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第508話 モッさんの腕前

 モッさんは料理中のため天幕に入ってくるとは思えないが、一応クレア達に見張りをしてもらう。

 床に敷いたベニヤ板にバックドアを呼び出すと俺、シュリ、シャーロットの三人がそこに飛び込む。


 グルンと方向感覚が変わる。

 そういえばこうして必ず床側が下になるのも、飛空艇が持つ重力制御が機能しているおかげなのか。

 そんな益体もない事を考えながらミニキッチンへと向かう。


 ミニと銘打たれている割に、実家の台所よりも広い気もするミニキッチンの床下収納の扉を開く。

 そこにはカップ麺(しょうゆ味)とレトルトカレー、あとはサバ缶が詰まっている。

 そこからカップ麺だけを取り出すと、メニューの変更を試みる。


『MP1を消費し「カップ麺:カレーウドン」に変更しますか? MP60/60』


 よし、イケるな。

 まぁナポリタンも出て来たんだから、カレーウドンぐらい楽勝なのかね。

 YESボタンを押すと、カップ麺の補充をシャーロットに頼む。


 そういえばMPが55から60になってたな。

 ってことはレベルアップしてたのか。

 ステータスも確認したいところだが、モッさんの事を考えるとサッサと天幕に戻った方がいいんだよな。

 まぁ後で落ち着いた時にでも確認するとしよう。


「よし、これだけあれば足りるだろう」


 シャーロットの手には抱えるほどのカップ麺。

 やるだろうなと思ってたが、案の定出せるだけ出した様だ。


 そのうちの半分を受け取ると、ミニキッチンの戸棚に仕舞っておく。

 こうしておけば、いつでも食べることが出来る。

 保存食の正しい使い方といえよう。


 もっとも、シャーロットに仕舞う所を見られているので、いつまで残っているかは少々怪しいがな。

 さすがのシャーロットでも根こそぎ食べ尽くすことはしないだろう……たぶん、きっと。


 残りのカップ麺は持って来たマジックバッグに仕舞い、すぐさま天幕へと戻る。


「おう、メシの用意が出来たぜ」


 バックドアを消すと同じぐらいのタイミングで、モッさんが天幕の中へと入って来た。


 セーーフ。

 慌てて戻った甲斐はあったようだ。

 あそこでステータスを確認していたら、モッさんにバックドアを見られていたことだろう。


「ん? どうした? なんか息を切らしている様だが?」

「いや、なんでもない。それよりメシの用意が出来たって?」

「あぁ。そこのボウズほどじゃないが、俺の腕前もなかなかのもんだからな。メシの仕度位、楽勝よ」


 俺の経験上、自分で自分の事を「なかなかのモノ」と評価するヤツの「なかなか」ほど当てにならないものはない。

 ソースは俺の姉。異論は認める。


「えーっと……これは?」

「ん? イモだな」


 茹でたのか、鍋に入ったままのジャガイモ(皮付き)。


「これも?」

「あぁ、イモだ」


 串に刺し直火で焼いたせいか、黒焦げになったジャガイモ(多分皮付き)。


「まさか、これも?」

「これはコッコゥだな」


 丸焼きにされたコッコゥが火にかけられている。

 ここまでイモ、イモときてたんで、まさかとは思って聞いてみたが、イモを匠の技でコッコゥに掘り出したわけではなかったようだ。


「とりあえず、コッコゥは食べられそうか」

「おいおい、他のもちゃんと食えるぜ?」


 ……。


「……とりあえず、コッコゥは食べられそうか」

「……おいおい、他のもちゃんと食えるぜ?」


 …………。


「…………とりあえず、コッコゥは食べられそうか」

「…………おいおい、他のもちゃんと食えるぜ?」


 もしかして食べる迄、無限ループ?

 チラッと他の連中を見ると、既に諦めたのかコッコゥの丸焼きに手を伸ばしている。


 しまった。

 変にモッさんと会話してないで、サッサとコッコゥに手を付けるんだった。


 なにせ俺達七人に対して、丸焼きコッコゥは一羽だけ。

 均等に分けられればいいが、手を付けた奴から順にむしり取るシステムでは、出遅れた分だけコッコゥにありつけなくなる。


 それだけならまだしも、未だに手を付けられていない茹でイモと焼き………いや焦げイモを勧めてくるモッさんの攻勢をずっと躱していなくてはならない。

 延々とあのループをしていても時間の無駄かと諦め、まだ食べられそうな茹でイモを一つ手に取る。


 なにが手間って、この一々皮を剥いて食べなきゃならない所が、とっても手間なんだよな。

 まぁ黒焦げよりはマシだと思ってるけど。


 その黒焦げイモを手に取るモッさん。

 そうそう、自分の失敗は自分で処理しないとね。

 その黒焦げイモを何故かカマドのヘリにコンコンと当てるモッさん。

 おいおい、茹で卵の殻を剥くんじゃないんだから、それじゃあ焦げたところは落ちないと思うぞ?


 が、俺の予想とは裏腹に、黒焦げ部にヒビを入れると、その後はスルスルと、それこそ卵の殻を剥くかのように黒焦げが剥がれていくではないか。

 出て来たのはツルンとしたジャガイモの表面。

 そのツルンと具合といったら、俺の剥いた茹でイモと見比べると、まさに月とスッポンである。


「へっへー、すげぇだろ? イモの周りにコイツをまぶしておけば、こうしてスルッと剥けるんだぜ?」


 モッさんが見せてくれたのは、白っぽい粉。

 何の粉だかは知らんが、アレをあらかじめまぶしていたらしい。


 クソッ。見た目に騙された。

 黒焦げイモの方に乗り換えたいところだが、それではわざわざ剥いた茹でイモが勿体ない。

 俺に出来るのは剥いたイモをサッサと口に放り込み、黒焦げイモを手に取るぐらいだった。


 なお、茹でたイモも黒焦げイモも、イモは所詮イモだったことを記しておく。

 シンプルに素材の味で勝負だと言えば聞こえは良さそうだが、その実、ただ茹でるか焼いただけだった。

 せめて塩で味付けぐらいはしてほしかった。

 まぁコッソリ塩かけて食ったけどな。

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