第491話 雄々しく発し璽を棄てるゲーム
「ショータさん。そろそろ時間っスよ?」
「お? おぉ、もうそんな時間か」
フライトシミュレーターで遊んで……もとい訓練していると、いつの間にか夕食の時間になったようだ。
シミュレーターを終了し連れ立って食堂へと向かったのだが、なにやら食堂が騒がしい。
時間も時間だし、酔っ払い同士がケンカでもしているのだろうか?
「おぉー、あの嬢ちゃん。遂に十人抜きだぞ」
「なんて強さだ」
「おい! モトルナさんを呼んで来い!」
「ダメだ。あの人はとっくに負けて、隅っこでヤケ酒中だ」
何だろう? 物凄く嫌な予感がする。
具体的に言うと、どこぞの元魔王様が酒を飲んで大暴れしてる予感がする。
このまま回れ右して部屋に戻りたくなってきた。
「ちょ、ショータさん。どこ行くっスか?」
「いや、ちょっと部屋に忘れ物を……」
「荷物は全部ショータさんのアレの中っス!」
「じゃ、じゃあハマルの様子を見に……」
「ハマルならココに居るッス」
ロケットさんの谷間に埋もれて眠るハマルを見せつける。
くそっ、いいとこで寝てやがるな。俺と代わってくれ。
「ほら、行くっスよ」
そう言って俺の手を取り、スタスタと喧騒の中心、すなわちシャーロットの元へと歩いていく。
当のシャーロットはテーブルの上に置かれたガラスやらキレイな小石やらを弾きまくっている。
「おお! アレぞまさしく伝説のツインシュート!」
「弾けるのは一度きりというルールを拡大解釈し、四本の指それぞれで弾くというあの反則ギリギリのシュートか!?」
「違う。それはショットガンシュートだ。彼女が使っている指を見ろ! ちゃんと人差し指と親指しか使っていない!」
「バカな! ならばなぜ弾かれるタマが二つある!?」
「よく見ろ! 人差し指が弾かれる時、押さえていた親指も弾かれる。それを利用して親指でもタマを弾いているんだ!」
「な、なんだってー」
どうしよう……例のオハジキが大フィーバー中らしい。
なんだか実況と解説のヤツ等まで現れている。
「この中に割って入ってシャーロットを連れ出すのは難しくないか?」
「そ、そうっスね……」
よく見てみれば、この勝負にも勝ったシャーロットは、何かの串焼きを受け取っている。
たぶん勝つと相手から食事を奢ってもらえるとか、そんなルールなのだろう。
つまりアイツの分の食事は必要無いって事だ。
そう結論付けた俺達は、そっと輪から離れ、端っこの騒動に加わらない連中の座るテーブルの隣へと向かう。
いや、騒動に加わらないのではなく、ただ酔いつぶれてるだけっぽい。
しかもよく見たらコイツ、さっき会った詐欺師じゃねぇか。
こんな奴とは関わりたくないので他のテーブルに移りたいのだが、他に空いているテーブルは無く、渋々ながら座る。まぁ酔いつぶれてるし、絡まれたりしないだろ。
「ん? おぉ、なんだ? もうメシの時間か」
と思ってたら、俺達が座った途端に目を覚ましやがった。
これだけ騒がしい中グースカ寝てたんだから、そのままずっと寝てればいいのに。
「いやー負けた負けた。あの嬢ちゃん、つえーな。俺が雄発璽棄で負けたのなんて、何年ぶりかだぜ」
なんかタダのオハジキに、とんでもない当て字がされてる気がするがスルー。
詐欺師とは関わらないのが一番の対処法だからな。
「なんだよー。無視すんなよー。あの夜、散々教えてやっただろ?」
あの夜あの夜って何度も言うけど、お前みたいな詐欺師野郎になんか、一度たりとも会った覚えがない。
よってコイツの話は嘘。つまり聞く必要無し。
「おいおい、魔の山の由来とかダンジョンの話とか色々話してやったのに、すっかり忘れちまったのか?」
魔の山の由来? ダンジョン? なんだろう……なんとなく記憶にあるような……。
アレは確か一年以上前……じゃなくて俺がこの世界に来たての頃、そんな話をしてくれたヤツが居たような……。
「あー! あの時の情報屋か!」
「やっと思い出したみたいだな。そうだよ。あの時散々教えてやったモトルナさんだよ。よくも忘れてやがったな」
モトルナサンさんね。言いにくいけどジョナサンとかでも一緒だしな。今度は覚えたぞ。
「で、そのモトルナサンは、なんでこんな所にいるんだ? 新しい情報でも仕入れに来たのか?」
「新しい情報って……俺は情報屋じゃねぇって言ってるだろ。仕事だよ、し・ご・と。お前らと一緒で、バオムヴォレの綿取りに来たんだよ」
「いや、俺達は綿取りじゃなく、別の目的で来たんだ」
「ほー、この村に綿取り以外で来る用事なんてあったのか。なんか気になるな。ちょっと俺にも教えてくれよ」
「えー嫌だよ」
「いいじゃねぇか、減るもんじゃないだろ? な? な?」
ウザいので逃げたい。でもタイミング悪く食事が来てしまった。
祖母の教えがある以上、食事を残したまま逃げる事は出来ない。
クレア達に助けを求めようにも、「アンタが絡まれたんでしょ? アンタが何とかしなさい」と実に冷たい。
仕方ないので、依頼の内容だけ教えてやる。
それを受けるに至った経緯とかは面倒なんでパス。
聞かれたら守秘義務があるとかで誤魔化そう。
「ほー、トレントの若木とは、なかなかレアなモン要求して来たな」
え? トレントの若木って珍しいの?
ヤベェ。バオムヴォレさえ見つかれば、近くに若木ぐらいいるだろうとか、簡単に思ってた。
こりゃ、何日か覚悟してた方がいいのか?
「なんか面白そうだな。俺もついてっていいか?」
「え? やだよ? むしろ、なんで一緒に行けるとか思ってるんだ?」




