第552話 空
ちょっと短め。
うむ、ワイバーンの倒し方は分かった。
これでもうワイバーンに遭遇しても安心だね!
……そもそも遭遇したくないけどな!
俺みたいな一般人にとって、倒し方なんぞよりそもそも遭遇しない方法の方が重要だ。
次点として逃げ方かな。
それに倒し方を知ったところで、実践する機会などあるとも思えないし。
なので正直、無駄な時間を過ごした感が半端ない。
勿論そんな事はおくびにも出さず、警備隊の人に講義のお礼を言って詰所を後にした。
さて、シャーロット達はどこかな。
キョロキョロとあたりを見回す。
いた、門の脇にある駐車スペースみたいな場所に馬車が置いてある。
馬車自体はごくごく普通の幌馬車なので、ぱっと見他の馬車と区別はつきにくい。
だが繋げられているのが、他の馬車とは違ってハイドレイクのハマルだからな。
駐車場でよくある「自分の車が見つけられない」なんて事は無いのだ。
「すまん、待たせたな……って、あれ?」
馬車の中はもぬけの殻だった。
部屋もとい馬車を間違えたのかと思ったほどだ。
もう一度、繋がれたハマルを確認する。
デカくて真っ白な特徴から、このトカゲがハイドレイクであることは間違いない。
そして、この町にいるハイドレイクはハマルだけ。
そのハマルが繋げられてるのだから、馬車はウチの馬車に間違いない。
うん、見事な三段論法だな。
となると問題なのは中に誰もいないって事だ。
さすがに置いてけぼりにされたとは、思わないし思いたくもない。
何か全員で馬車を離れざるを得ないような、そんな問題が発生したのだろう。
うーん……それほどの問題なら、俺も向かった方がいいのだろうか?
飛空艇を呼び出すぐらいしか能のない俺でも、いないよりはマシだろうし。
いや、馬車を空にするのもマズいのか。
第一、シャーロット達がどこへ行ったかも分からないしな。
大人しくハマルと一緒に帰りを待つとしよう。
ヒマつぶしにと、ハマルに『お手』の芸を仕込んでいると、ようやくシャーロット達が戻って来た。
なんで馬車を空にしたのか問い詰めたところ、それはそれは大変な出来事があったそうな。
まさしく聞くも涙語るも涙の物語があったような無かったような。
とてもじゃないが語り切れないので丸っと端折る事にする。
というか聞いてて「お前ら、話を盛るならもうちょっと上手く盛れよ」と思うぐらいだった。
なんだよ、危うく世界が滅びる所だったって。
俺がワイバーンの倒し方を教えてもらっている間のわずかな時間で、世界を救って来たとでも言いたいのか?
あーはいはい、某光の巨人なら三分間で地球を救ってますね。そ~ですね。
じゃあトドメは何とか光線でも出したのかね。
ところで、なんでお前が猫を追いかけたら、邪神が復活しかけるのかは、聞いてもいいですかね?
あ、だめ? そこは設定が決まってない?
世界を救って来たなら、その辺の設定ぐらいはちゃんと決めとけよな。
シャーロットの(胡散臭い)冒険譚を聞き流しながら、宿屋へと馬車を進める。
冒険譚についてはアレだ、おおかたシャーロットが猫を追いかけたとかして迷子になって、それを全員で探しに行ったとか、そんな事だろう。
話の後半になればなるほど、辻褄が合わなくなってったからな。
シュリも一緒になって冒険譚を語っていたのだが、お前のその話、どう頑張っても桃太郎だからな?
色々改変してるけど、桃から生まれた時点でアウトだからな?
そもそも話の初めが猫を追いかけてるんだからな?
その辺ぐらいは合わせろよ。
「んー、じゃあ裸足で追いかけた事にするっス」
いや、それはそれで別の話になるからな?




