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第430話 一炊の夢

「――ちょう。船長。起きてください」


 ユサユサと揺らされる。

 薄く目を開けてみれば水兵服を着たちびっ子が俺を揺さぶっていた。


「んぁ? あぁタンポポか……あれ? いつの間に船に戻ったんだ?」

「? 何言ってるんですか? さっきからソコでうたた寝してたじゃないですか」

「そうか……あれは昔の夢だったか」

「夢、ですか?」

「あぁ。お前がまだその姿になる前の夢だ」


 あれから何年も経った。

 タンポポはこうして人型を取れるようになり、アイツ等の趣味なのか、時折水兵さんの恰好をさせられている。


「で、それを着せたヤツはどうしてるんだ?」

「シュリさんなら、副船長の介添えでお風呂です」

「そうか……」


 あんな身体なんだから、少しは風呂の回数を減らしてほしいものだ。

 一々付き合わされるシュリもいい迷惑だろうに。


「それより、もうすぐマウルーに着きます。リビングの勇者様達にも伝えた方がいいのでは?」

「そうだな……アイツ等にとっても久しぶりのマウルーだしな」

「アイツ等って……今じゃ立派な勇者様御一行なんですから、もうちょっとそれなりの扱いの方がいいんじゃないですか?」

「俺にとっちゃアイツ等はアイツ等だよ。向こうだって、今更それっぽい扱いにしたところで、気味が悪いとか言い出すだろうし」

「そうね。アンタに「勇者さまー」なんて言われても、違和感しか湧かないわ」

「だろ? って、いつの間に来たんだ?」

「いつって、タンポポの船内放送を聞いたんだから、今に決まってるでしょ」


 相変わらずの憎まれ口を叩きながら勇者の嫁一号が登場する。

 それを追うかのように勇者本人とその嫁二号も操縦室に入ってくる。


「すみません、ショータさん」「…………」

「いいっていいって。それよりウルザラ村に寄らなくてよかったのか?」

「村じゃないわ。もう立派な町よ」

「はいはい。で、どうなんだ?」

「寄ってもまた宣伝に使われるだけですから。それにガロン師匠にも例のアレを早く見せたいですし」

「アレなぁ……本当に食えるのか?」

「勿論ですよ。その為にわざわざショータさんの手も借りた訳ですし」

「俺つーかアイツ等の手だけどな」


 俺がやった事といえば、コイツ等を現地に運んだこと位だ。

 討伐自体は彼ら勇者一行とウチの乗組員がバッチリ決めてくれたのだ。

 シュリはともかく、あのアホまで行くとは思わなかったけどな。

 お前だけの身体じゃないんだから少しは自重しろよな。

 まぁ止めても聞くような奴じゃないけど。


「あんな人外魔境の地まで行けるだけでも十分だと思いますよ」

「いや、俺はお前達とは違うからな? 俺は後ろで見守ってただけだし」

「またまたぁ。アレは見守ってたというより、移動砲台ですよ」


 そうともいう。

 アイツ等、船のエネルギーを好き放題使ったからな。

 今までロクに減った事のなかった燃料計に、初めて給油マークが出たし。


「でも大丈夫だったんですか?」

「まぁ本人達は展望デッキで魔法ぶっ放してただけだしな。それにアイツもいいストレス発散になったとか言ってたし」

「二人目でしたっけ?」

「アイツの方はな」


 上の子たちは危険なのでガロンさんの所に預けてある。

 すっかりお姉さんになったマロンちゃんがしっかり面倒見てくれているはずだ。


「お前の方はどうなんだ?」

「ボチボチってところですね」

「子供はいいもんだぞ」

「そうですね。あ、そのことで相談があるんですけど……」

「なんだ? 二人の嫁を持つ先輩としてのアドバイスでも必要なのか?」

「それは大丈夫なんですけど、えっとですね……」

「なんだよ。勇者様の頼みなら大抵のことは聴いてやるぞ」

「ホントですか? よかったー。他の人には頼みにくかったんで、ショータさんがOKしてくれて助かりました」

「で、なにを頼みたかったんだ?」

「ハイ。子供をください」

「? ウチの子たちが可愛くって仕方ないのは分かるけど、さすがにそれは駄目だ。欲しけりゃ自分達で作れよ。嫁なら二人もいるんだし」

「それは頑張ってます。じゃなくて、ボクも子供が欲しいんです」

「だから……って、まさか?!」

「ほら。ボクって両方ある訳じゃないですか。折角だから三人揃って子供を……って思ったんですよ」

「両方あるからってだけで、折角とはならないと思うぞ」

「でも、なかなか相手になってくれる人っていないんですよ」

「だから話を聞けって」

「そこでショータさんです。ショータさんならボクの事を普通に扱ってくれるし、どうせならって思ったんです」

「あぁ、普通だよ。普通に男として扱ってたんだ。だからお前は男としてしか見てないんだ」

「でも、普通にオッパイとか揉んでましたよね」

「それは揉むさ。そこにオッパイがある限り、揉むのが普通だからな」

「じゃあついでに子供もください。女性としての機能もあるから、子作りは普通の事ですし」

「それとこれとは……あ、そうだ。俺には愛する妻が二人もいるんだ。アイツ等は裏切れない」

「あ、その辺は大丈夫です。師匠達には既に許可を取ってあります」

「ΩΩΩ<ナンダッテー!」

「ショータ!」

「いい所に来た! お前、俺を売りやがったな!」

「だってその……最近、相手が出来てなかっただろ? 溜まってるんじゃないかと……」

「それとこれとは別だろ!」

「仕方ないだろ! 可愛い弟子の頼み事なんだ。大丈夫、お前は寝ていればいい。あとは私達がヤるから。な?」

「な? じゃなえぇEEE! お前、夫の俺より弟子の方が大事なのか!?」

「お前の方が大事に決まってるだろ」

「だったら」

「私はお前に、ずっと諦めていた母という存在ににしてもらった。子を産み育てる。それをアイツ等にも経験してもらいたいのだ!」

「それは……」

「大丈夫だ。大人しくしていればすぐに終わる」

「何が大丈夫なんだか、さっぱり分かんねぇよ! って前にも言ったような気がするな」

「お前と出会った頃にそんなやり取りをしたな」

「やっぱりか。ってアレは夢だったんじゃ?!」

「まぁ、ちょっとした若気の至りだ」

「若気って、お前もう五百年も生きてるだろ!」

「ほう……あの時は夢で済ませたが、なんなら実体験してみるか?」

「な、なにをする気だ?」

「なに。慣れれば癖になるらしいからな。安心しろ」

「それのドコに安心できる要素があるんだ?!」

「とにかく、さっさと済ませよう」

「ちょ、やめ……アッーー!」








「……さん。ショータさん。しっかりしてください」

「ひぃ! もう何も出ません! 空っぽなんです!」

「ナニが空っぽなのかは分かりませんが、もう大丈夫です。安心してください」

「安心……? 本当だ。履いてる」

「当り前です」

「大丈夫っスかー? まさか恐怖で気絶するとは思ってなかったっス」

「さすがの聖女の魔法と言えど、精神的なダメージまではフォローできなかったようだな」

「とんだ盲点っス」

「まぁ広める前に確認できたのだ。それはそれでよかったのだろう」

「そうっスね。いい人体実験だったっス」

「人体実験じゃなぇぇえぇeee!」

エイプリルフールネタが無いといったな?

アレは嘘だ。



一応、四月一日以内に投稿すれば大丈夫のはず。

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