もあるが、今はタマコが寝ている時間帯でもあるので、俺の肩で寝ているのだ。
そのタンポポがどうかしたのだろうか?
「そのタンポポだがな……ソイツは何だ? この船のマスコットか? 違うだろう?」
「…………」
「どうした? 正論過ぎてぐうの音も出ないか?」
「……ぐう。じゃなくて、マスコットの概念はこっちでもあるんだな」
「そこか? そこが気になったのか?」
いや、だって気になるじゃん。
どうせ過去の迷い人が伝えたんだろうけど。
まぁそれはさておき、タンポポの事だ。
シャーロットの言うように、タンポポはマスコットではない。
タンポポはガイドフェアリーであり、その本分はダンジョンをガイドすることにある。
つまりは……未解放の区画の在りかを知りたければ、タンポポに聞けばいいって事だ。
いや、俺だって気付いてたよ? 嘘じゃないよ? 本当だよ?
でも、ほら、達成感ってもんがあるじゃん?
山登りだってさ、自力で山頂に辿り着くのと、ヘリコプターやロープウェイで辿り着くの。
どっちが達成感あるかっていえば、当然自力じゃん?
一応、ここまで区画に関しては全部自力で発見してたわけだし、だったら最後まで自力で探したいじゃん?
「む……それはそうかもしれんが……」
「だろ?」
「ん? いや待てショータ。見張り台は私が発見したのではないか?」
「うっ……それは……そうだったな」
くそっ、そう言えばそうだった。
自力でコンプリートは、当の昔に挫折していたんだった。
「いや、お前とタンポポじゃ、全然違うだろ」
「変わらんと思うぞ?」
「シャーロットは、ほら仲間じゃん? 困った時に仲間を頼りにするのは間違ってないじゃん?」
「ふむ……」
「でもタンポポはほら……攻略本みたいな存在じゃん? 答えが全部分かってるから、探す楽しみが無くなるじゃん?」
「その『じゃん』はやめろ」
「分かったじゃ――イテッ」
シャーロットさんや。
なんかムカつくからって、暴力はいけないと思います。
「だが、ショータよ。タンポポはもともとこの船の機能の一つであり、この船はお前のモノなのだろう? であればタンポポに頼るのは結局己の力に頼るのと同じことでは無いのか?」
「うーん……そう言われればその通りなんだけどな……」
気分的なものになるが、この『飛空艇召喚』というスキル。
どうも自力で手に入れたモノじゃないからか、どっか借り物の能力って感じがするのだ。
いや、散々バックドアや床下収納に頼ってるくせに何言ってんだって思うかもしれないけどな。
その借り物感を解消するために、せめて区画の開放、ひいてはスキルアップぐらいは自力でやろうと決めているのだ。
なお、スキルアップ云々は俺の予想である。
今まで上層、中層と区画を全解放したことでスキルが上がったので、多分下層も全解放すれば上がるだろうと思っているのだ。
前回のスキルアップではタンポポが現れたが、今回はどんな機能が解放されるのか。
それもお楽しみの一つだったりする。
「まぁスキルに関してはお前の好き好きだからな。私がどうこう言っても仕方ないか」
「分かってくれたか」
「だが、お前の道楽に付き合う必要も無いな。区画探しは自分の力で頑張るのだな」
「そこは分かってくれなかったか」
元々これは俺一人でやり遂げるつもりだったのだ。
シャーロットの助力が得られなかったのは残念だが、それ以上の感情は抱いたりしない。
……しないんだけど、人が一生懸命探しているのを、ただ黙って見守られるのは、監視されているようで何となく気になるのだ。
手伝ってくれとは言わないが、見てるだけなら他所に行ってくれ、とも思ってしまう。
もちろん、思うだけで口に出さないけど。
しっかし見つけようとすると見つからないものだな。
カーゴルームや倉庫(大、小)に金庫室は既に探索済みで、残ったのは機関部だけ。
だが機関部の船尾側の壁は、船の形状に沿って湾曲している。
中層の時の様に、機関部の先に区画は無い様だ。
うーん……この機関部が一番怪しいと思ってたんだけど、当てが外れたか?
そういえば見えないナニかがあった辺りは、相変わらず見えないままだった。
ここも何か秘密があるんだろうけど、タンポポに聞いても首(?)を傾げられるだけだった。
ガイドフェアリーでも分からない事ってあるんだな。
暫く探し回ったが、全く手掛かりは見つからない。
時間もそろそろヤバそうだし、今日は諦めるかね。
「なぁ、ショータ。ちょっと来てくれ」
そんな事を考えていると、金庫室からシャーロットの呼ぶ声がした。
何だろう? 金庫室は既に調べていた筈だが、なにか新しい発見があったのだろうか?




