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第462話 ご飯粒

 落とし穴作戦オペレーション・ピットフォールは順調といってよかった。

 クレアの場所の選定が良かったのか、あるいはゴブリンの鼻がいいのかは分からないが、コッコゥを吊るして暫く待てば、どこからともなくゴブリンが現れ、そして穴に落ちていった。


 どいつもこいつもコッコゥを見つけると警戒しつつも慎重そうに近付き、そして手を伸ばした辺りでズボッと穴に落ちる。

 警戒するぐらいなら諦めるって選択肢も思いつきそうなものだが、そこに至らない辺りがゴブリンのゴブリンたる所以ゆえんなのだろうか。

 まぁ落ちてもらう立場としては楽でいいんだけどね。


 ついでにいえば、落ちる瞬間の顔は凶悪面のゴブリンが物凄く驚いた顔で落ちていく姿を見るのはちょっと面白かった。


 散々警戒したにやっぱりかー、って顔で落ちていくゴブ。

 何が起こったのか分からず、真顔のまま落ちていくゴブ。

 喜び勇んでコッコゥに近付き、そのまま落ちていくゴブ。


 判を押したように穴に落ちていくゴブリンだが、落ち方には微妙な個人差があって興味深い。

 某バラエティー番組にあった、落とし穴に落とす選手権を思い出した程である。


 もしくは罠だけで敵を倒すゲーム。

 アレは落とし穴というより、トラップを繋げる方が面白かったな。

 大物のギミックも組み込んだコンボを成功させるのに、何度もリトライしたものだ。


 とはいえ、落ちてしまえば、あとは作業みたいなものだ。

 突然の罠に混乱しているゴブリンに近付き、槍でブスッとするだけのお仕事です。


 トドメはレベルの低いシュリが担当した。

 パーティーを組んでいれば戦闘しなくても経験値は入るのだが、トドメを刺した奴には少しだけボーナスが入るそうだ。

 いわゆるラストアタックボーナスってヤツだろう。


 とはいえ、明確に数値化されてる訳でもなく、体感でボーナスがあるんじゃね? 程度らしいけどな。

 まぁそれでもあるにはあるんだから、ボーナス分はシュリに回すことにした。

 ゴブリン絶対殺すマン(クレア)あたりは自分でトドメを刺したがるかと思ってたけど、ゴブリンさえ倒せればトドメは誰がやってもいい様だ。

 俺? 俺は他に適任者がいるならワザワザ自分から出しゃばったりはしないさ。


 …………ハイ、嘘です。

 戦ってる最中の流れでならともかく、冷静な状態でトドメを刺すのは無理です。

 クレア達はともかく、シュリまで平然とブスッとやってるのに、情けない事この上ない。


(だいじょうぶ?)


 ゴブリンにトドメすら刺せない俺は、さぞ情けない顔をしていたのだろう。

 バックドア内での昼休憩の時、弁当である肉巻きおむすびを片手に休んでいたのだが、その際、ベルにまで心配されてしまった。

 シュリにも気づかれてたっぽいし、クレアなんか「情けないわね」とバッサリだった。


「あ。あぁ、大丈夫。次はちゃんとやれるさ」


 そうだ。ゴブリンごときで躓いていては、本番である対人戦なんか遥か先だ。

 何のために、この依頼を受けたのか、思い出せ。


 パァンと自分の顔を両手ではたき、気合を入れ直す。

 誰かに頼んだりはしない。

 自分の心は自分でコントロールするものだ。

 決して、今朝の事がトラウマになってるわけでは無い。


 突然、自身の顔を叩いた俺が面白かったのか、ベルがクスクスと笑っている。

 小学校を卒業したてぐらいの少女(一応)に笑われるとか、どうなのよ?


 いや、出会った頃は碌に会話すらしてなかった事に比べれば、少しは気安い関係になれたのだと喜ぼう。


「……」


 ベルは一頻ひとしきりクスクスしてしたのだが、やがてその手を俺に伸ばす。

 何をされるのかと一瞬ビビるが、相手は少女だ。大したことはしないだろうと、大人の余裕を見せる。

 これがシャーロットかシュリだったら、アイアンクロー辺りを警戒してただろうけどな。

 ともあれ、伸ばされたその手は俺の顔面を覆うことは無く、指が頬に触れる程度だった。


「……」

「あぁ、ご飯粒がついてたのか。ありがとな」


 たぶん、顔を叩いた時にでも付いたのだろう。

 いくらクロゲワ・ギューの肉巻きおにぎりとはいえ、そこまでワンパクなお子様ではない筈だ。


「……」


 ベルは指先についたままのご飯粒を眺めている。

 そのままパクッといこうか迷っているのだろうか。

 そこまで食い意地が張ってるとは……あ、張ってるか。シャーロット並みに張ってるな。

 張ってなくても、大食漢なのは間違いない。

 彼女達の分もガロンさんは用意してたみたいだけど、彼女にとってオニギリ二個は食べたうちにも入らない。


 よし、そのままパクッといってしまえ。

 中身はともかく、外見は熊耳美女なベルに「ご飯粒ついてるよ、パク」をやってもらえるのだ。

 これを逃す手はない。


 が、俺に期待を裏切るかのように、ベルは俺を指さす。

 まるで「アンタの魂胆なんか、マルっとお見通しよ」と言わんばかりだ。


「……」


 ちがうな。

 単に俺の分だから、俺が食えと言いたいだけだろう。

 指していた指が、そのままズムっと俺の口に突き刺さった事が、それを証明している。


 不意打ちにビックリはしたが、思わず噛んでしまったりはしなかった。

 ただ、ちょっとペロッとしただけだ。


 ベルもそこで自分の行為に気付いたのだろう。

 慌てて指を引っ込めると、そのまま逃げるように離れていった。

 うーん……ちょっと失敗。

罠だけで敵を倒すゲームは「影牢」といいます。

当時、トラップのみという斬新なアイディアとピタゴラスイッチのようなゲームスタイルに、全ルートを開放するほどはまってました。

PS2で出てたのですが、最近になってPS3やPS4で続編も出てたらしいです。

「カオスシード」と並んで、マイナーだけど面白かったゲームの一つです。

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