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第436話 すいま

「やっぱ乗らないとダメか?」

「お前だけ歩いて戻る気か?」


 だよな。

 他の五人が船で戻ってるのに、俺一人歩きってただのイジメだな。

 やっぱ俺も乗らないとダメなようだ。


「だったらせめてバックドアだけでも使わせてくれよ」

「少しは船にも慣れた方がいいと思うが……まぁ仕方ないか」


 行きの川下りの時には危うく元気なマーライオンになりかけたからか、船の移動にはちょっと苦手意識があった。

 だからこそ、シレっと墓標のとこで降りようとしたんだけど、やっぱダメか。


 とはいえ普通に川下りした時は駄目だったが、シャーロットの遡上魔法で川をさかのぼってた時は大丈夫だったんだよな。

 もしかしたら今回も平気な可能性もあるが、食後である事を考えれば素直に引きこもっておいた方が無難だろう。


 俺はマジックバッグからベニヤ板を取り出すと船に敷き、さらにバックドアをソコに召喚する。


「じゃあ俺はバックドアに籠るから、あとはよろしく」

「あぁ、任せとけ」


 水に浮かぶ船は専門外だし、酔いやすい俺が居ても邪魔になるだけ。

 サッサとバックドアに引っ込むとしよう。





「で、アレク君はどうするんだ?」

「うーん、ボクはショータさんの言ってたタオルで玉子を巻く練習をしてみます」

「そうか。綺麗なオムレツってのは、何年も練習してやっと出来るらしいし、あまり根を詰めすぎないようにな」

「ハイ!」


 厨房前でアレク君と別れると、俺は一人エレベーターに乗り込み『R』ボタンを押す。

 ただボーっと水上の景色を眺めるのではなく、見張り台で周囲の警戒をしていれば、バックドアに引きこもる理由にもなるだろう。


 見張り台から見る景色は長閑なものだ。

 水辺の割に周囲にモンスターや獣の姿は無く、午後の陽気に誘われてついつい眠気が襲ってくるぐらい長閑だ。


 見張りとはいえ勝手に始めたものだし、別に寝ててもいいんじゃないかと、俺の中の悪魔が囁く。

 眠気を誘う悪魔とか、まさしく睡魔だな。

 なんだか川で個人メドレーをしているスイマーな睡魔(ボーダー水着)の幻まで視えて来た。


 華麗なドルフィンキックのバタフライ。

 かと思ったら大きなストロークの背泳ぎ。

 そこから平泳ぎへを変化し、最後はクロール。


 コッチにも個人メドレーとかあるんだー、と半分寝ぼけた頭ながらも睡魔に抗う俺。

 睡魔のスイマーはクロールから再びバタフライに戻っている。

 バッシャンバッシャンと大きな水音が船内に響く。

 見れば睡魔のスイマーは川を埋め尽くすほど増えており、さながら鮭の遡上シーンのようだ。


 ん? あの赤い縞々のヤツはウォー〇ー? ウ〇ーリーが混じってるのか?

 一瞬しか見えなかったが、あの特徴的な縞模様を見逃すはずがない。

 目を皿の様にしてバッシャンバッシャンやってる睡魔ーどもを見張る。


 バッシャーン


 ひときわ大きな音が鳴る。

 ベルだ!

 睡魔のスイマーに野生を刺激されたのか、マジもんの熊と化したベルの一撃が、赤い縞々(〇ォーリー)にヒットしたのだ。


 突如船上へと引き上げられた赤縞はビチビチと暴れていたようだが、クレアが頭を踏み潰してとどめを刺す。

 その際、「今夜は(ウオ)ーリー鍋よ!」と叫んでいたようだが、食うのか? というか食えるのか?


 さすがに人型を食べるのはイヤだ! と叫んだところで目が覚める。


 夢だった。

 睡魔に抗う俺とはなんだったのだろうか?

 もちろん赤縞の魚ーリーや睡魔のスイマーなど居る筈もなく、先程と変わらない長閑な風景のままだ。

 強いて言えば街道が近くなったかな、ぐらいの変化しかない。


 見張り台の望遠機能を使えば、遠くにマウルーの城壁が見えている。

 もうすぐ到着かな?


『ショータ。そろそろ降りるぞ』

「分かった。アレク君にも伝える」


 流れていた景色が止まると、インターホン経由で到着の知らせがあった。

 結局見張りの意味がなかったなぁ、と反省しつつアレク君と合流する。

 彼は到着したことにも気付かず、一心不乱にフライパンを振っていた。


 こういった努力が出来る人こそ、いつか大成するのだろう。

 俺も槍の練習でもしてた方が良かったか?

 いや、見張りは見張りで大切なお仕事だった筈……寝てたけど。


 船を良さそうな川岸に寄せ上陸する。

 ほとんどバックドア内に居たが、やはりしっかりした地面に降りるとホッとする。

 見れば他のみんなも一様にホッとした表情を浮かべている。

 やはり人は地上から離れては生きてはいけないようだ。


 飛空艇、船ときて最後は徒歩での移動。

 何日かぶりにマウルーの南門をくぐる。

 そのままガロンさんの宿に直行といきたいところだが、先にギルドによって報告を済ませなくてはならない。


 ぞろぞろと六人連れ立ってギルドへと到着する。

 夕方前の一番ヒマな時間帯のせいか、受付嬢も一人だけでギルド内も閑散としている。


 俺は大口を開けたまま、あくびを隠そうともしない受付嬢の前に立ち、依頼票とギルド証をカウンターにのせる。


「えーっと、調査依頼の終了報告に来ました」

「ふわぁぁーあ? あっ。はいはい。終了ですね。しょ、少々お待ちください」


 さすがに目の前に立たれれば気付くのか、慌てた様子で依頼票の処理をする受付嬢。


「えーっとですね。一応、面談というか口頭での報告をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「はい、それは大丈夫です」


 依頼票に描かれた、ウルザラ村の村長さんの終了サインだけでは足りないらしい。

 ギルドとしても何が原因による異変だったのかは把握しておきたいのだろう。

 俺がギルドの職員でもそうする。


 もちろん俺達に否はなく、六人揃って応接間っぽい所へと案内された。

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