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第557話 麺を打とう

「なるほどな。何となくだが分かったぜ」


 ガロンさんは飛空艇から調達した、強力粉・中力粉・薄力粉の三種類の小麦粉を暫くいじっていたが、やがて何かをつかんだようだ。

 いじっていた小麦粉を放置し、厨房の奥へといったん消えた。

 再び戻って来たガロンさんの手には布袋があった。


 その布袋をテーブルに置くと、そのまま袋の中へ手を突っ込むガロンさん。

 終始無言のままなので、そろそろ何をしているのか教えて欲しいものだ。


 だが下手に邪魔をして機嫌を損ねて、ウドン作りが取りやめになるのもマズい。

 ガロンさんの行動を、じっと見守る俺達。

 俺達六人、計12個の目にも臆することなく、袋の中身をゴソゴソしている。


(あれは多分、この宿で使っている小麦粉を確かめているんだと思います)

(なるほどな)


 アレク君が俺の疑問を察してくれたようで、コッソリ耳打ちしてくれた。


(ショータさん、ショータさん)

(なんだ? シュリも何か分かったのか?)


 チョイチョイとシュリが手招きをする。

 何だろう? 彼女もコッソリ教えたいことでもあるのかな?

 愛の告白だったらちょっと照れるな。まぁないけど。

 とりあえずシュリに耳を貸す。


(ふー)

「にょわぁあ!」


 こいつ、人の耳に耳フーしやがった。

 まさかやってくるとは思わず、つい油断して変な声を出してしまった。

 そんな俺のリアクションを見て、クスクスと笑い転げるシュリ。

 ジロリと俺を睨むガロンさん。

 なぜ俺が睨まれる! 冤罪だ!


「アレク、ちょっと来い」

「ハ、ハイ!」


 違った。

 俺を睨んだのではなく、アレク君を見ていただけのようだ。

 ガロンさんのあの風体だからか、ジッと見るだけでも睨まれる様に感じただけか。


「この感触が……」

「はい、なんとなく……」


 二人して白い粉をいじっている。

 アレク君はともかく、ガロンさんが白い粉を手にしていると、なんだかヤバそうなブツを扱ってるように見えてくる。

 まぁ手にしているのは小麦粉で、たぶん感触かなにかで粉の種類を判別しているだけなんだろうけど。


「ショータ。そのウドンとやらは、中力粉で作るのがいいんだな?」

「え? あぁ、はい。そのはずです」


 突然、話を振られて戸惑ったが、もう一度姉の言葉を思い出す。


 ………………

 …………

 ……


 うん、間違いなく中力粉だ。

 でもやっぱり打ち方そのものを思い出せない。

 確かに姉はウドンの打ち方を習ってきたはずのなのに。


 いや、まて。ウチの姉の得意料理を思い出せ。

 レトルトカレーが得意料理だと言い張る姉だぞ?

 そんなヤツがちゃんとウドンの打ち方を覚えてくるか?


 そう、答えは否だ。

 なぜなら結局、姉の打ったウドンを食べた記憶が無いからな。

 つまりは知識だけは仕入れて、腕前までは身に付かなかったってことだ。

 せめて打つところだけでも披露してくれていれば、少しは打ち方を思い出せたというのに。


 まぁいい。

 過去の事を悔やんでも意味がない。

 今を生きる俺達に必要なのは、輝かしい未来だけだ。

 その輝かしい未来のためにも、何とかウドンの打ち方を思い出さなくては。


 とりあえず俺の覚えているウドンの打ち方をおさらいしてみよう。


 1.小麦粉をこねる。

 2.捏ねた生地を足で踏む。

 3.生地を伸ばす

 4.切る

 5.茹でる

 6.食す


 うーん……我ながら適当過ぎる工程である。

 最後のなんか打ち方ですらない。

 かじろうて足踏みだけは覚えていた程度だ。

 ちなみにシュリに聞いてみても、最後の工程以外は一緒だった。

 お互い、当てにならないものである。


「ショータの話を聞く限り、先ずはパン生地を作る要領でやってみようと思うんだが、どうだ?」

「はい、ボクもその方がいいと思います」


 ん? ガロンさんの様子がなんかおかしいな。

 前はもうちょっとアレク君の事を扱き使ってたような気がしたんだが、今はアレク君に意見を聞いているように見えたぞ?


「ふっ、ショータもやっと気付いたみたいね。そうよ、アレクも日々進歩しているのよ」


 それはなんとなく分かるんだが、なぜそれをお前が言うんだ?

 しかも自慢げに。


「いいじゃない、アレクの進歩はパーティー全体の進歩よ」

「はいはい、そうですねー」

「なによ、その気の無い返事は。いい? よく聞きなさい? アレクはね、旅から戻る度にアンタから教わった料理をガロンさんに披露しているのよ」

「へー」

「へーって、もっと驚きなさいよ」

「え? 驚くところなのか?」

「そう言われればそうね。……まぁとにかく、アンタつまり迷い人の料理を覚えつつあるアレクは、ガロンさんからも頼りにされるようになったって事よ」

「そうだったのかー」

「…………」


 う、さすがに今のは棒読み過ぎたか。

 もうちょっといいリアクションを返してやらないとだったか。


 俺達がこんなアホな事をしている間にも、二人の作業は進んでいく。

 中力粉に水を混ぜ、捏ねていく。

 その水はタダの水ではなく、塩水を使っているらしい。


 うーん……それだと麺に塩の味が出るって事だよな?

 俺の食べてた麺に塩っ気なんて無かったと思ったぞ?

 まぁ、二人が迷い無くやってるんで、余計な口出しはしないけど。

 トライアル&エラーで頑張っていただきたい。

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