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第549話 渦巻玉

「つまり、その螺旋もとい渦巻玉になったせいで、あんな爆発が起きたって事か?」

「いや、そんなハズは無いっスよ。夢の中じゃ、せいぜい的を木っ端みじんにした程度っス」

「そうなのか?」

「ここで問答するより、実際やってみた方が早かろう」


 そう言ってシャーロットは巾着袋から幹の真ん中がへし折れた樹を取り出す。

 これって休憩ポイントに生えてたヤツか。

 これを的にしろって事のようだ。


「いくっスよー……てい!」


 野球のボールでも投げるかのように、おおきく振りかぶって渦巻玉を放るシュリ。

 透明なためボールの行方は見えにくかったが、コントロールは良かったようだ。

 ボスッという鈍い爆発音と共に倒れたままの木の幹が吹き飛ばされる。


「確かに威力は上がっているようだが、先程の爆発程ではないな」

「分かって貰えたようで何よりっス」


 一応とばかりに、通常版のエアーボールも撃ってみてもらった。

 こちらは幹の表面を削った程度なので、シュリの放った渦巻玉の威力の程が窺い知れた。

 というか、こんな威力のモノを仲間に向けてぶっ放したのか。


「いや、手前に着弾させて目くらましにするつもりだったッスよ。で、そのスキにハマルの水球をぶつける予定だったッス」

「それがどういうわけか、あの爆発だったってことか」


 改めて渦巻玉が作った跡を見る。

 幹は大きくえぐり取られ、一部は少し黒ずんでいる。

 隣にある通常版と比べれば威力は歴然であった。


 ん? 黒ずんでいる?

 なんで圧縮した空気が爆発しただけなのに黒ずんでいるんだ?

 黒ずむってことは炭化したってことで、要は熱が加わったって事だよな?


「シュリ。その渦巻玉ってファイアーボールみたいに高熱は持ってないんだよな?」

「持ってない筈っスよ」

「だが、ここの部分が黒くなっているだろ? これって高熱によるものなんじゃないか?」

「うーん……単に空気を圧縮してるだけっスからねぇ……」

「いや、空気だって物凄く圧縮すれば熱を持つぞ?」

「そうなんスか?」

「たしかな」


 宇宙からの帰還船が大気圏に突入するとき、船底が真っ赤に熱せられるのは、空気との摩擦によるものではなく、空気が急激に圧縮されることによって生まれる断熱圧縮ってヤツのせいだからな。

 帰還船程の落下速度でなくとも、エアーコンプレッサーのタンクを触ると熱くなっているとか、空気をパンパンに入れた自転車のタイヤが熱くなるのとかも、そういった空気を圧縮したことによる熱らしい。

 つまり空気を圧縮し続ければ、やがて熱を持つのだ。


「でも、そこまで圧縮したつもりはないっスよ?」

「そうなのか……いや、待て。お前、渦巻玉作る時、乱回転を作るって言ってたな?」

「そうっス。そうすると圧縮しやすくなるんスよ」


 シュリの説明で、一つ思い当たったことがある。

 渦巻、つまりは竜巻(サイクロン)。それを使った掃除機の事を。

 吸引力の変わらないただ一つのってフレーズのアレだ。


 あれって厳密に言えば竜巻の様に回転させゴミと空気を遠心分離させるって意味でのサイクロンなんだけどな。

 ただ竜巻には物凄い吸引力があるのは確かだ。


 乱回転を与えた事に依り、エアーボール内に渦が生まれる。

 生まれた渦巻は周りから更に空気を集める。

 通常、竜巻によって集められた空気は中心付近で吹き上げられるのだが、エアーボールの場合はそのまま圧縮される。

 そうやって吸引と圧縮が延々と続けば、やがて熱を持つようになる。

 術者のシュリがその熱に気付かなかったのは、周辺に発散する熱すら吸引していたのかもしれない。


 とにかく、あの見た目に反して、中は物凄い高温だったのではなかろうか?

 そして高温+水で思い至るのは水蒸気爆発だ。

 火のついた油を水で消そうとすると危険だといわれるのは、この現象によるものだ。

 昔、理科の実験で教えられた覚えがある。


「水蒸気爆発っスか……それは気付かなかったっス」

「おいおい、ちょっと前までは中学生だったんだろ? 俺よりかは授業の内容って、覚えてるもんじゃないのか?」

「あたしは文系だったっス」


 義務教育の中学生に、理系も文系もねぇよ。

 まぁ得意科目はあっただろうけど。


「とにかく、あの爆発はお前の渦巻玉による高温と水球によるものだって事だ」

「そうなんスか?」

「論より証拠……と言っても、渦巻玉の高温を証明する方法がないけどな」


 この世界にサーモグラフィなんて気の利いたものは無い。

 いや、ダンデライオン号の視野モードの中に熱源探知があったっけ。

 アレならサーモグラフィの代わりになるのか?


 まぁ何にせよ、渦巻玉と水球を同時に使ってはいけないって事だな。


「うぅ……折角覚えたのに……勿体ないっス」

「いや、同時に使わなければいいだけだろ。単体で使う分には安全(?)なんだからさ」

「それもそうっスね」


 その後、シュリを講師にした渦巻玉講習会が開かれ、シャーロットとクレアも渦巻玉を習得した。

 俺? 俺も頑張ってみたけど、前段階のエアーボールすら無理だった。無念。


 でも、いつかは覚えたいものだ。

 男子たるもの、螺旋〇とか、か〇は〇波とか、波DO拳とか、一度は放ってみたいものだからな。

18/07/30

断熱圧縮についての記述を追加。


 帰還船程の落下速度でなくとも、エアーコンプレッサーのタンクを触ると熱くなっているとか、空気をパンパンに入れた自転車のタイヤが熱くなるのとかも、そういった空気を圧縮したことによる熱らしい。

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