第492話 同行拒否
「なぁー、一緒にいこうぜ? な? な?」
「だから、嫌だって言ってんだろ! お前はお前の仕事をすればいいだろうが!」
「それが終わっちまったから言ってるんだよー。このまま戻ったんじゃ物足りなくってさー」
「知らんがな! 素直に帰って、新しい仕事を見つければいいだろ」
「戻ってもトレントの若木みたいな面白そうな依頼。簡単には出てこないんだよー」
うぜぇ! 酔っ払いほどタチの悪い人種はいないとは正にこの事だ。
断って断ってもしつこく一緒にいこうとしたがる。
トレントの若木探索のドコに、ヤツの琴線に触れる要素があったというのだろうか?
謎ではあるが、かといって同行を許可する訳にもいかない。
部外者のコイツが一緒に来る事になれば、飛空艇やバックドアは使えない。
ガロンさん達とコイツでは信用度は天と地ほどあるからだ。
一度世話になったとはいえ、ほぼ初対面の奴の目の前で使う程、考え無しではないのだ。
「俺は役に立つぜー? 嬢ちゃんにバオムヴォレの事は話しちまったが、聞くのと見るのじゃ大違いだからな。実際行った事のあるヤツの案内があった方がいいと思うぜ?」
うっ……確かにそれは正論だ。
場所を聞いただけでキチンと辿り着けるのか? と聞かれれば怪しいだろう。
これから行く森は初めて行く森であり、当然土地勘など無い。
しかも案内する奴がシャーロットでは不安しかない。
「だ、だがモトルナサンにだって仲間がいるだろ? ソイツ等はどうする気だ?」
そうだ。パーティーを組んでいるなら仲間だっている筈。
仕事は終わってるとしても、勝手に離れるわけにはいかないだろう。
これならコイツも諦める筈だ。
逆にパーティーごと一緒にいくとか言い出したら、人数が多すぎるとか言って断ればいい。
この森の歩きやすさは分からないが、十人近い団体が行動するのに向いているとも思えないからな。
「仲間? あぁ、それなら大丈夫。俺はソロなんで、仲間の心配はいらない。安心してくれ」
「なんだ、ボッチか」
「ボッチ? 一人ボッチの事か。ちげーよ。俺様は一匹狼なんだよ」
「言い方が違うだけだろ」
「ちげぇねぇ」
少し遠くを見るような目でコップをあおるモトルナサン。
昔の仲間の事でも思い出しているのだろうか。
ふと、俺もいつか一人ボッチなり、シャーロット達の事をこんな風に思い出したりする日が来るのだろうか。
そんな未来予想図をモトルナサンの中に見てしまう。
「まぁ俺の事はどうでもいいじゃねぇか。それより明日はいつ頃出発するんだ? おススメは夜明け前だな。バオムヴォレ共も寝てる場合が多い。ただ夜行性の魔物が現れるときがあるから注意は必要だ」
「朝早いのはなぁ……って、なんでそんな話になる? お前とは一緒にいかないって言ってるだろ」
「ちっ、バレたか。まぁ他にも手はある」
どうすべ? コイツ、何が何でも付いてくるつもりっぽい。
かといって同行を許してバックドアを封印するのもイヤだ。
あの快適空間を知ってしまった以上、使わないなんであり得ない。
……ヤルか?
おそらくコイツの事だから、明日出発する俺達の後を付いてくるだろう。
堂々とかコッソリとかは分からんが、付いてくる事だけは間違いない。
となると、やはりバックドアを見られるリスクが発生する。
であれば採るべき選択肢は一つだけ。
コイツが来れないようにしてしまえばいい。
バオムヴォレの生息範囲がどの程度なのかは知らないが、後を付けられることなく森に入ってしまえば、追って来れないだろう。
つまりそれまでコイツを足止めできる何かがあればいいワケだ。
一番手っ取り早いのは、キュッと絞めて埋めてしまえばいい。
これなら二度と追って来れない。
というか来れるほうが怖い。
いや、アンデッドとか居るような世界だと、埋めただけでは安心できないのか?
となると燃やすか?
……も、モチロン冗談だよ?
いくらウザいからって、さすがにそれはやり過ぎだ。
人の命が軽い世界だとはいえ、俺までソレに染まりたいとは思わない。
となれば第二案。ふんじばって見つからない所へしまっちゃう。
いささか乱暴だが、アンデッドになるよりはマシだろう。
まぁ多少恨みは買うかもしれないが、背に腹は代えられないしな。
……が、それを実行するには色々と準備が足りていない。
ふんじばる為のロープとかが無いし、しまっとく場所もない。
第一、ソロでバオムヴォレと戦えるようなヤツを、俺一人で縛り上げられるとも思えない。
酔っ払いとはいえ相手は格上。襲い掛かったところで返り討ちにあうのがオチだろう。
ハァ……これだけはやりたくなかったんだが、他に手はない以上、やらざるを得ない。
幸い、と言っていいかは分からんが、金ならある。
いくらでも、って程でもないがコイツを酔い潰せるぐらいは大丈夫だろう。
俺の奢りだと酒を振る舞い、酔い潰し、寝坊させ、さらに二日酔いまで付ければ、俺達の後を付けようなんで思わない筈だ。
俺の懐が痛むことになるが、コイツが付いて来なくなるのでハッピー。
コイツは付いて行けなくなるが、その代わりタダ酒がのめるのでハッピー。
win-winってやつだ。
それとも三方一両損かな? 二人しかいないけど。
一つ誤算があったとすれば、俺が「この前の礼として酒を奢るよ」といった途端、今度はコイツが「今日は俺の奢りだ! ジャンジャン飲んでくれ」とか言い出した事か。
シャーロットのオハジキ無双で盛り上がってた食堂内は、これで一気に最高潮になった。
さっそく樽を持ち出してくるヤツまでいたほどだ。
ヤツは「俺の会計を立て替えてくれんだろ?」と、いけしゃあしゃあとしているが、どうしてくれよう?
とりあえず一発殴っておくか。




