第46話 さばき
風呂から上がった俺たちは、食事の用意をするために厨房に向かった。
「うーん、勝手口らしきものはないな」
「どうかしたのか? ここは先程見させてもらったぞ」
「いや、大したことじゃない。じゃあこのブタを捌いてくれ」
「はぁ? 私じゃ上手に捌けないぞ。せっかくの貴重なフリュトンだ。下手にさばいて無駄にしてはいけないだろう。ショータこそ捌けないのか?」
「ムリムリ。コッコゥすら捌けないんだぜ? ブタなんかもっとムリだよ」
「フフン、コッコゥなら、私は捌けるぞ」
そういってドヤ顔をする。チョップくれてぇ。
「いや、ここにはこのブタしかないんだが?」
「コッコゥなら私が狩ってるから有るが……」
そういって例のアイテムバッグからコッコゥを取り出す。
「最悪はそいつが今日の晩御飯だな」
「まぁいいが……。ではこのフリュトンはどうするのだ? 」
「そりゃー、ギルドに……」
「それはダメだ。ギルドに納めたら、私が食べられない」
お前に食わせるとは言ってないんだが……。
「じゃあどうしろと?」
「それはだな…………」
と、彼女はしばらく考える。が、
「どうしようか……」
やはりか。
「俺達じゃダメ、ギルドもダメ、となるとギルド以外に持ち込んで捌いてもらうぐらいか?」
「そうだな、それしか無かろう。だが誰に捌いてもらう? コイツは貴重なだけあって、捌ける人間も少ない」
「ふむ……いや、俺に心当たりがある。明日会うつもりだから、その時聞いてみよう。それでダメだったら諦めてギルドに持ち込むってことで」
多分串焼き屋のおっちゃんなら捌けそうな気がする。俺の塩に反応する程の調理スキルなんだし。
「そうだな。鮮度が落ちるのが少々不満だが、仕方なかろう」
俺のブタのはずなのに、なぜ彼女に決定権があるのだろう。
「そうなると今日の晩飯をどうするかだが……」
「そうだな、ここはひとつ、私が! 私のとったコッコゥを! ショータに振る舞ってやろう! だから私にもフリュトンを食べさせるのだ!」
「いえ、串焼きサンドがあるので結構です」
そういってリュックから串焼きサンドを取り出す。すっかり冷めてしまったな。
できれば温めたいが……お、レンジがある。こいつで温めよう。
『MP1を消費し「機能:電子レンジ」を開放しますか? MP12/18』
まだ半分以上ある。ここはYESだ。しかしファンタジー世界に電子レンジとかアリなのか? まぁここに有るんだから、アリなんだろう。
そうこうしているうちに「チンッ」と聞きなれた音がする。アツアツの串焼きサンドを包みから出せばいい香りが広がる。では早速、
「いただきま~す。あ~ん」
「ぐぬぬ……てい!」
「あ! てめぇ!」
いきなり串焼きサンドが奪われる。しまった、シャーロットが居たんだった。串焼きサンドに気を取られて、すっかり忘れてた。
「むぐむぐ……これは……もぐもぐ……なかなか……ごっくん……なかなかの美味であった」
「あー!! 全部食べやがった!! パイモン以下だぞ!! テメェ、覚悟はできてるだろうな!!!」
今まで生きてきた人生で、初めてと言っていい程の怒り。今の俺は、きっと髪が金色に染まった上に逆立ってるだろう。
「え? あ! ごめ……ごごめんなさい~~~」
どうやら己の仕出かした所業に気が付いたのだろう。慌てて涙目で土下座をする。
「でも、あんな態度取られたから、ホントはちょっと齧ったら返すつもりだったの。でも食べたらアツアツで、すごく美味しくて。気がついたら全部食べちゃってた。本当にごめんなさい。ところでアレってまだあるの?」
土下座とかあるんだと呆気にとられたが、よくよく考えたら、俺がさっき最上級の謝罪姿勢ってことで披露してたんだった。
あと口調がおかしい。今までの偉そうなしゃべりはどこいった。
しかしどうしてくれよう。晩飯を取られた俺の怒りはまだ収まらない。
でもなぁ。キッカケが俺の意地悪だしなぁ。涙目で反省してるようだしなぁ。
ただちゃんと反省してるのかなぁ。微妙に食い意地が見え隠れしてる気がするんだけどなぁ。
「わかった。俺もちょっと意地悪が過ぎてたみたいだし、許すよ……。ただ次は無い。次やったら刺し違えてでもぶん殴るからな?」
「おお、ありがとう。お詫びと言っては何だが、ショータの晩御飯は私が作ろう」
「お? おう」
そういって彼女はニッコリ笑いながら、コッコゥを捌いていくのだった。




