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第526話 サクラの行く末

「なん……だと……」


 目標は大きく千本桜でも目指そうとしたのに、モッさんからは無理だと言われ愕然とする俺。


「いいか、よく聞けよ? キルシュのヤツはなぁ、トレント種の割りに攻撃の手段がねぇんだ」

「?」

「考えてもみろ。バオムヴォレは綿を、カスターニエはトゲトゲを実らせて飛ばして来ただろ?」

「あぁそうだな」

「あいつ等の元になったキルシュは何を実らせた?」

「桜の花とサクランボだな」

「サクランボはともかく、花を飛ばされて痛ぇと思うか?」

「……なるほど」


 花びらをいくらぶつけられても大したダメージにはならないだろう。

 それを言ったら綿を飛ばすのだって大した事ない気もするけどな。

 試しに桜の花を飛ばしてみてもらったけど、ただの桜吹雪でしかなかった。


「これはこれで綺麗だけどな」

「綺麗なだけで痛くも痒くもねぇがな」


 キルシュ、というか桜のトレントというのが攻撃手段を持たないのは分かった。

 だが、それと千本桜が無理な事にどんな関係があるというのだろうか?


「キルシュ自身は大昔に勇者から貰った薬の効果と、魔力溜まりが近くにあったおかげで攻撃できなくても何とかなった」


 大昔の勇者っつーか、目の前にいるヤツからな。

 まぁそのあたりは機密事項なので教えたりはしないけど。


「何とかなったっつっても、この辺りの魔素だとキルシュだけで精一杯だ。とてもじゃないが千本もまかないきれねぇ」


 そういってモッさんは唯一の接ぎ木成功例であるサクラちゃん(仮名)を見る。

 まさかサクラちゃん(仮名)まで切り倒そうと考えてるんじゃないだろうな?


「コイツだって、どっかいい場所を見つけてやらないと、下手すりゃ共倒れになっちまう」

「そんなに魔素の量はヤバいのか?」

「ん? まぁ下手すりゃってだけで、そこまでギリギリじゃねぇはずだ」


 それでも増えれば増えた分だけ、必要とされる魔素は跳ね上がる。

 魔力溜まりが近くにあるとはいえ、いつかは限界が来る。

 収入が変わらないのに扶養家族が増えるような、そんな感じらしい。


「キルシュはそれでいいのか?」

『我の仲間……増えた……それだけで……十分……』

「そうか……」


 どんなに頑張っても、自身と同じ花を咲かせるモノが現れる事がなかった今までに比べたら、遥かにマシなんだろう。


「でも、モッさんよ。移動させるっつったって、当てはあるのか?」

「当て? そんなもん、有るに決まってんだろ」


 あるのかよ。

 モッさんの事だから当ても無いのに言ってるのかと思ってた。


「こんだけ綺麗な花を咲かせるんだからな。どこに行ったって引く手あまただろうさ」

「……?」

「トレントとはいえ大人しいし、仮に暴れたところで攻撃手段が花吹雪だからな。引き取り手も安心だろう」

「なぁ、モッさん……まさかコイツ等を誰かに売るつもりじゃ無いだろうな?」

「おいおい、俺がダチの子供を売る様なヤツに見えるのか?」

「違うのか?」


 迷わず頷く。

 金がねぇからと俺達を綿採りに付き合わせるようなモッさんだ。

 珍しい花を咲かせる樹であれば、きっと高く売れるだろうしな。


「ま、まぁこっちだって生活があるからな。多少は手数料を貰うつもりだが……」

「それを世間一般では売るって言うと思うぞ」

「そうかもしれんがな……かといって他にいい案があるわけでもないだろ?」


 う……確かにそれを言われると何も反論できない。

 せいぜい対案として出せるのは、この森にリリースするぐらいか。

 だが攻撃手段を碌に持たないのでは、ただの桜として生きていくしか無い。


 それはそれで良さそうにも思えるが、十分な魔素のある場所を選ばないとすぐに枯れてしまう。

 パッと咲いてパッと散るのが桜の生き様なのかもしれないが、それは花の話であって樹そのものの事ではない。

 多少なりとも手をかける以上、少しでも長生きしてもらいたい。


「つっても、ここまで生長してると移動するのも手間なんだよな……」


 サクラちゃん(仮名)も立派なトレントなので、樹高は目測で三メートルはある。

 当然、マジックバッグには入らないから、移動の方法と言ったら自身の足(?)位しかない。

 あるいは飛空艇に乗せるぐらいか? もちろん乗せないけど。

 サクラちゃん(仮名)はともかく、モッさんに飛空艇の事を教えるつもりはないのだ。


「うーん……まぁ、コイツぐらいなら大丈夫だろ。ダメだったらその時はその時だ」

「左様ですか」


 桜トレントを増やすことはモッさんの願いであって、俺の願いではない。

 サクラちゃん(仮名)には可哀そうな未来になるかもしれないが、モッさんがそう決断するなら、それを尊重するのが俺の決断である。

 まぁどうしても駄目そうなときは飛空艇の設備に取り込んでしまえばいいしな。

 タマゴノキが出来たのなら、桜のトレントだって出来るだろ。


「でもそうなると売り物が無くなるんじゃないのか?」

「オメェも売り物扱いしてんじゃねぇか……まぁそうだな。オメェらの話を聞いた感じじゃ、苗までここで育てて、移動してから魔石と『グロウ』で一気に育てるのがいいのかな」

「いいのかなって聞かれてもな……誰もその答えなんて知らねぇと思うぞ」

「だよな。まぁやってみて、ダメならダメでまた考えるさ」


 増やせる方法は分かったんだしな。

 そうモッさんは締めくくった。

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