第438話 聞きたいこと
「メルタさんは温泉……温かい湯が湧く泉を知ってますか?」
「『おんせん』はちょっと分かりませんが、温かい湯の湧く場所なら聞いたことがあります」
マジか!? 例の火山の情報を聞く前にダメ元で聞いてみたけど、正解だったのか?
「それの場所って分かりますか?!」
思いがけない答えだったせいか、ちょっと興奮気味に聞いてしまう。
だがメルタさんは、そんな俺を気にすることなく、スッと指さす。
その指の示す先は……俺?
「ショータさんが見せてくれた不思議な部屋。あの中に温かい湯の部屋がありました」
確かに大浴場も湯の湧く場所だけど!
俺が聞きたいのは、もっと別の場所の事なんだよ!
そう叫びたい気持ちをグッとこらえ、メルタさんを見つめる。
そんな俺が面白かったのか、フッと笑みを浮かべると俺を示してた指を横にずらす。
その指の先は……壁? ちがう。メルタさんが示しているのはその先だ。
「ここマウルーから馬車で十日ほど進んだ先に、ヘカテウスという山があります。その麓に湯の湧く泉があると聞いております」
「ヘカテウス……その山ってもしかして火山なんですか?」
「そこまではちょっと……」
どうやらそこまではギルドとしても把握していない様だ。
だが、安全を考えれば、火山かどうかも分からない方がいい。
むしろ活火山であれば、いつ噴火するかも分からないのだからな。
温泉に浸かってる最中に噴火とか、マジ勘弁だ。
「その山への地図とかはありますか?」
「無いですね」
無いって、そんなアッサリ言わなくても……少しは考えるそぶりぐらいしてくれてもいいんですよ?
「無いものは無いですから。あぁ、付近の町までなら乗合馬車を乗り継いで行けるはずですよ」
その町までの地図は……無いですか。そうですか。
せめて町の名前だけでも……湯の出る……じゃなくて『ユノテル』ですか。
あ、ハイ。聞きたいことは以上です。引き留めてすみませんでした。
そのままメルタさんは出て行った。
テーブルの上にあった筈の石鹸も、いつの間にか消えていた。
まぁ石鹸一つで温泉の情報が手に入ったんだから、安いものだろう。
「なに? 今度はユノテルって所に行くつもり?」
メルタさんが立ち去った以上、俺達もさっさと応接間から出て行くべきなのだが、クレアがテーブルについたまま、そう聞いてきた。
立ち上がりかけた腰を椅子に戻し、答える。
「今すぐって訳じゃない。でも、そのうち行くつもりかな」
「そう……だったらいいわ」
何がいいのかは分からないし、そもそも俺が行きたくなったら行くのであって、クレアに決めてもらう必要など無い。
まぁ一緒に行きたいなら、連れてってもいいけどな。
「じゃあ、あとは報酬を受け取って、宿に戻るか」
「その前に従魔契約っスよ」
それもあったな。
面倒だからって、後回しにしては……ダメだろうなぁ。
かといって、未だLv2のシュリだけでは色々と不安が残る。
奴隷商にハマルを奪われるとか、あるいはシュリ本人が奴隷にされるとか。
ギルドの紹介があるとはいえ、奴隷を扱うような店が絶対に安全とは思えないしな。
元勇者で迷い人、さらにはロケットさんとハマルを飼いならしてる彼女を狙う輩が現れないとも限らない。
ここは護衛として、俺も一緒に行く方が無難だろう。
「って、シャーロットも行くのか?」
「ショータじゃ護衛にもならんだろう?」
「……それもそうだな」
情けない事だが、所詮俺もLV7。
狙われたら一たまりもないのは俺も一緒だった。
「じゃあ、アタシ達は先に戻ってるわね」
「お先に失礼します」
「 」
クレア達は同行せず、サッサと宿に戻るようだ。
まぁマジックバッグ持ちの俺達とは違って、その背には自身の荷物を背負ったままだし、早く旅装を解きたいのだろう。
報酬の受け取りも各パーティーごとに受け取るので、ここで別れることにした。
「『麗しき暁の旅団』様。報酬の大銀貨五枚です」
といっても、一階でまた会うんだけどな。
クレア達は報酬を受け取り、今度こそ別れた。
「『パレシャード』様。報酬の大銀貨五枚です」
受付嬢から報酬と預けていたギルド証を受け取る。
ちなみに本来の報酬は金貨一枚だったわけだが、ぶっちゃけ船の購入費用だけで金貨一枚使っているので、今回は赤字もいい所だ。
クレアも「アタシ達の分はいいから」と固辞しようとしたが、結局パーティーで山分けにすることにした。
まぁ塩関係のお陰で俺の懐はホッカホカだし、当分の間は遊んで暮らせるだけの金があると思えば、少々の赤字など誤差に過ぎない。
本当はもっとシビアにするべきなんだろうけど、どうも気が大きくなっていけないな。
いっそシャーロット辺りにに金を預けておくべきかね。
「ま、その辺は追々だな」
「そうしたんスか? 急に」
「何でもない。それより奴隷商のとこに行こうぜ」
「そうっスね。あ、でもその前にちょっと聞きたいことがあったっス」
「聞きたいこと?」
「そうっス」
「俺に?」
「そうっス」
「……まぁ、どうぞ」
「ドモっス。聞きたいことってのはっスね……」




