第501話 カスターニエってドイツ語で栗って意味らしいよ
「やっと消えたか」
カスターニエが燃え尽きたのは、それから焼く、もとい約二時間ほど後だった。
火葬している間、延焼しないよう見張りつつ昼食を済ませたのだが、食事が終わっても燃えたままだったんだよな。
ようやくと言っていい程時間をかけ、遂にカスターニエの討伐に成功した。
枝葉は完全に焼け落ち、幹も真っ黒コゲだ。
さすがにここまで焼けてしまえば魔物といえど生きてはいまい。
むしろ焼き過ぎて素材になる部分がない位だ。
トレント系の魔物の場合、魔石の他に枝や幹などが買い取り対象になっている。
これらは普通の木材よりも丈夫だったり、何らかの効果があったりするんだとか。
もっとも、ここまで黒焦げになってると、買い取って貰えないらしいがね。
まぁ幹や枝は諦めるとしても、魔石ぐらいは持って帰らないとウコッコゥの二の舞になる。
燃え尽きたばかりで熱いままなのだが、これ以上待ってられない。
シャーロットに魔法で水をぶっ掛けてもらえば、魔石を取るぐらいは耐えられるだろう。
「いや、まだ油断するな。トレントってのは意外と生命力が強い。あの状態でも生きてる可能性がある」
「あんな真っ黒なのにか?」
「あぁ、ああ見えて焼けてるのは表面だけだ。中の方まで焼けてない以上、生きてるものだと思っとけ」
「わ、分かった」
モッさんの忠告に頷く俺達。
アレク君達は心当たりでもあるのか、強く頷いている。
意外だったのがシャーロットも頷いていることか。
物知りな彼女でも、ひょっとして初耳だったのだろうか。
「でもさ、モッさん。この後、どうやってトドメを刺せばいいんだ? もう一回燃やそうにも、燃料はもうないぜ?」
「そりゃあ、こうするしかないだろ」
そういってモッさんはその辺に転がっていた石を拾う。
まさか投石? いやいや、ゴブリンや狼ならともかく、樹の幹なんて硬くてダメージにならないだろ。
そんな俺の懸念は、モッさんの次の行動で解消される。
モッさんは自身のベルトを解くと、それに石を挟み振り回し始める。
ヒュンヒュンと小気味いい音を立て始めるベルト。
そして、ソレは放たれた。
――ドゴッ!
明らかに投石とは違うヒット音。
と同時に焦げた幹の表面が破裂し、中の生木部分が露出する。
かなりのダメージっぽい。
だが、それよりもモッさんの方だ。
あのは攻撃はなんなのだ?
「ん? あぁ、これか? スリングっつって、見ての通り投石器だな。こうやってココんところに石を挟むだろ? でもって……こうやって勢いよく振り回して……投げる」
――ボゴッ!
モッさんの放った第二弾は、狙いたがわず露出した生木部分に直撃する。
――バギィ!
何度目かの投石で、とうとう幹がへし折れた。
スゲェ。
何がスゲェって、その威力もさることながら、その命中率たるや100%だ。
同じところに何度も当てられるモッさんの技術が一番すごかった。
「ま、ざっとこんなもんよ」
モッさんがベルト、いやスリングを腰に巻きなおすと、ウザいぐらいのドヤ顔を見せる。
思わず殴りたくなるほどのドヤ顔だが、それだけの成果を上げられてしまっては納得せざるを得ない。
「つっても、止まってる的だったからあそこまで当てられただけで、実戦だと微妙なんだけどな」
「そんなもんですか」
「あぁ、そんなもんだ。ま、無いよりはマシってとこだな」
それでもあの威力は魅力的だ。
更に言えば安上がりなのもいい。
なにせ弾はその辺の石ころで十分なのだから、投げ放題だろう。
ぜひとも覚えたいものだ。
「お、そうか? いやー、周りの連中はコレの良さが分かってくれなくてな。しまいには魔法の方が楽ですよ、とか言われてガックリしてたんだ」
「あー、それは分かる」
モッさんに張りあったのか、シャーロットが石礫の魔法で同じように幹をへし折って見せたからな。
しかも一撃で。
回転を加える事で貫通力を増したのだ、じゃねぇよ。
お前はもうちょっと空気を読むべきだと思う。
その後、シャーロットの魔法を目撃し凹んだモッさんをなだめるべく、急きょスリング講座が開かれたりしたのはどうでもいいか。
そのおかげでカスターニエは完全に破壊された訳だしな。
あぁ、うん。あの状態でも生きてたっぽいんだ。
モッさんにスリングの投げ方を教わって投げようとしたら、最後っ屁なのか一個だけトゲトゲを放って来たんだ。
俺の放った投石がカスターニエにぶち当たりトドメを刺す代わりに、俺にも最後のトゲトゲがブスッとというかザクッって感じで刺さったんだ。
幸いと言っていいのかは分からんが、最後の力を振り絞ったっぽくて、その弾に勢いはなく、皮鎧に刺さるだけで済んだ。
ただ当たり所によっては大怪我も有り得た訳だし、油断大敵とは正にこの事だろう。
思わぬ反撃にショックを受けた俺を慮ってくれたのか、魔石の回収はアレク君達が担当してくれた。
なので俺は皮鎧に刺さったトゲトゲをじっくり見ることが出来た。
青々としたトゲ。
それが何本、何十本も生えている。
トゲの先は鋭く、刺されば非常に痛そうだ。
まぁイガグリだな。
周りに転がったままのトゲトゲも、よく見ればイガグリだ。
つまりこのイガを割ってみれば、栗が手に入るって事か。
そう思い至った俺は、腰に刺した鉈っぽいナイフでイガを割ってみる。
中から出て来たのは……
「栗は栗でも海の栗かよ!」
寿司屋で出て来そうなぐらい立派なウニだった。




