第51話 お持ち帰り
「ふぅー、食った食った。ご馳走様」
「……ん? ああ、ごちそうさま」
流石にあのサイズのコッコゥを一羽丸ごととなると、お腹もいっぱいになる。カリカリ揚げも売り切れだ。なんだかんだ言って、結局シャーロットもカリカリ揚げはしっかり食ってた。
お腹の調子としては、これといった痛みや吐き気といった症状は出ていない。満腹で腹パンパンなだけだ。
やはり『コッコゥの皮を食べるとお腹を壊す』というのは迷信だったのだろう。ひょっとしたら、コッコゥの皮が美味すぎるので、自重を促すために、そんな言い伝えが出来たのかもな。
そういえば解体した時の骨があったけど、あれってスープの出汁に出来るよな。野菜と一緒に煮込めば鶏ガラスープになる。鶏ガラというかコッコゥガラか。
「さて、メシも食ったし寝るか」
「……ん? ああ、そうだな」
「おっと、その前に歯を磨かないとな。こっちじゃ歯医者なんて無いだろうし」
「ああ、そうだな」
どうもシャーロットの反応が鈍い。酔っているのだろうか? でもジョッキ一杯だけだしなぁ。まぁ弱い人なら一杯でもベロベロになることもあるんだし、そんなもんか。
顔色は……ちょっと顔が赤い程度か。褐色肌だから赤くなりにくいのかもしれない。
「おーい、大丈夫かー?」
「ああ、そうだな」
「そういえば、今夜は泊まるところどうするんだ?」
「ああ、そうだな」
「そんな状態で宿まで帰れるのか?」
「ああ、そうだな」
「もしよかったら、今晩泊まってくか?」
「ああ、そうだな」
「なんなら……その……一緒に寝てやろうか?」
「ああ、そう……れはいかんな」
ちぃぃぃ。微妙に理性が残ってるようだった。いや、冗談だよ? 残念なことなんてナニモナインダヨ?
壊れたレコード状態の彼女はいったん放置し、後片付けをしよう。といっても皿を洗う程度だけど。量もないから五分程度で終わったし。戻ってみると、彼女はとうとうテーブルに突っ伏してしまっていた。
「おーい、起きられるかー?」
「……」
軽くゆすってみても反応がない。強めにゆすっても反応がない。これはあの作戦を再度実行するべきか?
いや、やめておこう。うん、俺は紳士だしな。決して彼女がチラッとこっちを見てるのに気が付いたわけではない。ひょっとして起きてる?
「おーい、ここで寝ちゃうと風邪ひくから、ベッドのあるとこに移動しないかー?」
返事がない。ただの酔っ払いのようだ。
「起きないようだから、運ぶぞー」
とは言ったものの、どうやって運ぶか。ここで「お姫様抱っこ」で運べれば格好いいんだろうけどなぁ。
正直人一人運ぶってのは結構大変だ。彼女がリンゴ三個分の体重だったら楽勝だけどね。
試しにお姫様抱っこしてみたけど、抱えたままではドアを開けることが出来ないっていう、重大な欠点が見つかったし……やる前に気付けよ、俺。
あとは会社の避難訓練で習った、緊急時の人の運び方を思い出したんでやってみようとしたら、彼女が激しく抵抗したんで、あえなく失敗。
ちなみに習ったやり方ってのは、タ〇ーブリッジの掛けられる方が下を向くように抱えるやり方だ。相手の脇の下から自分の頭を入れ、背中に相手をのせ抱え上げる。なんとかキャリーって名前らしい。運ぶからキャリーってのだけ覚えてた。
まぁ無難に肩を貸して歩いてもらうか。
正しくはファイアーマンズキャリーというんだそうです。