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第426話 鬼ごっこ

「さて、私はそろそろ上がるとしよう」

「もうか? はやいな」

「朝は軽く汗を流す程度にしている。あと、今日からはコレの飲み放題の許可が下りたからな」


 そういってグイッとジョッキを傾ける仕草をする。

 朝湯に加え、朝からビールとはなかなかのダメ人間っぷりである。


「それに、あまり長湯をするとお前に襲われそうだしな」

「俺が襲った所で、返り討ちだろうが……そもそも侵入者排除があるんだから……あっ!」


 しまったーーー!!

 俺が先に入ってたんだから、警告も排除も気にする必要無かったんだったーー!!

 千載一遇ともいえるチャンスを無にしてしまうとは、一生の不覚!!


 打ちひしがれる俺を尻目(なお彼女の尻に目は無い。俺が尻に目が無いかはともかく)に、サッサと脱衣所へと去っていくシャーロット。

 プリーズ カムバーック!! ギブミー混浴ー!!


「ん? 呼んだか?」


 脱衣所の扉からひょっこり顔を出すシャーロット。

 願いが通じたかと思ったが、既に着替えは済んでおり、再び入浴する気配など微塵もなかった。


「違ったか。おっと、伝えておくのを忘れたのだが、もう少ししたら朝練を始めるから、そのつもりでな」

「あ? あぁ、分かった。風呂から上がったら仕度するよ」


 気分的には、風呂から上がって直ぐに汗をかくような事などしたくはない。

 だがこれも日課の一つだと諦める。

 日々の訓練があってこそ、実戦の時の力になるのだ。

 この朝練がいつか俺自身を助けるのだと信じている。





 今日の朝練は、塩の平原という広いスペースを有効活用することなった。

 具体的にはマラソンである。

 フル装備に身を固め、更に塩を詰めたリュックを背負い、ひたすら走り続ける。


 ひぃひぃ言いながら走る俺達の背後を、シャーロットが追い立てるように走っている。

 いや、実際追い立てているのだ。

 少しでもペースが遅くなると、石礫が彼女から飛んでくる。

 ペースが遅くならなくても、飛んでくるけどな。


 シチュエーションとしては強敵に敗走し、必死になって逃げているって状態か。

 背負った塩の重りは、負傷した仲間の代わりらしい。


 シャーロットの放つ石礫を躱したり盾で防いだりしながら、ゴールの飛空艇を目指して走り続ける。


「そら、ブレスが放たれるぞ。うまく散開して躱せ」


 その声に振り返ると、追ってくるシャーロットの頭上にデカい水の球が生まれ、そのままこちらに放たれる。


 とっさに横っ飛びしてそれを躱す。


「避けたのはいいが、それは悪手だな」


 転がったままでいた俺の頭上から、そんな声がした。

 見上げればシャーロットの褐色スライムさん(着衣)があった。

 転がっている間に、距離を詰められていたようだ。


「敵に追われている状況で、転がったままでは命取りになる。すぐに起き上がるか転んだまま反撃できるようになれ」


 そうアドバイスをすると、「ペナルティだ」と言って、俺のリュックに塩を詰める。


 この鬼ごっこ。

 鬼であるシャーロットに捕まると重しを増やされるのだ。

 その状態でスタート地点に戻り、再び鬼ごっこが開始される。

 ゴールに誰も捕まることなく辿り着けるまで、これが繰り返されるのだ。


 三周目ぐらいで体力のないシュリとベルが脱落した。

 五周目でクレアがギブアップした。

 七周目でアレク君が朝食の用意の為、戦線離脱した。

 途中、鬼役がシャーロットからハマルに乗ったシュリに交代した。

 シャーロットはへばった俺の回復役にシフトした。


 ハマルに捕まり、ゼーハーと息を切らしているのに強制回復させられ、再度走らされる。

 既に背中のリュックは塩でパンパンだ。


 なぜ俺はこんなことをしてるんだろう?

 鬼ごっこって一対一でやるモンだっけ?

 鬼は交代制なのに、なんで俺は交代できないんだ?

 そんな何故を繰り返しながら、走り続ける。


 走って走って走って……

 走って避けて走って転んで。

 転んで起きてまた走って。


 何も考えず、ひたすら躱す弾く走る。

 視界を広げろ。

 少しでも早く魔法の出かかりを捉えるんだ。


「ショータ。目だけで捉えようとするな! 音や魔力の揺らぎを感じるんだ」


 音? 魔力?

 そんなことで分かるんだったら苦労し……ん?


「そおぉいぃ!」


 左肩に違和感を感じた。

 何かに狙われているような、そんな感覚。

 その感覚に従い、右にステップを刻む。

 その直後、俺の左肩があったあたりを何かが通り過ぎカツンと音を立てた。


「ありゃ? 外したっス」


 今度は右の太ももに違和感。

 左にステップ。


「むむ。ショータさんが何か目覚めたっぽいっス」


 シュリの言うように、おそらくスキルに目覚めたのだろう。

 なんとなくだが、狙われているとソコに違和感を感じるようになったのだ。

 これがあれば背後から狙われても安心だな。


「ほう……どら」


 シャーロットが興味深そうに目を細めたのを概観視が捉えた次の瞬間、左のコメカミに物凄い違和感を感じた。


 咄嗟に左腕に付けた盾で防御すると、ゴッという鈍い音と共に左腕に衝撃が走った。

 おいおい、訓練のレベルじゃない威力だぞ? 殺す気か?


「なるほど……では、これならどうだ?」


 全身を違和感が走り回る。

 あかん……これ、避けきれないヤツや……


 あまりの絶望感に、なぜか似非関西弁が出てしまう。

 せめて少しでも衝撃を抑えようと身を固めるが、ドドドドドドドドドという連続音に、成す術もなく吹き飛ばされる俺だった。

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