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第545話 マウルー到着?

「さぁ、あとはショータさんだけっスよ」

「うむ、同じ仲間なのだ。遠慮なく呼んでやるがいい」


 いや別に、名前を呼ぶのに遠慮なんてしないけどさ。

 単に気恥ずかしいってだけだし。

 だが言わなくてはいつまで経っても開放されそうにない、この状況。

 観念するより、他に道など無かった。


「えーっと……シユ」

「はいっス!」


 シュタッと手を挙げるシュリ。

 併せて弾むように揺れるロケット(シユ)さん。

 元気があって大変よろしい。


 俺のメンタルは結構削られたが、その姿を見た事で、少しは回復した気がする。


「………………」


 えーっと、なんでシャーロットさんは俺の事をジーっと見つめているんですかね。

 もしかして、自分も呼んで欲しいのか?


「えーっと……シャロ」

「うむ!」


 腕を組み、ふんぞり返るシャーロット。

 両腕に挟まれ、その存在感を強調している褐色スライム(シャロ)さん。

 とってもラブリーである。


 ふふふ……お気付きだろうか?

 本人達を呼んでいると見せかけ、実のところ、それぞれのスライムさんを呼んでいるだけなのだ。

 本人でないから、俺の気恥ずかしさも半減なのである。


 しかも呼ばれた本人は、まさか自身ではなくスライムさんを呼んでいるなんて、思うはずがない。

 まさしくwin-winであると言えよう。


 かくして褐色スライムさんとロケットさんに名前が付いたわけだが、普段はいつも通りの呼び方にしておく。

 それぞれの特徴を生かしたピッタリな名前だからな。

 つまりは当分の間、愛称では呼ばないということで。


「ところでショータ。いい加減、町に着いてもいい頃合いではないのか?」

「シャロさん。そこは愛称で呼びましょうよ」

「シュリ……愛称呼びは特別な時だけだ。普段は禁止」

「えー。今がその特別な時だと思うっスけど……まぁ仕方ないっスね」

「聞き分けが良くて何より。あーっと、何の話だっけ?」

「だから、そろそろ町に着くのではないのか? と聞いている」

「あー、それな」


 実は大分前から町の傍には着いていたのだ。

 船視点で前方を見れば、マウルーの北門が見えているからな。

 だったらなんで到着したことを言わなかったのか?


 シュリに愛称呼びを強要されていたから? それもある。

 それもあるが、それ以前の問題も判明していたため、黙っていただけなのだ。


「なにか問題でもあったのか?」

「とりあえず見張り台に向かうか」


 たぶん、俺が説明するより自分の目で見た方が早かろう。

 そう判断した俺は、二人を連れ立って工房を後にした。

 あ、ちゃんと装備やら道具は片付けたよ?





「あーそういう事っスか。夜は門が閉ざされてるっスか」

「よくよく考えたら、当然っちゃ当然なんだよな」


 言うまでもないが、この世界には人を襲うモンスターが跋扈している世界だ。

 特に夜ともなれば、その暗闇は人にとって不利となる。

 なので危険な夜間は門を閉ざし、守りを固めているのである。


「うむ。通常、夜間は門を閉ざしているな。まぁ緊急な用事か貴族なら、開門も可能だが」

「緊急な用もないし、貴族でもないからなぁ」


 つーかシャーロットよ。

 お前、知ってたなら先に言えよな?

 着いても入れないと分かっていたなら、テオガーでもう一泊してただろうに。


「いや、飛空艇でコッソリ町に潜り込むのだと思ってた」

「さすがに犯罪行為はしねぇよ」


 城壁を乗り越えての侵入は、見つかれば普通に逮捕される。

 見回りの人員を配置してまで警戒はしていないが、それでも城壁なのでソコソコの見張りはいる。


 更に言えば、飛竜など空からの外敵も有り得る為、対空監視も怠っていない。

 船の認識阻害など、ステルス性能は高くなってはいるが、絶対でもないため、見つかるときは見つかるだろう。

 なので、あまりこんな場所で滞空するのもマズいのである。


 そうそう、認識阻害といえば、いつの頃からか、船視点でも町を見ることが出来る様になっていたな。

 この町に初めて来たときは、この距離でも視えなかったのに……なぜだろう?


 城壁に掛けられている認識阻害の魔法の効果が切れたのだろうか?

 いや、そうしたらもっと大騒ぎになってるよな。

 となると、この船の索敵能力的なものが、城壁の認識阻害よりも上になったとか、そんな理由だろう。

 まぁ町の様子が見られるので、特に気にしない事にする。


「コッソリ侵入しないのであれば、どこか見つかりにくい場所に降下して、夜明けを待つぐらいか?」

「それが一番かね」

「はいはーい。だったら、この前行った塩の平原っスか? そこに行きたいっス」

「塩ならまだまだ一杯あるぞ?」

「塩はこの際、関係ないっス。単にもう一回、あの景色を見たいだけっス」

「絶景なんて、一度見れば十分な気もするけど……」

「それは見飽きるほど見た人の台詞っス。あたしは見飽きていないっスから」


 いや、お前。前回行った時、見飽きてトリック写真みたいなことしてただろうが。

 あれ? トリック写真をやったのは、その前、つまりシュリを拾った時だっけ?

 なんか記憶があいまいなんだよな。


 えーっと……あれは天空の鏡だった時の事だから……シュリを拾う前だった。

 シュリが塩の平原に行ったのは、フロードで遊んだ時だけだった。

 あの時はフロードで遊ぶのに夢中になってて、景色を堪能していなかったって事か。


 チラッとシャーロットを見るが特に動揺する様子もない。

 初めの頃、魔の山の話題を振った時の慌てていた彼女は、どこに消えたのやら。

 もしかすると、シュリが目覚めた事で、心のつかえが取れたのかね。


 懸念事項だったシャーロットが気にしてない以上、これに勝る案など無かろう。

 それにあの山の上空は、魔素が薄いので生物が寄り付かない。

 もちろん、野盗や狼なんて居る筈もない。

 つまり外敵に襲われる心配がないって事だ。

 これほど安全な場所も無かろう。


「では進路変更して、塩の平原に向かうとするか」


 俺は船を北へと向けた。

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