第441話 従魔契約
「えーっと……ベナルトン商会の方ですよね?」
このタイミングで話に割り込んできたんだから、関係者だよな?
いや、ワタクシ共って言ってたぐらいなんだから関係者か。
「ハイ。ワタクシ、当商会の会頭ベナルトンでございます」
関係者も関係者、商会のトップだった。
でも、なんでそんなお偉いさんが、わざわざ俺達の出迎えしてるんだ?
まさかガロンさんみたいに、俺達が上客だとスキルが反応したとか?
実際の所は、別の客を見送ってただけらしいが、それでも会頭自ら出迎えてくれたとか、ちょっとテンションが上がる。
元の世界じゃ社長とか会頭といった企業のトップが、ペーペーだった俺を出迎えてくれるなんて事、絶対無かったせいか、それだけで自分が偉くなれた気になる。
「えーっとっスね……」
「従魔契約するっス」と意気込んでいたはずのシュリも、商会のトップの登場と知ってしどろもどろになってる。
おい元勇者。お前、元とはいえ勇者だったんだから、王様とかもっと上の連中とも付き合いがあったんじゃないのか?
……ふんふん、王様なんて召喚の時に一回見たきりで、あとは世話役の人達としか会ってないから無理?
お前、つくづくいい駒だったんだな。
とりあえずシュリが当てにならない以上、残された道はただ一つ。
シャーロットさん、よろしくお願いします。
俺とシュリが逃げるように一歩下がったため、必然的にシャーロットが前に出る形となる。
それに気づいたシャーロットは「仕方ないな」と少しだけ肩をすくめると、あとは堂々と会頭さんに用件を伝えてくれた。
「なるほど。旅先で手に入れた魔物と従魔契約をしたいと……失礼ですが、その魔物というのは?」
「コイツだ」
そういってシュリを示すシャーロット。
お前、その示し方だとシュリが手に入れた魔物っぽいぞ。
「彼女……では無いですね。あぁ、その胸元に居るトカゲですか」
みろ、会頭さんも勘違いしたじゃないか。
だがソコはギルドから紹介されるほど大きい店のトップ。
すぐにロケットさんに挟まれ、幸せそうにしているハマルに気付いたようだ。
ジッとハマルを見つめる会頭さん。
やけに長く見つめてるけど、ハマルを見てるフリしてロケットさんを見てる訳じゃないよね?
アレは俺の(違います)だから、金貨百枚でも譲れないよ?
「うーむ……なかなか良い魔物を手に入れましたな」
「たまたまだがな」
「当商会へお譲りして頂けたりは……? いえ、もちろん相応の対価を支払わさせていただきます」
そう言って会頭さんが提示した金額は金貨百枚。
相場なのかどうかは分からないが、大金であることに間違いはない。
俺だったら多分売ってる気がする。
シャーロットはシュリを見る。
無いとは思うが、一応飼い主(?)の確認を取るつもりのようだ。
もちろん彼女の答えはNO。
金貨千枚でもイヤっス、とキッパリしたものだった。
「左様ですか。気が変わりましたらいつでもいらしてください」
会頭さんも期待はしてなかったようで、すぐに引き下がる。
まぁ従魔契約をするために来たのであって、売るつもりが無いのは分かりきってるだろうしな。
「では、持ち込みでの従魔契約という事でよろしいでしょうか?」
「は、ハイっス!」
シャーロットに促され、シュリはハッキリと答える。
従魔契約ってのは本人同士の意思確認が必要だそうで、これが出来ない場合は契約自体が無効になるんだとか。
人間の方はともかく、魔物への意思確認なんて出来るのか?
「あぁ、その辺はテイムのスキル持ちが間に入って確認をするから大丈夫だ」
気になったのでコッソリとシャーロットに聞いてみたら、そんな答えが返って来た。
テイムスキルには、魔物と意思疎通も可能なのか。
「畏まりました。では契約をしますので、こちらへ。あぁ、お連れ様もご一緒にどうぞ」
会頭さんに案内され、中庭っぽい所に出る。
なかなか広く、テニスコートぐらいはありそうだ。
「こちらであれば、本来の大きさに戻っても大丈夫でしょう。あぁそれと人払いは済ませてありますので、ご安心を」
「用意がいいな」
「ハイドレイクとの契約ともなれば、人目は無い方がよろしいでしょうから。少々、差し出がましかったでしょうか?」
「いや、助かる。では始めてくれ」
「畏まりました」
そう言って会頭さんはシュリを手招きする。
あれ? テイムスキル持ちが間に入るんじゃないのか?
「ベナルトン殿がスキル持ちなのだろう。ハマルの事を知る者が増えないのは良い事だ」
「秘密がバレるってのは、大抵誰かからの漏洩だからな」
「あぁ、その通りだ」
シュリが契約してる間はヒマなせいか、そんな会話をする俺達。
「意思の確認は問題ない様です。ではハイドレイクを元の大きさに戻していただけますか?」
「了解っス。ハマル、やってやるッス」
「きゅー」
あまり鳴かないハマルだが、身体のサイズを変える時には「きゅー」と鳴くようだ。
その鳴き声と共に、みるみる大きくなっていく。
「あんなにサイズが変わるのに、首輪なんかで大丈夫なのか?」
「いえ、さすがにこれだけ変わってしまうようでは首輪では対応できません」
俺の疑問に会頭さんが回答してくれた。
でも首輪がダメならどうやるんだ?




