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第524話 接ぎ木をしよう

 接ぎ木の作業はその後も順調に進んでいく。

 途中のアクシデントと言えば、ドヤ顔のシャーロットが『グロウ』の魔法を掛け過ぎ、芽からいきなり成体にまで育ててしまったぐらいか。


 幸いと言っていいのかは分からんが、成体となり無事(?)バオムヴォレとなりはしたが、キルシュの説得により襲われることもなく、むしろシャーロットを見るなり綿をポロポロと生らせていたほどだった。

 生まれて即カツアゲされるとか、生まれてくる家間違えたどころじゃないな。


 さすがにこのままでは互いの為にならないと、生まれたバオムヴォレはそのまま森へとリリースされた。

 キャッチ&リリースならぬグロウ&リリースである。

 心なしか逃げるように去っていったように見えたが、彼(?)には平穏な樹生を送ってもらいたいものである。


 まぁ大きなアクシデントはそれ位だ。

 あとはせいぜい、魔素が足りなくなったからとシャワーのバルブを勢いよく捻ったら、捻り過ぎて全員びしょ濡れになったとか、「やっぱりサクランボが食べたいっス」とか言い出したアホの為、キルシュが無理をし過ぎて再び逝きかけたとか、そのぐらいだった。


 ……順調どこいった。


 何はともあれ、どうにか苗と呼べる状態にまで育てることは出来た。

 あとは苗の上の部分をキルシュの枝と挿げ替えるだけである。

 あとはというか、これからが本番だった。


「で、どうやるのだ?」

「どうやるって言われてもなぁ……」


 単純にスパッと切って交換するぐらいしか思い浮かばないが、接ぎ木ってそんなに簡単なものだったっけ?

 なんかテープとかでグルグル巻きにして固定してたような、そんな程度の記憶だ。


「まぁとりあえずやってみよう」


 シャーロットの言う通りだ。

 やらない事には始まらない。

 机上の空論、絵に描いた餅、畳の上の水練とはよく言ったものだ。

 最後のはちょっと意味が違ったか。

 まぁいい。とにかく試してみよう。


「とりあえず苗を切ってっと……」


 剪定ばさみなんて気の利いたモノは無いので、飛空艇の厨房から調達しておいた万能ハサミで切る。

 キッチン用のハサミのような気もするが、万能とついているんだからきっと切れる筈。

 事実、少々手こずりはしたが切れることは切れた。


「んで新芽の方も切る」


 キルシュが用意してくれたのは、新芽と葉っぱ付きの枝。

 新芽だけがいいのか、あるいは葉っぱの身がいいのか。

 どの状態がベストなのか分からないので、初めは両方でやってみる事にする。


 コッチも万能ハサミでバッサリ切る。


「んで、断面同士を合わせる」


 ちょっと苗の方が太かったか。

 まぁ少しぐらいだし、大丈夫だと思いたい。


「って、固定する方法を考えてなかった!」


 マズい。

 なにがマズいって、このままでは断面同士がくっつくまで、ずっと俺が持ってなくてはならない。

 平たい面同士なので俺が手を放してしまえば、そのままずり落ちる。

 トレントの生長速度がどの程度かはよく分からんが、さすがに二~三分って事は無いだろう。

 場合によってはこのまま干物と化してしまう可能性すらある。


 まぁそんな心配は無用なんだけどな。


「安心しろ。要は枝と苗がくっつけばいいのだろう? であればこうして回復魔法で……どうだ?」

「お? おぉ、くっついてる。くっついてるぞ! 魔法ってスゲェ!」


 俺一人で作業しているならともかく、周りにはシャーロット達がいる。

 これだけの手があれば、誰かしら何とかしてくれるものだ。

 固定どころかそのままくっついたのは想定外だったが、まぁ結果オーライとしておこう。


「で、くっついた後は、このまま育つのを待つだけなんだが……」

「任せておけ」


 ジャバジャバとシャワーの水を撒くシュリ。

 水自体も必要だが、魔素も充填しておかないとトレント化出来ないからな。


 シュリの隣ではクレアが粉々にしたコッコゥの骨を撒いている。

 キルシュのお陰で土地の栄養素はたっぷりあるらしいが、すでに一度バオムヴォレを育てているからな。

 念のためにと養分を補給することにしたのだ。

 コッコゥの骨にどの程度栄養があるかは分からないが、気休め程度と思って撒いておく。


 なお、アレク君とベルの二人はこの場にいない。

 二人には昼食の準備を頼んでいるからだ。

 接ぎ木の作業も大事だが、俺達の食事も大事だからな。


 さて、準備は万端。

 あとはシャーロットが再度『グロウ』の魔法を使い、接ぎ木した苗を生長させるだけだ。


「よし、はじめる――」

「おーい」


 さぁやるぞって時になって、森の奥からヒトの声がする。

 誰何するまでもなく誰だか分かるので当然の様にスルー。

 勝手に出てったヤツが今更戻って来た所で、出番などないのだ。


「おーい、って呼んでんだから無視すんなよ!」


 無視ではない。

 ただ眼中にないだけだ。


「シャーロット、始めてくれ」

「いや、いいのか?」

「何がだ? 俺には何も見えないし聞こえない」

「だが……」

「いいから、ちゃっちゃと始めてサッサと終わらせようぜ。いい加減、お腹が減ってきた」

「そうだな!」


 俺の説得(?)により、シャーロットの魔法が発動する。

 先のバオムヴォレが生長した時と同じように、グングン育っていく。

 よしよし、ここまではいい感じだ。

 あとはキチンと桜のトレントになるだけだ。


「あれ? 桜が目的なら、別にトレントにならなくても良かったんじゃ?」

「それは駄目っスよ。キルシュの仲間って事は、そのコもトレントじゃないとっス」

「あぁそうだったな」


 おっと、うっかり目的を見失ってたぜ。

 桜の樹を増やすのが目的ではない。

 キルシュと同じ種類のトレントを増やすことで、ひいてはタマゴノキを増やすのが目的なのだ。


 そんな会話をしている間にも生長は続き、遂には目測三メートルぐらいにまで生長する。

 前回のバオムヴォレの時は、この位のサイズになったあたりでトレントとして目覚めたはずだが、こいつはどうなんだろうか。


 固唾を呑んで見守る俺達。


 青々と茂った葉っぱがワサッと揺れる。

 くっ……やはり失敗か?


 諦めかけたその時、茂った葉を押しのけるように、淡いピンクの花が咲き始める。


 おぉ! なんか開化の仕方が違う気もするが、何にせよ桜の花が咲いた。

 つまり……接ぎ木は成功した!!

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