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第497話 起床

 朝か……。

 ようやく、といった思いで夜明けを迎える。


 シャーロットさんの御厚意でベッドの右半分を提供していただけたのだが、同時に釘も刺されてしまった。

 何かあったら即彼女のストンピングが振ってくると思うと、迂闊に寝返りすら打てない。

 おかげで身じろぎすら出来ず、寝たような寝てないような、そんな朝を迎えることになった。


 その夜が明ける少し前、隣で寝ていたシャーロットがゴソゴソと動き出した。

 お? 遂に来るのか?

 俺から行くのはNGだが、シャーロットからはOKなはず。

 彼女からのお誘いを逃すまいと、浅い眠りで我慢してた甲斐があったのか?


 キシッ。


 とても寝心地のいいベッドでも、人が動けば多少は軋む。

 つまり今の音はシャーロットがベッドで動いた音。

 ひょっとしてホントに逆夜這い?

 夜明けでも夜這いというのかは謎だが、言葉の形にとらわれる必要は無い。

 大事なのは遂に来たって事だ。

 逸る気持ちを抑え、布団の中でその時が訪れるのを今か今かと待ちわびる。


 ギィバタン。


 これは廊下へと向かうドアが開き、閉まった音。

 つまり……逆夜這いpart2である。

 俺のイケメン力が爆発した結果、シャーロットだけでなく、もう一人まで逆夜這いという暴挙を引き起こしてしまったようだ。


 まいったな。

 二人同時にお相手なんてヤッた事ないぞ。

 二人共満足させることが出来るかな?

 まぁとにかく、本能に任せてヤルしかない。


 さらに逸る気持ちを抑え、布団の中で臨戦態勢に入る。


 ……が来ない。

 来るはずもない。

 薄々気づいてはいたが、それでもと一縷の望みを託していた。


 だが、ダメ。

 そんな望みなど、ハナッから無かったのだ。


 先程あったベッドの軋む音はシャーロットがベッドから降りた音。

 ドアの開閉音はシャーロットが出て行った時の開閉音。

 もちろん彼女が出て行くのと入れ替わりで入って来た人物もいない。


 つまり……このベッドには俺一人!

 ひゃっほーい! これで思う存分寝返り打てるぞー!

 そーれ、ゴロゴロゴロー。


 じゃなーい!

 シャーロットが出て行ったって事は、逆夜這いの可能性はゼロになったって事だ。

 こんな所でゴロゴロしてても、彼女が戻って来ることは無い。


 シャーロットの行先など、船視点で確認するまでもない。

 この時間帯なら大浴場一択。

 夕方とかならビールサーバーのある食堂も候補に上がるが、さすがに朝からビールは無いだろう。

 いや、ヤツの場合、コッコゥのカリカリ揚げを肴に、朝からでも平気で飲むんだったか。

 一応船視点で確認したが、やはり脱衣所にシャーロットを示す光点が表示されている。


 ならばどうするか?


 そのコマンドは一つしかない。

 『追いかける』これだけだ。


 追いすがり、混浴を果たす。

 昨日の夜も混浴してただろ、とかは関係ない。

 良いものは何度やってもよいものなのだ。


 俺もベッドから降りると、脱衣所へ向かう為ドアノブに手をかけ――たところで、その手を降ろし再びベッドへと向かう。

 べ、別にシャーロットのストンピングを思い出したわけじゃ無いんだからね?

 ちょっと二度寝したいなーとか、そう思っただけなんだからね?


 すっかり広くなったベッドと、そこに残されたシャーロットの残り香を枕に、大の字になって眠りに落ちるのだった。





「おい、いつまで寝てる?! いい加減、起きろ!」


 二度寝を満喫していると、突然シーツごとベッドから引っぺがされる。

 大の字になって寝てたのに、転げ落ちた今は(アイ)の字状態だ。


 その仕打ちをした犯人は、朝の気怠さなど微塵も感じさせない。

 凛々しくもさっぱりとした立ち振る舞いからすると、朝風呂は満喫できたようだ。

 俺も遠慮した甲斐があったというものである。


「今日の朝練は展望デッキでやるぞ。早く着替えるように」

「あ、あぁ。分かった」


 いや、分かってない。

 昨日の話じゃ、今日の朝練は無しにするんじゃなかったのか?

 ガロンさんの宿と違って、この宿には朝練に足りる十分なスペースがないからとかなんとかで、そんな話になった筈だ。


 訝しみながらも着替えを済ませ、展望デッキへと向かう。

 他の面々は既に集まっており、俺が最後のようだ。


「よし、集まったな。では、シュリ。任せたぞ」

「了解っスー。じゃああたしの動きを真似するっスよー」


 そう言ってシュリは両手を上にあげると、そのまま左右に下ろす。

 シャーロット達もソレを真似る。


「ほら、ショータさんもちゃんとやるっスよ」

「へいへい」


 よく分からんが、一人だけやらないわけにもいかない。

 俺も同じように両手を上げ、そのまま左右に下ろす。


「いいっスねー。クレアっちはもっと背伸びをするように手を上げるッス」

「こうかしら?」

「そうっス。じゃあ次は胸の前で交差させた腕を左右に振るッス。そうそう。で、その時の足はこんな感じに開くっスよ」


 あぁ、うん。シュリのやりたいことがなんとなく分かった。

 つーか、これラジオ体操だ。

 だったら、ちゃんとした動きを教えるべきだろう。


「シュリ。この動きの時は踵を上げるのが正しい筈だ」

「そうなんスか?」

「あぁ、そのはずだ」


 高校の時、授業で正しいラジオ体操を教えてもらったんだから間違いない。

 小学校で覚えたはずなのに、結構いい加減にやってたんだと思い知らされたっけ。

 特に多かったのが、この踵の上げ下げを忘れるパターンであり、俺もソレを注意されたクチだ。


 ただラジオ体操って真面目に全力でやろうとすると、結構な運動になったんだよな。

 さすがに朝から全力でやりたいとは思わないが、教えるなら正しい動作を教えておくべきだろう。


 その後、シュリの間違いを何度か指摘していたら、何故か俺が前に出て見本を見せることになってしまったが、その代わりに正しいラジオ体操を教えることが出来たのだから、よしとしよう。


「ねぇ、このらじお体操のらじおって何のこと?」


 それを正しく伝えることは、俺には難しいかな。

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