第478話 白銀の旅団
ワープゾーンを無効化し、もう一度アミダクジをやり直した結果、遂にクラン名が決まった。
「本当にこれでいいのか?」
「何よ。アンタが提案した名前なのに、気に入らない訳?」
「そういうわけじゃ無いんだが」
クラン名『白銀の旅団』
これがアミダクジが選んだ結果だった。
何の小細工もない、ただ純然たる結果である。
最後の小細工として、シャーロットが握りつぶしたオレンジの汁を使い、『シャーロット★団』になるよう、あぶり出し出来るようにしていたんだけどな。
俺があぶり出しをしようとする前に、シャーロットによってクラン名の決定が宣言されてしまったのだ。
その時の奴の目は、「お前の魂胆など、お見通しよ」と言わんばかりの目だった。
もし俺があぶり出しをしようとしても、その俺自身がシャーロットの業火により、あぶり出しどころか丸焦げにされるだろう。
そう確信させるだけの目力があった。
そうしてクラン名は『白銀の旅団』となった。
ただ自分で出しといてなんだが、このクラン名には一つ問題がある。
賢明な諸君なら既に察しているであろうが、あえて言わせてもらおう。
『どこに白銀の要素があるんだ?』
これである。
飛空艇から安直に思いついた名前ではあるが、当然のごとく飛空艇の存在は秘密である。
するとどうだろう。
我々六人には、白銀の要素が全くないのだ。
俺の槍は普通の鉄っぽい色で白銀ではない。
地竜の皮鎧も白くはあるが『銀』ではない。
シャーロットの装備が近いと言えば近いが、それでも白銀というよりいぶし銀だろう。
シュリなんて布製のローブと木の杖なので、そもそも金属ですらない。
アレク君は皮鎧とショートソードで、クレアも皮鎧と弓、でベルも皮鎧と斧。
三人揃って同じデザインの皮鎧(中・小・大)だ。
こんな連中の何処に白銀要素があると言えるのか。
名称詐欺もいいところである。
『エチゴヤ』の方がまだマシな気すらある。
越後要素もないけどな。
俺もシュリも越後出身ではないし、シャーロット達は言わずもがな。
ある意味、白銀より遠いか。
いや、元ネタの『エチゴノチリメンドンヤ』は勇者のパーティー名。
元勇者と勇者の卵の二人がいるので『エチゴヤ』の方が要素が多いのか?
……今更だな。
決まった事にグダグダ言ってるのも男らしくない。
クラン名は『白銀の旅団』。
自分で出した名前だ。素直に受け入れよう。
クラン名も無事決まり、本日の会議は終了。
あとは各自自由行動となるのだが、向かう先は皆一緒だった。
シャーロットとシュリは既に一度入っている筈だが、気にしない様だ。
アレク君はアノ日らしいが、普通にクレアに連行されている。
まぁウチの姉も平気で風呂に入っていたし、大丈夫なのだろう……多分、きっと。
まぁその辺はどうでもいい。
一番重要なのは歩くスピードだ。
一番乗りを果たすにはなるべく早く歩きたい。
そうしないと、また侵入者排除に怯えながら入浴することになるからな。
かといってダッシュするのも必死な感じがして、体面が悪い。
それだったら素直に機能を一時停止させたほうがマシだろう。
なのでシャーロットを先頭に、俺は二番手をキープ。
勝負は脱衣所に入ってからだ。
手早く服を脱ぎ、華麗に一番乗りを決めるのだ。
脱衣所に入ると、めいめいが適当な位置で服を脱ぎ始める。
よし、大浴場に一番近いカゴをキープ出来たな。
あとは最速で脱ぐだけだ。
――ガラガラガラ
俺が最後の一枚に手をかけたその時、背後で聞きなれた音が鳴り響く。
思わず振り向いたその先には、金髪褐色な後姿があった(丸出し)。
バカな! なぜお前が先に?!
その答えは、残された彼女の衣類にあった。
いや、正しくは無かったのだ。
褐色スライムさんを守るはずの、その鎧が。
つまりヤツはその一枚分脱ぐ手間を省くことができ、その結果俺をも上回る脱衣力を発揮したのだ。
……って、ただのノーブラじゃねぇか。
くそっ、そうと分かっていればもっとガン見しとくんだった。
毎度風呂場でそれ以上のモノを拝んではいるが、それとこれとは別。
褐色スライムさんの七変化は全て網羅しておきたくなるのが人情ってヤツだ。
シャーロットに先を越されてしまったので、いつも通り無心で入浴を済ませる。
いつも通りなので特に記すことは無い。
せいぜいアレク君が「お湯を汚しては……」と言って、一人でジェットバスの湯船に浸かってたぐらいか。
つつがなく入浴を終え、日課である装備の手入れを工房で行う。
この工房もデカいテーブルとイスそれに棚しかなかったのだが、つい先日、石臼と天秤が新たなインテリアとして追加された。
ただし、買った当の本人が使っている様子がないけどな。
というより、買ってから一度も使っていない。
このままインテリアと化さない事を祈ろう。
ちなみに後でシュリに確認したら「材料が無いのに、出来るわけないっス」とのことだった。
チートスキルといえど、材料自体は必要らしい。
やるべきことを済ませ、あとは寝るばかり。
今日の寝床は久々の寝室だ。
シャーロットがブーブー言ってたが、当然無視。
まぁどうせアイツの事だから、勝手に入ってくるだろうけどな。
その時は報復、いや寝室の使用賃として褐色スライムさんの揉みしだきでもしてやろう。
そんな事を誓いながら眠りについた。




